資格って取れるんだ
父親にリチャード王子の塩作りを手伝ったご褒美を教えて貰ってうきうきする。それに温室も広がったしね。
「何を植えようかしら? 春になったら変わった色の薔薇を学園の庭から切って来て、植えても良いわね。薬草も売れるなら、育てても良いわ」
金儲けの事を考えると元気になるよ。
「お姉様、お父様と相談されたのですね。良かったです」
あれっ、また姉上からお姉様に戻ったよ。あれは緊急事態だったからかな? どっちだって良いよ。少しずつ呼び方が変わるように、ナシウスの中の私も変わっていくんだろう。王立学園に入学したら友だちが増えて、私の存在は少しずつ小さくなっちゃうのかな。少し寂しいけど、いっぱい友だちを作って貰いたい。
午後からは弟達にハノンとダンスを教える。2人で組ませて踊らせるのだけど、可愛いよ。ハノンは新しい練習曲を何曲も作ってあるから、2人とも楽しんで弾いている。
「ナシウス、指の練習曲も弾かなくてはいけませんよ」
ペイシェンスの持っていた練習曲は退屈だけど、指の練習には良い。ナシウスにも練習させないといけない。
それからはグリークラブの宿題だ。やはり私は押しに弱いんじゃないかな? 前世のラブソングを思い出しながら弾く。結構な数を弾いたけど、これでオペラになるのかは不明だ。
でも『アメージング・グレイス』とか素敵だよね。思わず歌いたくなるけど、歌詞は前世のしか知らないんだよね。鼻歌を歌っていたら、ナシウスもハミングした。
「お姉様、素敵な曲ですね」
「そうですね。でも、歌詞を作るのは苦手なの。これは神様に捧げる為の曲よ」
前世の賛美歌だから、嘘じゃないよ。それにしても、曲は思い出しながら弾けても、譜面に起こすのは大変だ。
「あっ、サミュエルは得意そうなんだけどね」
私は寮生だし、サミュエルは通学生だ。週末しか手伝って貰えない。
「ねぇ、ナシウスは従兄弟と会いたく無い? サミュエルをここに呼ぼうと思うのよ」
本来なら弟達との時間を誰にも邪魔されたく無いけど、譜面に起こすの本当に苦手なんだよね。部屋でサミュエルに手伝って欲しいと手紙を書いて、メアリーに届けて貰う。ノースコート伯爵家は、すぐ近くだ。本当にリリアナ伯母様、いくら嫁いだ身だからと言って、あの窮乏生活をよく見て見ぬ振りしていたものだわ。ぷんぷん
でもまぁ、無職のままの父親に腹を立てていたのかもしれないね。伯爵家からしたら、貧乏な上に働かない親戚の世話なんかしたく無かったのかも。とか考えているうちに返事が来た。
「明日の午後か、仕方ないね」
本当は今からでも手伝って欲しいぐらいだけど、もう午後のお茶の時間も過ぎている。グレンジャー家では、お茶の時間なんて優雅な習慣は無いけど、他所の屋敷を訪問するには遅い時間だ。それと午前中もなるべく訪問は避けるのがマナーだよ。特に昼ちかくはね。リチャード王子!
アンガス伯爵家では気をつかってお昼を用意したりしていたと思うよ。まぁ、食べずに帰ったけどね。グレンジャー家だったら数日また薄いスープになる程の打撃だよ。アンガス伯爵家には関係ないか。
私は、明日は夕方に寮に行くとワイヤットに伝える。ついでに質問があるんだよ。
「ワイヤット、下級薬草や下級回復薬は売れるのかしら?」
ワイヤットは難しい顔をする。
「下級薬草は冬場は少しは高く売れますが、春になったら冒険者の初心者が沢山採って来ますから、安くなります。それと下級回復薬は薬師の許可が無いと売れません」
そりゃそうだよね。私の上級回復薬はマキアス先生が許可して売ってくれているのだ。
「薬師の資格は王立学園でも取得可能ですよ」
びっくりした!
「ええっ、薬師の資格が取れるの?」
ワイヤットは私が驚いたのが面白いみたいだ。
「ええ、下級薬師ですが、確か薬草学と薬学の修了証書を貰って薬師の試験を受ければ取得できますよ」
そんな事もご存知ありませんでしたかと呆れられる。
「それと王立学園の騎士コースを卒業したら、騎士団の見習いになれます。文官コースを卒業したら、下級官僚の試験が受けられます。家政コースも女官試験が受けられます。魔法使いコースは下級王宮魔法使いの試験ですね。他にも色々な資格試験を受ける事ができます」
ふむふむと聞いていたが、女官試験以外は下級がつく。
「もしかして上級試験を受けるには大学卒業が必要なの?」
「いえ、実際に働いて上級試験を受ける資格も獲得できます。下級官僚として働きながら勉強して、上司の推薦が貰えれば上級官僚試験を受けられる筈です」
それは難しそうだ。ナシウスは奨学金を貰えたけど、ヘンリーはどうなるのだろう。
「大学を出て騎士団にはいったら、見習い免除なの?」
ワイヤットが少し考えてから答える。
「騎士団にもよります。近衛隊や第一騎士団は大学卒は見習い免除だと聞きました。この騎士団は、ほぼ上級貴族の子息が入団しますから。でも、王立学園から入る代々騎士の子息もいますよ」
「サリエス卿は王立学園を卒業して第一騎士団に入団されたと聞きましたわ。モンテラシード伯爵家なのに大学は行かれなかったのね」
サリエス卿は勉強が苦手だったのかな? なんて思っちゃった。
「それは、早く騎士団に入ると、早く出世しますからね。大学卒を取って2年の見習い期間を短縮しても、その間に同級生は上の階級になっている場合もあります。だから、普通は騎士団に入団すると決めている方は大学へ行かれないですね。でも、参謀タイプの方は大学で学ぶことを重要視されます」
なるほどね。騎士コースはややこしいな。でも、ヘンリーが大学へ行きたいと思ったら進学できるようにしたい。
「先ずは、薬草学と薬学の修了証書を貰う事を目標にするわ」
ワイヤットに呆れられたよ。
「そんなに簡単ではございませんよ」
秋学期には取るよ! ああ、本当に忙しい。夜は陶器に細密画を描く内職もしなくちゃいけないしね。これは初めから生活魔法を使うよ。内職は趣味と違うからね。