お客様がたくさん!
ノースコート領の夏休みを私達は満喫している。午前中は勉強も真面目にしているよ。
特にサミュエルはナシウスに負けてはいけないと、数学1年は全部終わらせて2年の予習だ。うん、凄く頑張ったんだよ。
他の科目も2年に上がったのは予習、古典、歴史も飛び級出来る様に頑張っている。ナシウスは多分入学1週間で学年飛び級しそうだからね。追い付かれるのは諦めている様だけど、追い越されない様にサミュエルのお尻に火がついたみたい。
それはノースコート伯爵に伝わって、とても感謝されている。前のサミュエルは勉強嫌いを拗らせていたからね。
昼からは海水浴、そして乗馬訓練や剣術訓練もしている。私は乗馬訓練はパスしたい気分だけど、リリアナ伯母様も許してくれない。地方貴族は狩りとかの招待も多いみたいだけど、うちは法衣貴族だから関係ないんじゃ無いかな? なんて考えているのが読めたのか叱られたよ。
「ペイシェンスが何処にお嫁に行くかは分からないでしょう。乗馬もある程度は身に付けておかないと困りますよ」
嫁かぁ! 貧乏で免職中だから無いと思い込んでいたけど、そう言えば縁談もあるんだよね。
剣術訓練の時は、私は少しは見学するけど基本は刺繍やハノンやリュートの練習をして過ごす。
「まぁ、ペイシェンス。この刺繍は素晴らしいわ! もしかしてサティスフォード子爵家への贈り物なの?」
リリアナ伯母様に絵画刺繍を褒められたよ。うん、夏休みの招待のお礼に刺繍をしてあげよう。
「その通りです。ラシーヌ様には毎週3回も乗馬教師を派遣して貰っていますから、そのお礼にどうかと思って。リリアナ伯母様にも夏休みの招待のお礼にノースコート館の刺繍をしようかと思っていますが、題材は何か他の風景の方が宜しければそちらにしましょうか」
リリアナ伯母様は少し考える。
「まぁ、とても嬉しいわ。でも、ノースコート館の絵はありますから、できれば遺跡の絵画刺繍があると嬉しいかも」
あっ、応接室の暖炉の上にノースコート館の絵は飾ってあるね。二つも同じ絵を飾る必要は無いし、海の絵はあちらこちらに飾ってある。うん、遺跡に行きたいと思っていたし、ついでにスケッチをしよう。
「では、明日の午後は遺跡に行ってきます。弟達も遺跡を見学したいと言っていましたし」
なんて話していたけど、遺跡には行かなかったんだ。伯母様にラシーヌから手紙が来て、お茶に来ることになったからね。
私は、絵画刺繍を仕上げて、ラシーヌに渡せる様に頑張ったよ。
そう言えば、サティスフォード子爵とは初対面だ。なかなかハンサムだし、感じが良い。従姉妹のラシーヌとの仲も良さそうで、アンジェラの下に男の子が3人いるそうだ。つくづく異世界は子沢山だね。その下の男の子達は連れて来ていない。ショタコンの私としては残念至極だけど、10歳以下は子守が世話をするのが常識みたいだから仕方ないね。
「アンジェラを夏の離宮に一緒に連れて行って下さると聞いて、喜んでいます」
サティスフォード子爵にお礼を言われたけど、そんな大した事はしていないんだよ。ナシウスは活発なジェーン王女と合いそうに無いから、アンジェラを連れて行くだけなんだ。なんて口にしないけどね。
この日はアンジェラやサミュエル、弟達と、ハノンやリュートで演奏して遊んだ。
「まぁ、素敵な曲ばかりですね」
アンジェラはやはり音楽クラブの方が向いている気がするよ。乗馬も頑張っているみたいだけど、好きでは無い感が漂っているんだよね。本当ならアンジェラぐらいで充分なんだよ。令嬢の嗜みとしての乗馬としては上手い部類になるからね。私は、まぁ駄目な感じだけど。
そんな感じで和気藹々としていたら、夏の離宮からの招待状が舞い込んだ。私宛とサミュエル宛だ。
「まぁ、早く開けてみて!」
