パーシバルはやはり色男?
和やかな雰囲気で終わった昼食会の後、パーシバルは約束通りナシウス、ヘンリー、そしてサミュエルに剣術指南をした。
「流石、パーシバル様は騎士クラブの試合の優勝者だけありますな」
ノースコート伯爵は、午前中はサミュエルがいる音楽クラブの発表を見ていたから、騎士クラブの試合は見ていなかった筈なのに、ちゃんとチェックはしていたようだ。
「いやいや、なかなかサミュエル様も筋が良い」
モラン伯爵は、自分の息子が褒められたら、相手の息子も褒め返すんだね。でも、サミュエルはかなり剣術の稽古をしているから、素人の私から見てもなかなか腕が良さそうだ。
そして、ナシウス! 凄く上達している。サリエス卿に基礎をしっかり教えて貰った上に、夏休みになってからノースコート伯爵からも指導して貰っているし、やはり歳の近いサミュエルと練習している成果が出ている。
「ナシウス、よく頑張っているな。剣に風の魔法が乗るようになってきている」
パーシバルに褒められて、ナシウスが嬉しそうだ。剣に風の魔法が乗っているのかは、私には判別不明だったけど、パーシバルが言うならそうなんだろう。もっとお姉ちゃんとして、しっかり見ないといけないな。
そして、ヘンリー。やはり身体強化系は剣術にも生きている。他の二人とは動きが違う。
「ヘンリーはこのまま頑張ったら良い。学園に入学する頃には、かなり上位になる腕前だ」
ヘンリーが褒められて、飛び上がって喜んでいる。ナシウスも弟が褒められて嬉しそうだ。本当に性格の良い子で、お姉ちゃん嬉しいよ。
モラン伯爵夫人とリリアナ伯母様は、剣術指南を見学しないで、サロンでお話をしている。本来の令嬢なら、私もそちらでお上品に澄ました顔で座っているべきなのだろうけど、弟達の剣術の腕が上がっているのを見学する方が楽しい。
普段の剣術指南ほどの時間は掛けないで、パーシバルは切り上げた。見学している私達に配慮したのかも。
「ありがとうございました」三人が頭を下げる。うん、ちゃんとお礼が言えて良い子達だよ。
「さぁ、お茶にしましょう」
ホストであるモラン伯爵がノースコート伯爵をもてなす。こんな時もパーシバルはスッと私をエスコートしにくる。
このスマートな態度を弟達に見て覚えて欲しいな。きっと女の子には高評価だろう。
サロンでのお茶会は、大人達が中心に話すので、子どもは黙ってお茶を飲むだけだと思っていたが、モラン伯爵は割と子どもに話を振るタイプだ。
「サミュエル様は、音楽クラブと乗馬クラブに入っているそうですね。まさしく文武両道で素晴らしい」
サミュエルは真っ赤になって「ありがとうございます」と言葉短く返事をした。
ノースコート伯爵夫妻も息子が褒められて嬉しそうだ。入学前にサミュエルを心配していたから、余計に嬉しいだろうね。
「ペイシェンス嬢は2コース選択されていると息子から聞いております。その上、錬金術クラブで色々な発明をされたり、音楽クラブでは多くの新曲を披露なさるなど素晴らしい才能豊かな令嬢ですね」
これはかなりチェックされているね。まぁ、縁談もあるぐらいだから調べるのも当たり前かな。
「そのようなことは……パーシバル様も秋学期から文官コースも履修なさるとお聞きしておりますわ」
お淑やかに謙遜して、相手の方も褒めておくよ。
モラン伯爵は、ナシウスやヘンリーにも話しかけ、二人はちゃんと応える。簡単な問いかけだったけど、ナシウスが賢い子なのとヘンリーが優れた騎士になりそうなのが分かったようだ。これって、私の身内のチェックなのだろうか? なんて感じる暇もなく、モラン伯爵夫妻から話題が次々と提供されてお茶会は軽やかな雰囲気になる。
