エイジズム
「1960年頃の日本の’おじいさん、おばあさん‘は20人にひとりだったのに、2020年を越える頃には4人にひとりになっているって数字、知ってた?」
「そんなに?…1960年の平均寿命は男性65.32歳、女性70.19歳。そこから、2020年は男性が81.64歳で女性が87.74歳、毎年更新してるわね」
「世界の先進国と共に、人間は2人にひとりが50歳以上になってるのね…」
「今は、存在意義価値がない老人たちが長生きし過ぎてる…てことか…」
「自分が払いもしてこなかった多大な額の年金を、現役世代から搾取し続けてる…てのは事実としてあるな」
「男性65歳女性70歳で死ぬ頃の感覚で敬老パスとか敬老特典とかあり得ねぇ」
「あ、待って、これは、乳幼児死亡が少なくない時代だからの平均寿命であって、医療技術が進んで平均寿命が数字として伸びてるだけ、よね」
「裕福な層には90歳代生存者もたくさん存在したということね、江戸時代でも90歳代はいるわねぇ」
「現状世間では嫌われてる老人が多いだろ、特に男は、ごみ捨て警察とかマスク警察とかワクチン警察とかさぁ」
「60代以上の男は絵にならないわ、言動に女性蔑視が染み付いてる、支援の価値無し!」
「地位と権力闘争世代か…」
「落ちこぼれた残りは無知で無責任で暴力志向、とか?」
「生きるのに必死で、ってこと?」
「戦争孤児…みたいに?悲しいね」
「日本なんて70代の神社宮司が20代女子を元気付けるとか誤魔化してもろセクハラ発言でも、知らん顔でさ、誰も注意しないからね」
「生き残り世代的にはある意味、無知で無学も仕方ないか…」
「数を狙ってくと…、ターゲット層はやはり、高齢者にしかならない、か…」
「なら、女性限定を希望!」
「お金を世の中に回させるには自分のために遣ってもらうのが一番ですよね」
「まだ50代、とかヤバイよね、10代に言わせれば高齢者ってのは45歳以上だよね」
「コンセプトが‘愉しいことだけ考えて生きられるように’とかだとさ、やってても優しくて楽しいから、いいんじゃね?」
「事業を長く続けるには、愉しい方へ向かわないと、なんだけどね…」
地方の国立大学を卒業したものの希望する就職先がない5人は、取り敢えず起業することにしたが、5人共通の’どうしてもやりたいこと‘は、まだ特にない。
まとまったお金も、ほとんどなく、起業するにも何のビジネスが良いのか決まらず、とにかく5人でブレーンストーミングをして、ターゲット層を探っていた。
リカは、良く気が利いて行動的だが、早とちりで視野が狭い。
マリコは、真面目にコツコツ働くタイプに見えるが無責任で何も考えていない天然。
シホは、笑顔を絶やさず明るいが大雑把で雑で細かいことは苦手。
ケントは、頭が良くて物静かで思慮深いが人と付き合うのが苦手。
リョウマは、細かいことを気にしない鈍感力とおおらかさと優しさをもっているが実はこだわりがなく何にたいしてもあまり好奇心がない。
海外展開から始めるわけでなく日本人が顧客なので人数が多い層をターゲットにしなければならないのは分かっていたのだが、理解しがたいことばかり。
「10年後に夢も希望もなくて、自分の身体の機能が確実に衰えていく老人って、いったい何のために毎日を生きてるの?」
「キレる老女は町内会ごみ捨て警察に」
「キレる老男は弱そうな相手を弱いものいじめ?」
「老人ってさ、社会を良くしたい訳じゃないのよ、でも、自分がしてきた嫌なことを今の若いのにされると許すとか我慢とかできないんじゃないの?」
「えっと、老人が言わせると、高齢者は80歳以上みたいだよ」
「60歳越えると元気な人と医療漬けの人とで、人生が分かれるデータあるな…」
「受験と同じかもね、健康に真面目に向き合った者だけが良い未来を掴める…」
「地頭が良いとか家庭が裕福だとかと同じように、基礎疾患とかガン傾向みたいな遺伝的な危険度も関係するぞ…」
「日本人が65歳とか70歳まで働くとしてもそこから100歳まで、何のために生きるの?」
「人数が少ない現役世代からお金をもらって生きる…なんてな」
「ヒトを轢き殺して車のせいにしてた元官僚の90歳もいたよな」
「老人が長生きするとこに、意味を付けたいな」
「高齢者用の医療関係者は就職先も豊富で雇用を増やしてるよね」
「でも、老人患者の爪を剥がしたりしてる…」
「スタッフに頭殴られてる認知症入居者の記事あるね…」
「そーゆーのは定常的なの?マスコミは極端を、好むわよ」
「高齢者をターゲット層にすると、知らないことだらけね…」
「誰がターゲット層でも、とにかく、調べていかないと」
「認知症でない老人は、愉しく生きられたら幸せのためにお金を遣いたいはずよね」
「タンス預金の平均は3000万円らしいね」
「まさか!」
「とにかく、タンス預金を悦んで遣わせる、というコンセプトでどう?」
「賛成」
「良いかも」
「オケ」
「手強いな」
いったい何のビジネスを始めるのか、いよいよ若い5人の、60歳以上をターゲット層とするためのより詳しい’日本社会に暮らす高齢者の観察の日々‘が始まった。