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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第三章 中等科1年の夏休み
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更紗を染めよう!

 モラン伯爵家には来週末に訪問することになった。それのお礼状を書いたりしていたが、染料の件を忘れていたと思い出して、裏庭に行ったら、日当たりが良いのか、私の生活魔法のレベルが上がったのか、すでに収穫時期になっていた。

「お姉様、私達も手伝います!」

 後ろからついて来ていたナシウスとヘンリーが手伝ってくれたので、あっという間に収穫できた。

「ペイシェンス、何をしているのだ?」

 いつもは裏庭に来ないサミュエルもやってきた。

「これでラシーヌ様が持ってきた布を染めようと思うの。先ずは染料にしなくてはね!」

 メアリーは、染料を買えば良いのにと呆れ顔だけど、私は最初っから草木染めを体験したかったんだ。前世から興味があったからね。でも、都会育ちで庭も猫の額ぐらいだったし、そこには駐車場もあるし、染物の材料を植えるなんて無理だったんだ。

 メアリーは染色に詳しいので協力してもらう。

「先ずは一番時間が掛かる藍から作ろうと思うの」

 茎ごと収穫した藍の葉っぱだけにする。これは、ナシウスやヘンリー、そして何故かサミュエルも手伝ってくれた。

「葉っぱだけにしたら、水につけておくのよ」

 藍も煮出す遣り方もあるが、今回は沈殿藍を作ってみたい。授業では時間が無いからと煮出す遣り方でしたんだ。でも、沈殿藍の方が濃く綺麗な藍に染まると聞いてから、やってみたかったんだよね。夏休みだから時間はあるもの。自由研究のノリだよ。

「なんだ、もう終わりなのか?」

 午前中の勉強をサボる気だったのか、サミュエルが少し残念そうだ。

「これは一日寝かせるけど、他のはすぐに染められるのもあるわ。でも、それは午後からにしましょう。さぁ、全員手を出して!」

 藍のあくが付いている手に「綺麗になれ!」と掛けておく。染色の難点は手が汚くなる事なんだけど、前世のようなゴム手袋が無いんだよね。まぁ、私は生活魔法をじゃんじゃん使うよ。

 昼からは弟達とサミュエルは剣術の稽古だ。ノースコート伯爵は、サミュエルに騎士コースを選択して欲しいと思っているらしく、夏休み中もかなり厳しく指導している。ヘンリーは楽しそうだけど、ナシウスは大丈夫かな? サミュエルと一緒に頑張っている姿はキラキラして、私の目に眩しいよ。

 でも、来週末はモラン伯爵家に行くから、それまでに染色をしておきたいんだよね。これは、本当に私の好奇心だよ。

「メアリー、紫キャベツは刻んで煮たら良いのよね。触媒は何が良いのかしら?」

 メアリーは、母親の実家にいた時に染色は一緒にしていただけあって、手際?も良い。

「紫キャベツだけでなく、野葡萄や茜草も煮出したらどうでしょう。触媒によって色は様々に変わりますわ。それをノートにつけておくと、次の時に便利です」

 あっ、染色のダービー先生にも同じ事を言われたのだ。趣味のお遊び感覚だったけど、上手くいったらサティスフォードの港の倉庫に積み上がっている南大陸の布が売れるかもしれないんだよね。反省!

 それからは紫キャベツを刻んで煮出したり、野葡萄も潰して煮込んだり、紫蘇の葉もつんだり、茜草の根を洗って刻んだりした。

 今回は赤色にしたい。これは私の印象なんだけど、カラフルな柄の布を赤とかピンクに染めたら、庶民の女の子の可愛いスカートにぴったりだと感じたからだ。

 薄いブルーは藍が発酵するのを待ってからだね。

「なら、お酢を使うとピンクや赤になりますよ」

 それも習っていたけど、染色の授業では材料が揃えてあったからね。

「煮出した液に、レモンの汁をいれると……まぁ、綺麗な赤になったわ」

 それぞれ違うニュアンスの赤色の染料ができた。ただ、心配なのは授業では絹糸や無地の布しか染めていなかったのだ。

「ねぇ、この布でも染まるかしら?」

 メアリーはラシーヌから貰った布を手に取って、あれこれ考えていた。

「一度、洗ってから染めた方が良さそうです」

 豆の汁で洗った方が良いと言うので、台所からメアリーに貰って来させる。豆を煮出して、その水で布を洗う。はぁ、もう疲れたよ。

「お嬢様、そろそろ休憩なさった方が宜しいのでは?」

 メアリーに心配かけたけど、どんな風に染まるのか知りたい。

「ええ、でも染めてから休むわ」

 ここからは、ほとんどメアリー任せになっちゃった。

「わぁ、綺麗に染まったわ! これなら女の子の晴れ着のスカートに良いんじゃないかしら?」

 染めるのも、それを濯ぐのも、干すのもメアリーがしてくれた。本当に体力強化しなくてはね。

「これをお茶の時間にリリアナ伯母様に見せたいわ。乾け!」

 とても可愛い柄物になったので、早く見せたくなって生活魔法で乾かす。

「相変わらず、お嬢様の生活魔法は凄いですわ」

 メアリーに呆れられたけど、赤色は思ったよりも可愛い柄になったので嬉しいよ。

 これに白のブラウスとか着たら、良い感じになるんじゃ無いかな? 柄のある布の所をスカートの広目の肩紐にしたら前世の民族衣装みたいだ。少し、刺繍を足しても良いかも?

