表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第三章 中等科1年の夏休み
191/755

カザリア帝国の遺跡調査!

 先触れが来たので、もうすぐカエサル達が着く。フィリップス達も何処かの街道で合流するだろうから、ほぼ同時に着きそうだ。

「サミュエルは知らない先輩達だろうけど、とても優秀な方達なので仲良くしてね」

 中等科1年と2年なので、サミュエルとは直接的な関係はない。その上、クラブも違うからね。

「父上から言われたので、分かっているよ」

 ノースコート伯爵は、跡取りのサミュエルに折にふれて貴族の心得を話しているみたい。うちの父親にはその辺が期待できないので、少し羨ましいよ。その分は、私が頑張って弟達に教えるしかないのだけど、ペイシェンスも子どもだったし、私は異世界の貴族の常識が不足している。でも、何とかしよう!

 私が拳を握りしめているうちに、カエサル達が着く。

「ようこそ、ノースコートへ」

 わぁ、満面の笑みでノースコート伯爵夫妻が、カエサルとベンジャミンを出迎える。

「こちらこそ、ご招待して頂き、ありがとうございます。私はカエサル・バーンズです。ノースコート伯爵夫妻、宜しくお願い致します」

 こんな時のカエサル部長はバーンズ公爵家の嫡男として隙のない態度だ。ベンジャミンも同じ事をしているが、興味はカザリア帝国の遺跡に向いているのがあからさまだよ。

「ペイシェンス、あそこに見えるのがカザリア帝国の遺跡なのだな!」

 わぁ、サミュエルとの挨拶が済んだ途端に、ベンジャミンがはしゃぎだす。

「ベンジャミン、未だブライスやフィリップスが着いていない。少し待って、一緒に行こう」

 カエサルが落ち着かせ、リリアナ伯母様が笑顔で居間へと誘う。

「おお、アイスクリームだ!」

 ベンジャミンは相変わらずのマイペースだ。まぁ、お陰で皆も気分がほぐれたよ。

「これはバーンズ商会で購入したのだが、錬金術クラブで作ったそうですな」

「ええ、ペイシェンスのアイディアで作ったのです」

 ノースコート伯爵とカエサルが話している間、ベンジャミンはアイスクリームを食べ終わり、カザリア帝国の遺跡について私達に質問してくる。

「あの魔道船の壁画は、どの程度の緻密さで描かれているのだ?」

 私は、彼方では伯父様とカエサル部長が社交的な話をしているので、簡単に答える。普通は年下の者はあまりサロンでは話さないのがマナーなのだけど、ベンジャミンは気にしないみたいだ。

「あの絵に描いた通りですわ。壁画の保存状態はとても良いです」

「そうか!」

 ベンジャミンは一刻も早く見に行きたいみたい。まぁ、ブライスとフィリップスもじきに着くよ。先触れは来たんだから落ち着きなよ、と言いたいのをお淑やかに我慢しておく。錬金術クラブでなら言っていたかもね。

 何とかベンジャミンが「先に行く!」と言い出す前に、ブライスとフィリップスが着いた。やれやれだ。

 ブライスは魔法使いコースを取っている学生とは思えないほどの良識派だし、フィリップスも私を嬢呼びする程の紳士だから、2人のマナーは心配いらない。

「おう、遅かったな! さぁ、カザリア帝国の遺跡に行こう!」

 ベンジャミンはもう少し礼儀正しくした方が良いよ。きっと、フォローに疲れたカエサルに両親に言いつけられて、秋学期からは文官コースも取って勉強する羽目になりそう。

「まぁ、カザリア帝国の遺跡は逃げたりはしませんが、それが目的で来られたのですから見学に行かれたら良いでしょう」

 ノースコート伯爵もこれ以上はベンジャミンを抑えられないと思ったみたい。皆でカザリア帝国の遺跡に行くよ。

 カエサルの馬車にベンジャミンとブライスとフィリップスが同乗し、私はサミュエルと弟達とアンジェラと一緒だ。

「何だか、ベンジャミン様は変わった方だな」

 サミュエル、それは言わないで欲しかったよ。

「きっとカザリア帝国の遺跡が見たくて仕方なかったのよ」

 一応、クラスメイトだし、同じクラブメンバーだからフォローしておくよ。

「お姉様は、学年を飛び級されて彼等とクラスメイトなのですね」

 ナシウスは、私が中等科だとは知っていたが、実際にクラスメイトの男子学生と一緒にいるのを見て、やはり驚いたようだ。マーガレット王女は私より背が高いけど、男子学生達みたいに威圧感は無いからね。

