本当の死因
リョウマの母は父と離婚してから三度目の結婚をして父親違いの幼い妹を育てていて、小学校3年生の夏休みからずっと祖父母と暮らしてきたリョウマを急に新しく建てた家に住まわせたいと言ってきた。
家庭内暴力が原因でリョウマの父と別れた母はリョウマの親権をとりながらも実際にはずっと一緒に暮らせなかったことをいつも悔やんでいたので、今度の夫にはリョウマとの同居の了解を得ることを条件に結婚した。
‘ごめんねリョウマ、おじいちゃんが死んじゃったから、おばあちゃん独りぼっちになるし、私はまだ2歳のヒマワリに手がかかるし…’
’うん、ばあちゃんと2人で住むわ‘
‘なんかあったら、2時間あれば行けるから’
’うん、今度からさ、電話でなくてメールでいいよ‘
‘あの人の前で言いにくくて…’
’俺さ、あの人苦手だわ…‘
‘分かってる、明るいけどデリカシーないもんね、いろいろごめんね…’
’住むとこさ、家賃要らないの、助かるわ‘
‘リョウマ、あんたは父親とは似ても似つかない良い男になったね、安心だわ’
’もう電話は切るわ‘
‘あ、うん、メールにするわ’
’ああ‘
‘お金は、渡せないの、ごめんね’
’分かってる‘
‘おばあちゃん、宜しくね’
’うん‘
‘70歳越えたのにまだどこかのお店で販売のバイトしてるのよね?’
’元デパート外商担当だから、辞められない、とかって、言ってたし、毎日じゃないみたいだ’
’マンションもローン無しで、年金も毎月40万円はあるじゃない、で退職金も何千万もあるんだって、死んだおじいちゃんの遺産もさ、余裕過ぎよ‘
‘もう電話は切るから’
’私もお店やろうかと思うのよね、おばあちゃんに3000万円ほど借りてさ‘
‘切るよ’
’え…はいはい‘
リョウマは母との話から、生活のためではなく生きがいで働いている預金のある高齢者に、出資額に応じてお店のオーナー体験をさせてあげる仕組みを作るのはどうかというアイデアをまとめてみた。
リョウマの祖父は公務員を60歳で退職したあとも財団法人や協議会や協同組合などいろいろな箱ものに再就職しては退職金を取り、を繰り返す安心なループに入っていたがある日外階段から足を踏み外して事故死してしまった。
祖父は背中がピンと伸びた品の良い男で、まだ、74歳だった。
祖父の葬儀の時70歳だった祖母はあまり悲しむ様子もなく葬儀をそつなくこなしていたので、リョウマには祖父という男の人生の最後の様子が印象深かった。
高齢者を好きにならずに観察しているだけで彼ら相手にビジネスをするなんてことが、本当にできるのだろうか。