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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第二章 王立学園中等科春学期
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ハラハラの青葉祭

 音楽クラブの新曲発表会は、コーラスクラブの発表の間に挟まれている。ルイーズに会うのが気が重いが、挟まれているので絶対に会いそうだ。

「相変わらず、コーラスクラブは古臭い歌ね」

 マーガレット王女は手厳しい評価だ。ルイーズも歌っているが、女学生ばかりで迫力不足に感じる。

「男子学生もいた筈ですが?」

 秋の収穫祭には男子学生が数人いたのに、見当たらない。午後からの発表に回ったのかな?

「まぁ、ペイシェンスは情報に疎いわね。男子学生はグリークラブに変わったのよ。女子学生もかなり移ったと聞いたわ。コーラスクラブでは上級貴族じゃ無いとソロは歌わせて貰えないもの。実力主義じゃ無いから、不満を持った学生は移ったわ」

 成る程ね、コーラスの厚みがない気がしたんだ。人数も減ったんだ。なんて呑気な事を考えていたが、次は音楽クラブの新曲発表会だ。舞台の端に寄せられていたハノンを真ん中にして、譜めくりを立てる。

 アルバート部長は慣れた様子で「音楽クラブの新曲発表会をします」と簡単に挨拶した。

 今年は1年生が多いから、私は捲らなくて良いから気楽だよ。1年生はくじ引きで順番を決めたみたい。1番目はクラウスだ。マジ、天使みたいな見かけで、ドストライク! 何とか雑草を『花園』に編曲した新曲と私の『子猫のワルツ』を弾いた。

「ブラボー」あっ、ラフォーレ公爵が今年も騒いでいるよ。

 次はサミュエル。新曲は『春の稲妻』、少しロックっぽくて好きだな。『ノクターン』を弾いたよ。うん、ラフォーレ公爵が興奮して騒いでいる。アルバート部長が止めに行った。良かった。

 ダニエルの新曲は一番編曲が大変だったけど、何とか格好はついた。『別れの曲』を弾いたけど、上手いな。

 バルディシュの新曲は『トロット』だ。馬のトロットっぽさが出たダンス曲だ。それとアルバート部長の超絶技巧曲を弾いたよ。すごい指がよく回るね!

 私は『英雄ポロネーズ』とマーガレット王女の『若人の歌』を弾いたよ。

 うん、大拍手で終わって良かった。後はコーラスクラブの発表だね。

「ペイシェンス、良かったわよ」

 マーガレット王女に褒めて貰えたのは良かったが、近づいてくる影はラフォーレ公爵かな?

「ペイシェンス・グレンジャーだったな。素晴らしい才能だ。是非、屋敷に来てくれないか?」

 アルバート部長が間に入ってくれたが、少し目が真剣過ぎて怖かった。

「父上、まだ発表会は続きますから、席につきましょう」

 マーガレット王女も心配そうだ。

「ラフォーレ公爵はかなり危ないわ。ペイシェンス、気をつけるのよ。何方か婚約できる相手はいないの?」

 貧しいグレンジャー家に縁談なんか……そう言えば冬休みにモンテラシードの伯母様が持ってきていたな。即、断ったけど。

 アルバート部長の義母にはなりたくないよ。いざとなったら、其方の縁談に逃げるしか無いのかも。あまり年上じゃないと良いな。私はショタコンだから、おじ様はダメなんだよね。なんて考えていられる程、コーラスクラブの発表は退屈だった。ルイーズがまた出ている。かなり人数が減ったんだね。

「さぁ、裏手に行くわよ」

 次はグリークラブの発表だから、伴奏の私達も楽屋に向かう。そこは華やかな衣装を着たグリークラブのメンバーで賑わっていた。ダンスクラブのメンバーもバックダンサーで参加するので人が溢れている。