 私は思いついたら、即作りたくなった。メアリーに白い布を買ってきて貰う間に、赤色のフレアースカートとスカートを吊る肩紐に刺繍を施す。

「まぁ、もうスカートを縫われたのですか?」

 生活魔法でズルしたからね。そしてメアリーが買ってきた白の綿生地で、首のところを紐で括るタイプの簡単なブラウスを生活魔法で縫った。首の周りに、肩紐にした刺繍を少しだけ刺す。

「これを着てお茶に出たら駄目かしら?」

 メアリーは、子爵家の令嬢が綿なんて、と眉を顰めたけど、私によく似合っているのも確かだ。

「今日だけですよ」

 私は白いブラウスに赤のフレアースカートを着て、居間に行った。

「まぁ、ペイシェンス! その格好は? もしかして、ラシーヌが持ってきた布を染めたの? 町娘みたいですが、可愛いわ」

 リリアナ伯母様は、夏休みだからと許可してくれた。やはり、元が庶民だからか、こっちの格好の方が楽だ。

 リリアナ伯母様のファッションチェックにギリギリかなったので、席についてお茶を飲んでいると、剣術の稽古から帰ってきたノースコート伯爵やサミュエルや弟達がやってきた。

「お姉様、そのスカートはもしかして、染められたのですか? とても良くお似合いです」

 ナシウスが一番に気づいた。ヘンリーもサミュエルも、ハッとしたみたいだ。

「昼から染めるとは言っていたが、そんなに早く染められるのか? それにスカートに縫ったのか?」

 サミュエルは首を傾げている。

「お姉様、とてもお似合いです!」

 ヘンリーは可愛いし、良い子だね!

「あの派手な布を染めて、その様に可愛らしくなるなら、サティスフォード子爵も真似をしたがるだろう。若い女の子に流行りそうだ」

 ノースコート伯爵にも褒められたよ。サミュエル、この辺を真似しないとね。

「今日は若い女の子用に赤色を上から染めてみましたが、明日は青色で染めてみるつもりです。明後日は茶色に染めてみますわ」

 リリアナ伯母様は、私のスカートをよく見て「まぁ、刺繍も加えているのね!」と驚いた。

「ええ、この肩紐の部分と、ブラウスの首周りに簡単な刺繍をしてみました」

 本当に簡単な刺繍なのだけど、リリアナ伯母様に呆れられたよ。

「ペイシェンス、庶民は刺繍がついた服など着ませんよ。まぁ、貴女が見本に作ったのは良いですけどね。それにしても、昼から染めて、縫ったのですか? 貴女の侍女のメアリーは凄腕ね!」

 あっ、伯母様は私が縫ったとは思っていないんだ。まぁ、良いか。でも、ナシウスとヘンリーは、私が屋敷で縫い物をしているのを見ているからね。

「お姉様、凄いです!」と褒めてくれたよ。


 次の日の藍染は大変だった。消石灰と混ぜて、混ぜて、ここで私は体力が無くなったから、生活魔法で攪拌させたよ。ゼイゼイ!

 何度も沈殿させては、上澄みを捨てて、やっと完成。

「まぁ、これも素敵になりましたね。私はこちらの生地の方が好きですわ」

 全体にブルーがかった布に元の模様が薄く浮いている。これならワンピースにしてもおかしくない。庶民の女の人の晴れ着になりそう。

「メアリーの普段着にしましょう!」

 今回、新しいメイド服を作って貰ったばかりなのにと遠慮するけど、この生地は私には地味だ。前世なら良かったけど、ここでは貴族の令嬢が着るには地味すぎるんだよね。

 メアリーのドレスを2人で縫う。生活魔法を全開で縫ったから、これもお茶の時間に間に合ったよ。

「この様な服装でお茶の席に行けません!」なんて恥ずかしがるメアリーを居間に連れて行く。だって凄く似合っているんだもん。

「まぁ、メアリーの服は! 素敵だわ」

 真っ赤になって、お辞儀すると出て行ってしまったが、リリアナ伯母様は「これは良いわ」と感心していた。前の赤色を染めたのは、子供っぽいと感じた様だ。

「明日は、玉葱の皮と紅茶の残り茶葉で茶色を染めてみますわ」

 水、木、金とアンジェラが来る予定なので、それまでに染色は終えておきたい。それに、弟達とも遊ばなきゃね!

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[一言] 襷で話題になってますが、小学生女児の制服のスカートのイメージでしょうか。我が家では肩紐と言ってましたし、何も考えずそのつもりで読んでいました。 染織、いいですね。重ね染めることで印象がかなり…
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