「ええ、ベンジャミン様とブライス様は魔法使いコースでお世話になったわ。それに錬金術クラブでも一緒ですし。フィリップス様は文官コースでとても親切にして頂いているの。歴史研究クラブに入っておられるから、今回の壁画にも興味を持たれるのでは無いかと、お手紙を送ったのよ」

 サミュエルは賢明にも口を閉ざしていたが、私が魔法使いコースと言った時に片眉を少し上げた。やはり、魔法使いコースの評判は、上級貴族には相応しく無さそうだ。

「では、フィリップス様は文官コースなのだな」

 その確認の仕方は、3人の魔法使いコース選択、尚且つ変人の集まりと思われている錬金術クラブのメンバーには、あまり近寄りたく無いみたいに聞こえるよ。

「でも、お姉様も魔法使いコースの授業を履修されているのでしょ。それに錬金術クラブだし!」

 ああ、ヘンリーの純粋な言葉が胸に突き刺さるよ。変人確定に聞こえる。


 私は何回目かだけど、カエサル達は初めてなので、防衛壁がかなり残っているのに驚いている。特に、フィリップスのテンションがMAXまで上がっているよ。

「これは素晴らしい。何故、ノースコートの遺跡が有名にならないのだろう。これほどの防衛壁が残っている遺跡など見た事が無いです」

 あっ、防衛壁を手で撫でているフィリップスにサミュエルがドン引きだ。唯一の文官コースの学生なので、まともだと思っていたのだ。フィリップスは、歴史以外はまともなんだけどね。

「壁画はあの崩れかけた建物の中です」

 サミュエルが一応ホスト役を思い出して果たそうとしている。うん、ちゃんとできているよ。この点は褒めておこう。

 崩れた建物の壁を跨ぐ時とかに、スッとフィリップスが手を差し出してくれる。こんな所をサミュエルや弟達は見習って欲しい。そういえば、前にナシウスもヘンリーもエスコートしてくれたっけ。良い子に育っているよ。自慢の弟達だね!

「わぁ、これは凄いな! 空を飛ぶ魔道船と海の魔道船だ!」

 ベンジャミンは壁画に張り付いた。勿論、他の3人も一緒だ。

「これほど鮮明だとは思わなかった。ペイシェンスの送ってくれた絵のままだ」

 カエサルも興奮している。魔道船なんて、錬金術の夢だものね。

「それにしても、この壁画を保護しているガラスっぽい素材は何だろう。何千年も保つ技術など、あの戦国時代に廃れてしまったのが悔しい」

 ブライスは、錬金術クラブにしてはまともだけど、技術に関する熱意は高い。

「あの戦国時代は暗黒の時代だ。栄えていたカザリア帝国の技術がかなり失われてしまった。だから私は遺跡をもっと研究するべきだと考えているのだ」

 フィリップスの熱弁にナシウスが頷いている。初めてカザリア帝国の遺跡に来た時から興味を持っていたからね。

「ペイシェンス、この魔道船について何か情報は無いのか?」

 カエサル部長、そんな無茶振りはやめてよ。

「この壁画しか残っていないみたいですわ。でも、全ての建物を調べた訳ではありません」

 全員の目が輝く。

「では、未だ何か発掘されていない遺物があるかもしれないのだな!」

 ベンジャミンが興奮して叫ぶ。

「このノースコートの遺跡の発掘について、私は聞いたことがありません。これまで発掘調査された記録は全て読んでいるのですが、もしかして誰も調査していないのかもしれませんね?」

