テスト 目立つのは嫌だけど飛び級するぞ
「入学式が月曜って嫌だわ。1週間、まるまる弟達に会えないなんて酷い」
なんて、カレンダーに文句を言っても仕方ない。火曜は古典、数学、魔法学、ダンスだ。ダンスは合格出来なくても飛び級に影響はないみたいでホッとする。
だってグレンジャー家にはダンスを教えてくれる家庭教師はいない。それにダンスパーティなんて開く金も無いし、招待もされたことない。ペイシェンスが幼いから招待されないのかもしれないけど、親戚の女の子の誕生会とかしないのかな? 子ども同士でダンスとかするんじゃない?
私はダンスは好きだった。大学生の頃はクラブに通ったりもしたよ。でも、貴族のダンスとは違うよね。社交ダンス部、入っておけば良かったな。かなり惹かれていたんだけど、あの頃は若くて男の人と組んで踊るのが恥ずかしかったんだよ。えっ、10歳の男女で踊るの? 何か嫌な予感がする。
結果として、古典はペイシェンス頼みで楽勝。数学は私でも楽勝。お昼は食事をさっさと済ませて、寮に帰り、部屋でもう一度魔法学の教科書を読みなおした。
折角の美味しい食事なのに、味わう暇がないのは勿体ないね。あっ、昼食は寮じゃなくて学園の食堂で食べるんだ。あそこは、良いよ。王族や上級貴族は上級食堂で有料の食事を給仕されているから、無料の食事を取る学生だけだもん。気楽なんだ。
午後の魔法学のテスト。教科書丸暗記でいけたと思う。最後の大問は筆記だった。教科書通りに書いたけど、少しだけ不安。
「次はダンスですね。嫌だわ」なんて、少しも嫌そうでない女子と本気で嫌そうな男子。ああ、やはり貴族といえど10歳は10歳だね。男子はやりたくないと顔にモロだしだ。
「さぁ、二人で組んでみましょう」
ダンスのレナード先生が組を作れと命じても、なかなか男子は動かない。
「仕方ないな」
キース王子、なかなか男気があるじゃないか。あっ、ルイーズ目当てなんですね。
「踊ってくれますか?」なんて、お姉ちゃん胸キュンだよ。
「残った男の子は、男の子同士で踊って貰いますよ」
キース王子の真似をしたのか、レナード先生の脅しが効いたのか、男子が次々と女の子を誘う。私もヒューゴに誘われたよ。あの横入り男子。何故かな? もしかして、謝ってるつもりなのかも。
「さぁ、図面の動きを真似して踊ってみましょう」
一応、レナード先生が見本を見せてくれたけど、ピアノっぽい楽器に合わせて、いきなりダンスは無理じゃないかな? と思ったけど、流石、魔法の世界、ダンスの教室の床に図面が映った。
左足、右足、と順番に動かせば、ダンスっぽくなるのかな? ボックスダンスっぽいステップだ。これなら出来そう。ヒューゴは意外な事にダンスが上手かった。確かアンガス伯爵家の嫡男だそうなので、きっとダンスの家庭教師もいたのだろう。
「はい、そこの組は合格です」
キース王子とルイーズは一番に合格した。なんとか私もヒューゴのお陰か合格できた。
「ありがとうございます」お礼を素直に言ったら「これで借りは返したぞ」なんて、可愛いじゃない。やはり私はショタコンだ。勿論、10歳の子どもに手を出したりする変態ではありませんよ。
水曜は、国語、歴史、古典、体育・家政。私は家政だ。古典のテストは終わっている。結果発表だね。国語は楽勝。歴史もどうにか合格できたと思う。ペイシェンス様様だ。
「今日のお昼はゆっくりと食べよう」
だって昼からは古典のテスト返しと家政。何の実技テストかは知らないけど、生活魔法のお陰と前世の一人暮らしで、一応の事は出来る。
「味の濃いシチューって最高ね」
牛肉っぽい塊肉はフォークでホロホロ蕩ける。弟達に食べさせてあげたい。でも、私にも栄養が必要。ガリガリなんだもの。
浮き浮きと一人で食べる。クラスの女の子? ルイーズに誘われて上級食堂に行ったよ。Aクラスには寮暮らしの女子はいない。地方貴族の女子もロマノにある屋敷から通っている。男子は何人か寮に入ったみたい。ラルフとかヒューゴとかね。もろ、キース王子狙い。ご学友になって、将来は側近になりたいんじゃないかな? 大変だなぁ。
古典のテストは満点だった。ペイシェンス、マジ優秀。というかグレンジャー家って本当に賢い一族じゃないかな? クラスで古典を合格したのは私だけだった。ちょっと目立ったみたい。
「古典なんか、勉強しても意味ないじゃないか」
キース王子は怒っているみたい。ラルフが古典の先生が睨んでいますよと注意する。子守りって大変だね。ラルフってもしかして古典合格できたんじゃないかな? と疑惑を持った。キース王子が苦手だと知ってて、わざと落ちたんじゃないかな? 飛び級より、王子の学友の方が大切だと思っている様な気がした。ダンスもキース王子が合格してから、合格したんだよね。まぁ、私には関係ないよ。
家政は布を真っ直ぐに縫うだけだった。勿論、生活魔法を使う迄もなく、合格。
まぁ、これで不合格は無いと思うけど、何人かは針で指を刺したと騒いでいる。貴族のお嬢様は針仕事なんてしないものなんだね。ルイーズは合格したらしく、私の側にやってきた。
「ペイシェンス様、ダンス、古典、家政も合格ですのね」
「ルイーズ様も見事なダンスでしたわ。私はパートナーに助けられて合格でしたの。裁縫は得意ですの」
褒めたら褒め返すのが女社会のルールだ。これは異世界でも同じだと思う。
「まぁ、古典も合格でしたでしょ。グレンジャー家は学問のお家柄ですものね」
そうかもしれないけど、免職されたのも知っている筈なのに、これって嫌味なの? 喧嘩なら買うよ! でも、ペイシェンスが『駄目!』って騒いでる。伯爵令嬢と喧嘩するのは駄目みたい。グッと我慢して「ありがとうございます」と大人しく受けておく。
木曜は、数学、国語のテスト返し。歴史のテスト。それと魔法実技。歴史はペイシェンスの記憶だけじゃなく教科書を読んだから大丈夫だと思う。問題は魔法実技だよ。私の遣り方、魔法学の教科書と違いすぎる。あの恥ずかしい呪文を言った方が良いのかな? 悩むところだよ。
数学はキース王子、ラルフ、ヒューゴ、そして私が合格だった。なんとなく、ルイーズの視線が怖い。こうなったら学年を飛び級した方が良いかも。
国語は、かなりの人数が合格した。だって簡単だったもん。キース王子やラルフやヒューゴ、それにルイーズも合格したよ。他にも何人かの女子も合格したみたい。
歴史のテストはペイシェンスと私の共同作業だったけど、合格だと思う。一問だけ年代が曖昧でペイシェンスの記憶に頼ったんだよ。
座学のテストは終わった。残るは実技だけ。