 数人ずつの発表のコーラスクラブとは凄い違いだ。

 私はハノンを、マーガレット王女はフルーをバルディシュとサミュエルとダニエルはリュートを、そしてルパートとクラウスは打楽器だ。アルバート部長は指揮をする。

『アレクとエリザ』はとても良かった。観客も喜んで拍手喝采している。特に、戦場に行ったアレクの無事をエリザが神に祈って歌う『アメージング・グレース』は圧巻だった。確かにルイーズが歌いたくなるの分かるよ。

「これは音楽クラブは1番になれないかもしれないわ。兎も角、お昼にしましょう」

「ペイシェンス、私が昼食中に父上を説得するつもりだが、マーガレット王女の側を離れないようにしなさい。父上は私より音楽に没頭するタイプだ。何をなさるか分からない」

 マーガレット王女の側を離れない様にとアルバート部長にも注意を受けた。ラフォーレ公爵が拉致するかもしれないと、息子も心配しているみたいだ。危険人物だよ。

 私は午後からは錬金術クラブなので『音楽クラブ』に1票投じて置いた。

 上級食堂(サロン)は前の年の様にパーティションで仕切られていた。保護者がマーガレット王女やキース王子に挨拶に来たら、ゆっくりと食べられないからね。いつものようにキース王子とラルフとヒューゴと昼食を取る。

「マーガレット姉上は午後からはどうされるのですか?」

 午前中で騎士クラブの試合は終わりだ。私は錬金術クラブに行くので、できたらキース王子にマーガレット王女の側にいて欲しいと思ったのだが、違う方向に話が進む。

「私は食後は錬金術クラブでアイスクリームを試食するつもりなの。その後は講堂で新曲発表会よ。だから、キースにはペイシェンスの付き添いを頼みたいの。この子をラフォーレ公爵が連れて帰らない様に見張って欲しいのよ」

「まさか、流石にそんな事は有りませんわ。大丈夫です」

 慌てて断る。キース王子と一緒なんて肩が凝るよ。

「ラフォーレ公爵は独身なのだな。アルバートの様な音楽馬鹿なら危ないぞ」

 この国の公爵が変人で良いのだろうか?

「そうなのよ。さっきも是非、屋敷に来るようにとペイシェンスに言っていたわ。アルバートが遮ってくれたけど、私がいないと逆らえないわ」

 キース王子の眉が上がる。怒っているみたいだ。確かに中年の親父が11歳の娘に無理を言うなんて良くないよね。それも公爵だから、逆らえないし。

「わかりました。ペイシェンスの側から離れません」

 4時間目の終わりに裁縫室まで送って貰う事が決まった。それに4時間目が終わったら保護者は学園から帰るし、そこからはマーガレット王女と一緒に行動する。

「キース王子も見学したい所があるのでは無いですか? これからは錬金術クラブに居るので大丈夫です」

 断ろうとしたが、マーガレット王女もキース王子も許してくれない。

「まだペイシェンスは貴族の怖さを知らないのよ。強制的にでも屋敷に連れ込まれてしまったら、悪い噂が立って真っ当な結婚などできなくなるわ。ラフォーレ公爵の後添えなら御の字で、愛人扱いかもしれないのよ」

 中年の愛人! 鳥肌が立った。無理だ!

 デザートはアイスクリームを試食するので断って、錬金術クラブの展示会場へ向かう事になった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] え、既に何人も音楽家を監禁してるんだ!とか息子が言ってるなら兎も角、まだ犯罪者じゃないはずですよ! ……今回初めての犯罪!かも知れんけど。
[一言] 貴族の元って結局は蛮族からの成り上がりだからラフォーレ公爵はまさに先祖返りだろうねぇ…気に入った人を拉致して噂ばら撒いて居付くしかないようにさせるとか蛮族すぎて気持ち悪い。
[一言] ラフォーレ公爵の件からキース王子への流れは驚きましたし面白かったです。異世界では新鮮なミュージカルが厄介な公爵の意識を持っていきますように。 弟君たちの心配がまだあるので恋愛タグはまだまだ…
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