 フィリップスは首を傾げる。私も不思議だよ。

「きっと、あまりに普通に防衛壁とか残りすぎていて、却って興味を引かなかったのかもしれない。それにカザリア帝国の北部は未だ未開の地だったから、遺跡の発掘はエステナ聖皇国かコルドバ王国やソニア王国の南部が盛んだからな」

 まぁ、カザリア帝国の時代は北部はバーバリアンと呼ばれていたものね。

「そうなんですよね! 私もいつかはエステナ聖皇国の遺跡に行きたいとばかり考えていて、自国にこのような遺跡があるのを見落としていました。考古学を愛する者として失格です」

 落ち込むフィリップスを放置して、錬金術クラブのメンバーは私の描いた絵と壁画を比べたり忙しい。

「サミュエル、アンジェラ、ナシウスとヘンリー、貴方達は外で遊んでいて良いのよ」

 サミュエルはホスト役として残っているべきだと我慢していたが、夏の気持ち良い季節に、こんな薄暗い所にずっと居なくて良いよ。

「そうするか!」

 私の言葉に力強く頷くサミュエルだ。ヘンリーとアンジェラも嬉しそうに外へと向かう。

「私は、この壁画が何か教えて貰いたいので残ります」

 ナシウスは魔道船と聞いて、目を輝かしていたものね。自分が知らない事を貪欲に得ようとするのは良い事だよ。

「ナシウスはペイシェンスの弟だな。うん、そうか! 魔道船について教えてやろう」

 ベンジャミンがナシウスにあれこれ魔道船について教えている。へぇ、私もよく知らないから一緒に聞いていよう。

「魔道船は魔石で動くと考えられているが、実際の魔道船は発掘されていないから実は推測に過ぎないのだ。このように空に浮かぶ魔道船の存在は、お伽噺の様に扱われていたが、この壁画で証明された。と言うことは、空を飛ぶ魔道船も作ることが可能だということなのだ」

 まぁ、理論上はそうだね。ヘリウムガスでなくても、魔法陣と魔石が有れば浮かぶのかも?

「そうなんですね! それと、この海に浮かんでいる魔道船にはマストも帆も無いのですが、それも失われた技術なのでしょうか?」

 あっ、ナシウスもヘンリーが海に興味を持ったのを知って、船に関心を持ったみたい。

「失われた技術か……それを嘆いても仕方ない。新たに作り出せば良いのだ!」

 わぁ、久しぶりに獅子丸(ベンジャミン)を見たよ。興奮すると髪の毛を掻きむしるから金髪が逆立つんだよね。

「ペイシェンス、他の建物や、この建物の地下を掘ってみたいのだが、ノースコート伯爵は許可して下さるだろうか?」

 カエサル部長の言葉に、フィリップスが熱意を込めて同意している。

「こんな手付かずの遺跡を調査できるなんて、素晴らしい夏休みだ! ペイシェンス嬢、お手紙をくださり感謝しています」

 いや、フィリップス、まだノースコート伯爵の許可は降りていないよ。まぁ、拒否するとは思えないけどね。

「何か魔道船の手がかりが掴めるかもしれないな」

 ブライスもギュッと拳を握りしめている。どうやら、夏休みの後半は遺跡調査になるのかも? 週末だけの滞在だと思っていたけど、もしかしたら本当に合宿になるかもね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ペイシェンス、禁じられた言葉を一緒に言おう……。   『綺麗になれ!』
[一言] 連日更新お疲れ様です。 流石錬金術クラブと歴史研究クラブのメンバー達。ブレないですね~(^o^)v カイエン部長はバーンズ公爵家の嫡男なので、ノースコート伯爵家としてはお近づきになるチャン…
[良い点] 更新お疲れ様です。 ほとんど手付かずの遺跡···興味ない人にとってはただの古びた廃墟ですが、考古学や歴史学を修めてる人からすればまさに宝島みたいなもんですからね。フィリップスたちのテンシ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