入学式って異世界でも退屈なんだね
王族とは関わらない様に、私は部屋に篭った。こんなに暖かなのは転生してから初めてだ。
暖炉の前の応接セットのソファーに寝転んで本を読みたい気分だけど、ペイシェンスマナーが発動するので、行儀よく座って読んでいる。
寮則、学園規則も読んだ。その中に素晴らしい規則があった。
「飛び級! テストに合格すれば飛び級できるのね」
学年を飛び級するには全科目合格しなくてはいけない。かなり難しそうだ。でも、数科目だけでも合格でき、その日の授業を受けなくて良くなったら、家に帰れる日を増やせるかもしれない。
「弟達待っててね。頑張るわ」
こんな学園、さっさとおさらばしたい。
早くスケジュール表が欲しい。金曜とか月曜とか合格したら、金曜、土曜、日曜、月曜と家に居られる。なんて取らぬ狸の皮算用しながら、こそっと夕食を取った。
「ここでは夕食に着替えなくて良いのね。制服ばんざい!」
ひとりご飯には慣れている。寂しいOLだったから。うるさい!
「お風呂! お風呂!」
異世界に来て初風呂だ! 汚く無いよ。生活魔法が使えるまではメアリーにお湯で拭いてもらっていたし、その後は『清潔』を使っていたもん。でも、お風呂は別だよね。
「魔石を押す。おお、お湯が出たよ」
やはりお風呂は良いよね。グレンジャー家にもお風呂の施設はあったな。帰ったら入ろう。生活魔法でお湯も出せる筈。
寮のお布団、家の倍の厚みがあるよ。暖かい。幸せを感じながら眠る。
『カラ〜ン、カラ〜ン』
まだ寝ていたいけど、起きなきゃね。入学式に遅れて目立つとかごめんだよ。それでなくても食堂のいざこざがあったのに。
私はグレンジャー家(弟達)の為に、もっと生活改善しなきゃいけないんだもん。お子様相手に時間を取りたくない。
「スケジュール、私の得意な科目が金曜、月曜に固まっています様に!」
勝手な願いをエステナ神に祈りながら、テキパキと洗面して、歯ブラシもしたよ。靴下のかけはぎで稼いだ金で買ったんだ。メアリーも令嬢は歯も美しく保つべきだと思っているから、説得は簡単だった。でも、歯磨き粉、ほぼ塩なんだね。要改善!
朝食を取って、パンフレットに書いてある講堂に向かう。
『クラスとか、どこでわかるのかな?』
パンフレットにはクラスごとに座るって書いてあるけど……あそこだね。寮生だけでなく、家から通う新入生が講堂の前の板を見て騒いでる。
『どうかキース王子と同じクラスになりません様に……』
もうエステナ神を信じるのはやめるよ。何、Aクラスって! 入学するにあたって、試験を受けた記憶はペイシェンスにも無い。つまり、親の地位順? 家の父親は免職中で超貧乏なんだけど、子爵。王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵……何だかギリギリAクラス。名簿でもドンケツだよ。はぁ〜、溜め息しか出ない。
Bクラスなら男爵、準男爵、騎士爵……何となく気楽だったのに。おっと、Cクラスもある。こちらは試験を受けて合格した秀才や魔法の天才の集まりみたい。大富豪の子女や魔法使いの身内とか、お金に苦労してないんだろうな。
学園規則では2年からは成績順でクラス分けされると書いてあった。キース王子がB組に落ちるとか無いのかな? 私は飛び級目指しているし……2年に飛び級してCクラスとかも有りかも?
なんて事考えながら、Aクラスの一番後ろの席で長い学園長の話を聞いていた。異世界でも入学式って退屈なんだね。大学を卒業して、縁が切れたと思ったのにさ。まぁ、入社式もそこそこ退屈だったか。
やっと長い話が終わったと思ったら学生会長の挨拶。あっ、やっぱりリチャード王子。あの存在感、半端じゃなかったもん。できる王子って感じだよね。
って事は、もしかしなくて新入生代表はキース王子でした。笑うしかないな。うん、緊張しているけど、まぁまぁの出来だよ。10歳にしては上出来だと見直したよ。やはり王族って厳しく教育されているんだね。
来賓の挨拶が無かったのは良かった。まぁ、王族の前で来賓も無いよね。国歌を歌って入学式は終わった。こんな時はペイシェンスの記憶が頼りだね。