裁縫でドレスを縫うよ!
火曜は空き時間がないから、朝早く起きる。月曜も朝から来たので、2日連続になるね。
午前中は地理と外国語だ。モース先生に借りたデーン語の本は返却済みだ。マーガレット王女もペイシェンスも音楽に優れていて音感も良いから、かなり上達したよ。
午後は裁縫なんだよね。私は本縫いをして、水玉模様を縫い付けるつもりだ。
「ペイシェンスが修了証書を貰ったら困るわ」
昼食の場でのマーガレット王女の家政コースの発言にはキース王子達も絶対に口を挟まない。どこが逆鱗か分からないからだ。
「今日、仕上がってしまいそうですが、6枚縫わないといけないかもしれません」
マーガレット王女も変更後がどうなっているのか情報が無いようだ。
「そうかもしれないわ。だって青葉祭と収穫祭にペイシェンスだけ制服は可哀想だもの」
いや、制服の方が良い方も多そうですよ。(マーガレット王女もね)私はそもそもダンスパーティに出なくて良いし、制服の方が気楽だよ。
「何だか修了証書を取ってはいけない様に聞こえるな」
キース王子達は賢く無言を通していたのに、アルバート部長は通りすがりに口を挟む。
「まぁ、違いますわ。誤解を招くような言い方はよして下さい」
いや、誤解では無いと思うよ。
「そうか、なら良いのだ。ペイシェンスにはどんどん修了証書を取って新曲を作って貰いたいからな。この頃、錬金術クラブにばかり力を注いでいる気がする」
アルバート部長はやはり面倒臭いね。そんな事をマーガレット王女の前で言わないでよ。
「誤解ですわ」と否定しておかないと、マーガレット王女に後からぐちぐち言われる。
「そうかな? ペイシェンスが入部してからカエサルが機嫌が良いのだ」
「それは錬金術クラブが廃部にならなかったからでは?」
カエサル部長は洗濯機と自転車作りに夢中だからね。傍目からも分かるんだ。
「まぁ、それもあるだろうが……ペイシェンス、何をしているのだ?」
アルバート部長は音楽クラブの部長であって錬金術クラブの事を指図される謂れは無い。
「それはカエサル部長にお聞き下さい」
アルバート部長は、フンと立ち去ったが、何故かキース王子が不機嫌だ。マーガレット王女なら(理不尽な音楽ラブな理由だけど)怒るのも理解できる。でも、何で? 関係ないじゃん。
ラルフとヒューゴがキース王子にあれこれ話しかけて気を逸らそうとしている。えっ、私が悪いの? 意味不明だよ。
裁縫の時間に私はキャメロン先生に糸通しを2つあげる。試供品だよ。
「まぁ、これは便利ね」
先生はすぐに使い方を理解して喜ぶ。うん、針仕事する人には便利だと分かるよね。
勿論、マーガレット王女にも糸通しをあげたよ。使い方も教えてあげると、凄く喜んだ。
「ペイシェンス、これも錬金術で作ったの? あの湯たんぽも夜暖かくて良いわ。ねぇ、湯たんぽと糸通し、お母様とジェーンにもあげたいの」
ほんの少しだけ錬金術クラブとの掛け持ちを許す気になったマーガレット王女だ。
「ええ、是非お使い下さい」
今週の金曜は王宮行きなので、それまでに湯たんぽと糸通しを作っておこう。
私はマーガレット王女と話しながらもチクチク縫って、水玉模様のドレスを仕上げた。
「ペイシェンス、この糸通し、学園で買いたいわ。何処で売っているのかしら?」
仕上げのチェックして貰おうとキャメロン先生を呼んだのに、糸通しの話になった。うん、このクラスの全員が必要だよね。キャメロン先生の糸通しは特に不器用な学生に貸している。ダレダロウネ。
「これは私が作った物ですが、バーンズ商会で売り出される予定ですわ」
キャメロン先生は少しでも早く手に入れたいと、凄く熱心だ。
「もしかして、刺繍でも同じでしょうか? 数個ぐらいなら私が作っても良いですが、数が多くなるのでしたらバーンズ商会に急ぎとお伝え下さい」
キャメロン先生は刺繍のマクナリー先生や他の先生達と相談してバーンズ商会と話し合うと言われた。宣伝は大切だよ!
「ああ、ペイシェンス、ドレスが出来上がったのね。ええ、上手く縫えているわ」
さて、修了証書が貰えるのか、それとも6枚縫わないと駄目なのか? ちょっとドキドキするよ。
「去年までだったら、こんなに上手に縫えたら修了証書を出したと思うの。でも、今年から厳しくなったでしょ。やはり冬用のドレスも縫って貰わないと修了証書は出せないのよ」
6枚とは言われなかったが、冬用のドレスも縫わないといけないみたいだ。隣でマーガレット王女が小さく息を吐いた。ホッとされたのだろう。目を離すと、とんでもない事をするからね。でも、私がいるうちに基本だけでも覚えて貰おう。
「冬物の布は次の授業までに用意しておきます」とキャメロン先生が言ったので、今日はマーガレット王女のドレスをなるべく多く縫えるようにしなくては!
「スカート部分は出来上がっていますね。後は前身頃と後身頃の肩を縫い合わせて、スカートと縫えば仮縫いは終わりです」
チャコで縫い合わせる所に同じ印を描いておく。これで次の週まで縫う場所は分かるだろう。
「ペイシェンス、カエサルとベンジャミンには気をつけるのよ」
マーガレット王女がマチバリで同じ印の所を打ちながら、忠告してきたけど、意味が分からない。
「もう! 貴女は自分の値打ちが分かっていないのだわ。アルバートは音楽の才能に夢中だし、あの2人も貴女の錬金術の才能に夢中になるわ。それに錬金術クラブに女学生は貴女1人なのだから気をつけなくては駄目よ」
アイデアはあるけど、それを作る能力は未だない。マーガレット王女はそんな事を知らないのだ。それより、マチバリがズレている。
「マーガレット様、きちんとマチバリを刺さないと、ドレスは型紙通りに縫えませんよ」
マチバリってきちんと刺すの難しいんだよね。それにしても、マーガレット王女の縫う速度、遅すぎない? それもシツケだからザクザク縫うだけなのに……ミシン作らなきゃね! これも魔石要らないからバーンズ商会で売れそうだ。ただ、ミシンの構造をあまりはっきりとは覚えてないのが大問題なんだよね。後回しになりそう。
今は洗濯機に自転車、そしてアイスクリームメーカーを作らなきゃいけないんだもん。
私は個人的にヘアアイロンも作りたいし、メアリーや父親に魔法灯も作ってあげたい。ヘアアイロンは伯母様達と従姉妹のラシーヌにお礼であげようかなと考えている。
サリエス卿には何が良いのか分からないよ。でも、弟達に剣術指南を続けてくれているのだ。何かお礼をしたい。騎士の生活がどんなのかも知らないので、必要とされている物が分からない。やはり、バーンズ商会をもっと見学したかったよ。