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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第三章 中等科1年の夏休み
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ナシウス!

 それからは話が進むのが早かった。パウエルは優れた支配人だからね。撥水性の特許と共に、水着、フロート、ボディボード、ビート板、ビーチサンダルまで特許の申請をしてくれた。

 そして、サティスフォード子爵は、南の大陸から大量に積み込まれていたカラフルな布の販売の契約も交わしたそうだ。これは、私が渡したノートを参考にして、色々と染めた布を見て、パウエルが流行りそうだと決断した結果だ。サティスフォード子爵からアイディア料として40ロームも貰ったよ。やったね! このお金で、ワイヤットとジョージとマシューの新しい服を作ろう。メアリーとエバのは作ったけど、男の人のは後回しにしたからね!


 そして、アーサーとミハイルもノースコートに合流して、毎日遺跡に通っているよ。私は、時々参加する程度だ。ナシウスがフィリップスと一緒に行く日は、ついて行く事もあるけど、やはり夏の遺跡は暑いんだもの。その上、お昼もランチボックスで済ませるから、私の体力はもたないよ。

 だから、午前中は勉強をする子ども部屋と染場で過ごすことが多い。タランチュラの糸を染めようとあれこれ試しているけど、難しい。薄い色にしかならないんだよ! 芯まで染まらないんだよね。もう少し試して駄目なら、この薄い色の糸で刺繍してみよう。

「今日もナシウスは遺跡かぁ!」

 染場から戻ると、サミュエルがナシウスがいないのを愚痴っていた。アンジェラも両親と共にサティスフォードに帰ったので、ヘンリーしかいないから寂しいのかもね。

「ええ、あの子は遺跡に夢中ですわ。でも、お昼には帰ると言っていました。午後からは剣術の稽古なのでしょう?」

 ナシウスは、遺跡の発掘にも興味があるけど、サミュエルやヘンリーとも一緒に過ごしたいので、午前中で切り上げる事もある。ランチボックスを運んできた馬車で帰るのだ。

「そうか! ナシウスは剣術を頑張らないとな!」

 まぁ、ナシウスはサミュエルより下手だけどさぁ、一歳歳下なのを忘れないでね!


「まだナシウスは帰らないのかしら?」

 いつもは遺跡にランチボックスを届けた馬車に乗って帰るのだけど、その馬車も帰っていない。昼に帰ると告げて行った時は、ナシウスを待ってから昼食にするのだ。

「遅いわねぇ。いつもの時間に馬車は館をでたのに……」

 リリアナ伯母様と二人で首を傾げていたら、馬が一頭猛スピードで走ってくる。

「まぁ、あれはフィリップス様ですわね」

「ええ!」

 何だか嫌な予感がするよ! 私は玄関を飛び出した。

「ペイシェンス嬢、ナシウス君がいなくなったのです!」

 身体中の血液がサッと凍った。でも気絶している場合では無い。

「遺跡に行きます! フィリップス様、連れて行って下さい!」

 馬車を用意して貰う暇も惜しい。私はフィリップスの後ろに引き上げて貰い、ぎゅっと抱きついたまま遺跡まで急ぐ。

「北部の執政官の館を二人で調査していたのです。私の従僕も一緒でしたが、ランチボックスを持ってくる馬車が来る頃だからと入り口の方へ行っていて! 後ろにナシウス君がいたのに、振り向いたら居なくなっていたのです」

 ナシウスは勝手に他所に行く子では無い。そして、もし他の場所に行くなら、ちゃんとフィリップスに告げて行く子だ。

「きっと見つけますから、ご安心下さい。私がナシウスを見つけられない訳がありませんわ」

 申し訳ないと泣きそうなフィリップスを宥めながら、北の執政官館跡へと向かう。

「ペイシェンス、来たのか! 私達も探しているのだ!」

 カエサル達、錬金術クラブのメンバーとそれぞれの従僕達も探してくれている。有難いよ。でも、退いて欲しい。

「皆様、最後にナシウスがいた辺りから退いて頂けますか? 私が探します!」

 訝しげな顔をしたが、カエサルが「一旦、退こう!」と命じてくれた。

 私は全神経を集中して、愛しいナシウスの気配を探る。

「エステナ神、どうか、どうか、お願いします!」

 困った時の神頼み! ああ、ナシウスは何処にいるの教えて下さい!

「ナシウス!」

 輝かしいナシウスの光を掴んだ。絶対に離さないよ。魔力の全てを使って、ナシウスを引き寄せる。

 ドン! とナシウスが私の腕の中に現れ、愛しい弟の重みでひっくり返りそうになったのを、フィリップスが支えてくれた。

「ナシウス! 大丈夫なの?」

 抱きしめてキスをするよ。心配して血も凍っちゃった。それにしても、ナシウスに背を抜かされちゃったね。泣きながらも確認したのだ。

「ええ、お姉様! いきなり床が抜けて落ちたのに、すぐに穴は閉じてしまい、困っていたのです。叫んでも聞こえないみたいで、通路を進むべきか悩んでいました」

 うん! 遭難した時は、その場を離れない方が良いんだよ。賢い子で良かった!

