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09 街デビューよ

 そんなわけでわたしは、外れない指輪をつけたまま、後回しにして忘れていた国王陛下の誕生日の贈り物を見繕いに、街へ出てみた。

 もちろんお一人様。

 街歩きは初めて。

 悩んだんだけどね。

 学校でもぼっちだし、ありがたくはないけど辛うじて構ってくれていた令嬢方にも目を逸らされるようになっちゃったし。

 日用品なんかは購買とか寮に注文しておけば揃うから、外で買い物する必要とかなかったし。

 国王陛下からの呼び出しの時は常に制服だから、貴族のご令嬢みたいにドレスとか宝飾品とか必要なかったし。今までの国王陛下への誕生日の贈り物は文房具を購買で買っていたのよね。だってわたしに支給されるちょっとしたお小遣いって、もともと国費だからね。国費で国王陛下に贈り物っておかしいかなと思うのよ。それでもちょっとはお洒落に普段は買わないインクとか、栞とか、ない知恵を絞って色々努力はしてきたの。

 

 でも、リボンだけならまだしも、指輪まで貰ってしまったら購買じゃ流石に力不足じゃないかなあ。


 ぼっちで相談できる友達もいないわたしが、勇気を出して街に出るっていうだけで、もう褒めてもらいたい。お迎えの馬車以外で学校の敷地から外に出たのは初めてよ。思わず足が震えたわ。


 お買い物の仕方は知ってる。多分田舎と同じだと思う。でも故郷の町と違って、王都のお店は小洒落ていて入り口のドアを開けないと入れないから、すごく入りづらい……。

 田舎の商店街はドアなんかなくて、お店の前の籠や敷物の上に売り物が置いてあって、お店の人は通りががったお客さんと気軽に挨拶とかしてたんだけど。


 意気揚々と出かけたはずのわたしは、お店の敷居の高さに尻込みしてしまって、どこにも入れずに歩き疲れて、広場のベンチに座り込んでしまった。

 道ゆく人がみんな都会っぽい。わたしは田舎者だわ。そりゃ馬鹿にもされるわよね。

 やっぱり一人で街デビューは無理だったかも。でも、今日買い物をしないと、国王陛下の誕生日に贈り物を託けるのに間に合わなくなってしまう。明日からまた課外授業がみっちり詰まっていて、街に出る時間なんて取れない。

 うええ、帰りたい。出かけるまではあれもこれも見に行こうって、結構ワクワクしたたんだけどなあ。


 俯いて通り過ぎる人の足をぼうっと眺めていたら、黒い靴がわたしの目の前で止まった。


「ソニア」


 呼ばれて顔を上げると、視界いっぱいにパンに挟まれたアイスクリームがあった。


 びっくりした。


 一応わたし認識阻害の魔法かけていたのに。

 王都は安全だって言われているけど、街デビューだし、いくら安全とはいえ女の子の一人歩きだし。だからわたしに注意を向ける人がいるって思っていなかった。

 あ、認識阻害の魔法は、周りからわたしが見つかりにくくする魔法で、生活魔法のひとつ。一人歩きの女の子は基本的にこういう魔法をかけて、風景に溶け込むのが安全。でもより魔力が大きい人には効かないんだけど。


「国王陛下におかれましては──」

「折角お忍びで出てきているのに、衆目を集めてどうする」


 慌てて立ち上がろうとしたわたしをアイスクリームを突き出して止めた国王陛下は、わたしの隣に座った。


「食べないのか」


 アイスクリーム、実は初めて。

 街歩きしたら食べてみたいって思っていたの。

 寮の食堂にはないから。


 両手で受け取って、アイスクリームに刺さっていた小さなスプーンで、溶けかけている端っこを掬う。

 ひんやり冷たくて甘い。美味しい。歩き疲れた身体に染みる。


「美味しいです」


 お礼を言うと、国王陛下は少し首を傾げて、アイスクリームを持ったわたしの手首を引いて、大きな口でパンごとアイスクリームを齧った。


「こっ……」

「甘いな」


 アイスクリームより甘くて蕩けそうな微笑み。

 国王陛下はアイスクリームがお好きだったのね。わたしが貰ってしまってよかったのかしら。

 ここはもう一つアイスクリームを買ってくるべきかしら。でもどこに売っているのかわからない。

 迷っている間にアイスクリームは溶け始めていて、わたしは慌ててスプーンで掬う。残りを国王陛下に渡そうとしたけれど、食べなさいと言われてしまった。もしかしてもう食べたあとなのかも。


「護衛から、君を街で見失ったと報告を受けた。何か欲しいものでもあったのか?」

「認識阻害をかけていたので……護衛?」


 護衛とは。

 そういえば国王陛下にも護衛がついているはずなのに、今は見当たらない。


「君には常に護衛がついている。今まで学校の敷地から出たことがなかったから、護衛も油断していたようだが、人選を見直さないといけないな」


 知らなかった。

 聖女待遇なのかしら。

 知っていたら一声かけてから出かけたのに。むしろ一緒に来て欲しかった。ずっとぼっちだと思っていたのに。認識阻害で振り切ったりせずに、街歩きしたかった。


「こくお……」


 う陛下、の護衛はどこに、と聞こうとして、口に指を当てられた。


「その呼び方をされては、いくら認識阻害をかけていても周囲に聞こえてしまう」

「すみません。あの、こく……」


 ダメだわ。つい国王陛下って呼んでしまう。


「とりあえず今は、コク、と呼んでくれ。途中で止めることなら出来るだろう」

「はい、こく……」


 おうへいか。


 なるほど。途中で気がつけば良いのね。頑張ろう。

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