リリアナ伯母様はサミュエルが慌ててペーパーナイフをもたもたするのを苛々して急かす。
「明後日、午後から遊びに来るようにですって」
私が読んで内容を伝えると、リリアナ伯母様とラシーヌが舞い上っちゃったよ。
「家に手紙が届いているかもしれませんわ。それとも、アンジェラは呼ばれないのかしら? 兎も角、確認しなくては。失礼いたします」
ラシーヌときたらお尻が浮いているよ。
「ラシーヌ様、ここにアンジェラも一緒に遊びに来てと書いてありますわ。多分、サティスフォード子爵家にも届いているでしょうけど、きっと同じ内容ですわ」
ラシーヌが座り直した。招待されるなら、色々と打ち合わせをしておきたいみたい。
私は一度説明した後は、弟達やサミュエルやアンジェラと庭で遊ぶよ。何回も同じ話がループしているからね。ノースコート伯爵やサティスフォード子爵はよく付き合っているね。感心するよ。まぁ、貴族にとっては重要な話なのかもしれない。それか夫婦円満に過ごすコツだと諦めているのかも。
アンジェラは歌も上手いね。庭には楽器が無いから、グリークラブの歌をサミュエルと私で弟達とアンジェラに教えたんだ。
「そろそろ帰りますよ」
やっと打ち合わせが済んだようだ。
「ラシーヌ様、いつも乗馬教師を派遣して頂き、ありがとうございます。これはほんのお礼の気持ちですわ」
マナー的に最初ではなく、帰る時にお土産として渡した方が良いみたいなので、絵画刺繍を包んで渡す。
「まぁ、ヘアアイロンやクッションも貰ったし、アンジェラを夏の離宮に連れて行って貰うのに……ありがとう」
包装してあるから何かは分からなくとも、絵だと思ったのだろう。付き添いの侍女に渡すよ。
「明後日は夏の離宮行きだから、明日は遺跡に行きたいわ」
なんて考えていたら、パーシバルから手紙が届いた。
「まぁ、パーシバル様が明日お茶に来たいと仰っているわ」
リリアナ伯母様は、うきうきしている。パーシバルは綺麗な顔立ちだからね。
「パーシバル様が来られるなら、遺跡は行けないのかな?」
サミュエルも少し残念そうだ。
「また今度になりそうね。でも、夏休みは長いから行けるわよ」
夕食は近在の騎士爵の人達を呼んでの晩餐会だった。そうか、こんな事もあるから10歳になる前の子どもは一緒に夕食は取らないんだね。食事の後、男性達は食卓に残ってお酒と葉巻を嗜み、女性達とサミュエルとナシウスは応接室でお茶とプチケーキを食べる。
私は知らない人ばかりなので、サミュエルやナシウスと大人しくしているよ。異世界では目上の人達と一緒の場合は口を開かないのがマナーだからね。
「サミュエルとペイシェンスは音楽クラブに入っていますのよ」
音楽クラブは推薦が無いと入れない上級貴族だけのクラブだからね。リリアナ伯母様としては自慢なんだ。ここに来ている人達は全員、王立学園を卒業しているから、その意味は分かる。
「まぁ、素晴らしいですわ」
うん、ノースコート伯爵夫人に逆らう人は誰一人居ないね。寄子になるのかも? あっ、嫌な事を思い出したよ。母親の実家のケープコット伯爵家はカッパフィールド侯爵家の寄子だから、グレンジャー家と絶縁しているんだ。実家からの援助が有れば母親は亡くならなかったのかな? 身体が弱くヘンリーを産んでからはベッドで過ごす時間が多かった記憶があるけど、経済的に余裕が有ればもっと良い医者に掛かるとかできたんじゃ無いかな? まぁ、今は母親も亡くなっているから、縁は切れても仕方ないかもね。
「ペイシェンス、サミュエル、何か弾いてちょうだい」
碌でもない物思いに耽けるより、ハノンを弾いている方が楽しいね。
「お姉様、サミュエル、とても上手いんですね!」
ナシウスに褒められたし、嫌な事なんか考えないようにしよう!