「ナシウス、怪我はないの?」

 ずっと抱きしめていたけど、手を放して全身をチェックする。埃まみれだよ。

「綺麗になれ!」生活魔法を掛ける。

「少し脚を挫いていたのに、もう痛くないです! お姉様が治してくれたのですね。ありがとうございます」

 えっ、脚を挫いていたの! 大変じゃない。私は屈みこんで、ナシウスの脚を触って「痛くない?」と尋ねるのに夢中だった。

「おい、どこから突っ込めば良いのか分からないな!」

 ベンジャミンが呆れているよ。えっ、やらかしちゃったかも?

「ペイシェンス嬢の弟君への愛の深さの証ですよ!」

 一緒にいたフィリップスは、ナシウスがいなくなった責任を感じていたから、安心して涙ぐんでいる。良い人だよね。

「ペイシェンスの非常識の追求は、後にして、ナシウスがいなくなった床を調べよう!」

 もう、カエサルときたら、私の非常識って何よ! あっ、でも今回は色々とやらかしたかもね。お姉ちゃん、ナシウスの為ならドラゴンも殺せそうだよ。まぁ、そんな状況にはなりたくないけどね。

「あちらの床が突然抜けたのです。注意して下さい」

 カエサル達が落ちても、全く引き寄せられる気がしない。あれは、ナシウスだから引き寄せられたんだよ。

 ナシウスが落ちたと指さした床の上で、ドンドンとベンジャミンが飛んでいるけど、何も起こらない。

「ナシウス、ここの上に立ってくれ!」

 冗談じゃないよ!

「駄目ですよ。それにノースコート伯爵達も心配されているでしょうから、帰りましょう。お昼を待っておられるし、サミュエルと昼からは剣術訓練をする約束をしたのでしょう?」

 もう二度とナシウスに危険な真似をさせたくない。きっと私の髪の毛も逆立っているね。ぎゅっとナシウスを抱きしめる。

「お姉様、一度ノースコートの館に帰りますが、私も地下に行く仕組みを調べてみたいです。サミュエルには私から説明します」

 ナシウスがそう言うなら仕方ないよ。私も一緒に行くよ。と言う事で、一旦は館に帰る。ランチボックスを持ってきた馬車にナシウスと二人で乗る。

「お姉様はどうやって私を見つけたのですか? そして、どうやって地上へと助け出して下さったのですか?」

 ナシウス、それは私にも分からないよ。

「私の愛しい弟が何処にいるか、真剣に捜したのですよ。そして、貴方の光を見つけて、それを掴んで引き寄せただけですわ」

 言葉にすれば、こうなるよね! ナシウスの灰色の目がまん丸だよ。

「それに私の脚の捻挫も治して下さいました。光の魔法でしか治せないと思っていましたが……捻挫は怪我だから風や水でもできるのかな?」

 魔法学の予習もしているみたいだね。私の生活魔法は少し変だから、それに拘ると落第しちゃうよ。ちょっと方向を補正しておこう。えっ、誤魔化す? そうとも言うね。

「火事場の馬鹿力なのかしら? それともエステナ神の御加護なのかも。エステナ神に真剣に祈りましたから」

 ナシウスはびっくりしたみたい。グレンジャー家は信心深くないからね。

「エステナ神の御加護ですか……これからは私もエステナ神に祈ります」

 おおっと、そんなに真剣に取らないで!

「それは、本当にナシウスを心配したからでしょう。普段は、私もさほどエステナ神に祈ったりしていませんわ」

 良い加減な宗教だった前世の影響だよ。無信仰ではないけど、薄いんだ。

「そうなのですね」なんてことを話しているうちにノースコート館に着いた。

 あっ、サミュエルが玄関から飛び出して来た。身体強化のヘンリーなんか空を飛んでいるように見えるよ。怪我しないでね!

「ナシウス、心配したぞ! 大丈夫なのか?」

 サミュエルが声をかける横で、ヘンリーが飛びついているよ。わぁ、ナシウス、よく受け止めたね。私なら一緒に倒れているよ。

「お兄様! ご無事で良かったです!」

 本当に無事で良かったよ。まぁ、脚は捻挫していたみたいだけど、生活魔法で治っちゃったしね。『綺麗になれ!』で捻挫が治るものなのかな? 確かに、私はもう一度教会で能力判定を受けた方が良いのかもしれない。金貨1枚が勿体ないけどね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大発見。 [気になる点] ナウシスは風属性オンリーのはずだけど、後天的に変化しうるなら生活も生えてきてるのかな? それともペイシェンスの加護が……? (ちょっとあとの話からの読み直し)
[気になる点] 雨具のマントやテント、荷馬車の幌はアイディアとして出てきているけど、特許の申請をしないのは試作品を作っていないからかな? [一言] 毎日更新を楽しみにしています
[一言] 生活魔法の領域を超えた生活魔法になってますね。 鑑定結果が出るのが楽しみです。 貴族の全体を見ていると生活力が非常に乏しい感じなので イメージできる力が弱すぎたのかなと予想したり。
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