モラン伯爵夫人、綺麗なだけでなく、お茶会の雰囲気を盛り上げるのを見ても、かなり頭が良さそう。パーシバルが外交官のパートナーとして私にこれを求めているなら、かなりハードルが高いよ。ビビっちゃった。
お茶会の後は、湖まで行く。もう、サミュエルとナシウスとヘンリーの顔に『ボートに乗りたい!』と書いてあるからね。
本格的なボート遊びは明日にするけど、少しだけ湖を見に行く事になったんだ。
なんと、サミュエルやナシウスやヘンリーはパーシバルと共に馬で行く事になった。気持ちの良い夏の日だし、午前中は馬車だったから、馬の方が良いとサミュエルが言い出したのだ。
私はモラン伯爵とノースコート伯爵夫妻と一緒に馬車だ。モラン伯爵夫人は夕食の采配をするとかで残った。多分、五人乗るのは窮屈だと遠慮されたのか、湖は見飽きているのだろう。やはり、乗馬をもう少し練習しなくてはいけないかもと反省。
年配の親戚に囲まれて馬車で湖まで行くより、弟達と馬で行く方が楽しそうなんだもの。モラン伯爵はもてなし上手だけど、やはり気を使って疲れたよ。
「まぁ、素敵な湖ですわね」
私達の馬車が着いた時には、サミュエル達はボートに乗ろうとしていた。
「どうぞ、ボートにお乗り下さい」
モラン伯爵がノースコート伯爵夫妻とボートに乗る。
サミュエルと弟達もボートに乗った。つまり、私はパーシバルとボートに乗るのだ。
湖に突き出した桟橋から、パーシバルは身軽にボートに乗り、私に手を差し出す。
「お手をどうぞ」
わぁ、なんだかとても可愛い令嬢になった気分だよ。ペイシェンスも見た目はなかなか可愛いけど、そう言う意味じゃないんだ。とても丁寧にエスコートされて、自分が凄く大切にされる価値のある女の子なんだって気分になったって意味。
「パーシバル様はボートを漕ぐのも上手いですわね」
舞い上がってこんな陳腐な褒め言葉しか口にできないよ。モラン伯爵領で育ったパーシバルは幼い頃から湖で遊んでいた筈だもん。ボートぐらい漕げるよ。
「ありがとうございます。ボート漕ぎは得意なのです」
にっこり笑うパーシバルにノックアウトされそうだよ。このロマンチックな湖でボートに二人っきりというシチュエーションは乙女の気持ちになり過ぎる。私の中のペイシェンスも胸キュンしているんじゃないかな? そんな事でも考えていないと、顔が赤くなっちゃう。
「おい、サミュエル! 真っ直ぐに漕がないとぶつかるぞ!」
ノースコート伯爵が叫んでいる。
「あっ、ナシウスとヘンリー、大丈夫かしら?」
危ない、危ない! 恋に落ちちゃうところだった。いや、別に恋に落ちても良いのかもしれないけど、やはり弟達が自立できるまでは理性を保っておきたい。
「サミュエル君はボートを漕げると言っていたのですが」
海辺で育ったから、パーシバルはその言葉を信じたんだね。
「一度漕いだ事があるぐらいなのかもしれませんね」
一応はフォローしておくよ。それにサミュエルも何とか真っ直ぐに漕げるようになったし、気分が変わったのには少し感謝しているからね。
ボート遊びは少しで終わった。明日、本格的に湖で遊ぶ予定だからだ。
でも、今、私はパーシバルの腕の中にいる。そう、帰りはパーシバルの馬に乗せて貰っているのだ。何故こんな事に? 鞍は馬車に乗せて、二人で乗っている。まるでお姫様になった気分だけど、小っ恥ずかしいよ。
「さぁ、着きましたよ」
パーシバルは馬から飛び降りて、私を抱き下ろす。わぁ、顔が赤くなっちゃう。