06 指輪の面倒な魔法
登校すると、定期試験が返却された。
国王陛下が仰っていた通り、わたしはばっちり全教科平均点。狙い通りです頑張ったわ。全教科平均点取るために、すごい勉強しているのは無駄じゃないかとは思うのだけど、これも将来のため。卒業までは頑張るわ。
掲示板に貼り出されるのは、上位十名なのでわたしは関係ない。いつもよりざわざわしている廊下を通って次の授業の教室に向かう途中で、また面倒な方々を見つけてしまった。
貴族令嬢其の一から其の三。多分一の令嬢が一番高位貴族の令嬢だと思うけど、どなたも同じようなお嬢様なので区別していない。平民のわたしに貴族はわざわざ名乗ったりしないしね。
廊下の端に寄って、使用人と同じように頭を下げて通り過ぎるのを待つの。急いでるんだけど、これは必要なこと。
ここは上級学校の敷地内なので、ほぼ貴族しかいないから、実社会に出てからの身分制度は適用されているの。
なんか聞いたところでは聖女は王家と同じ扱いらしいんだけど。
聖女としての実力がないから舐められてるのよね。それも田舎に戻るまでよ。ここでゴネても良いことなんて何もないわ。
「ご機嫌よう、ソニアさん」
ほっといてくれればいいのに、また絡んできた。
「相変わらず、聖女様なのに掲示板でお名前を見かけませんでしたわね」
「まあ、前聖女様と比べるのは失礼よ」
クスクス、扇で口元を隠しながら何か言ってる。いや貴女方も載ってないんでしょう? お名前も知らないからわかんないけど。
どうやら噂にだけ聞く前の聖女様はとても良くできた方だったそうで、眉目秀麗、華麗にして清楚、淑女の鑑のような方で、わたしとはどえらい違いなのだそうな。
数々の偉業を成し遂げて、もう亡くなってしまわれてわたしの聖女ハードルをぐんっと上げてくださった。余計なことをしてくれたものだわ。
代々聖女の歴史の中でもここまで抜きん出た聖女はいなかったらしく、わたしじゃなくても、誰が聖女でも不満が出たことだろう。
今、聖女はこの国に一人しかいない。わたしだよ!
「あら、ソニアさん」
令嬢其の一が目敏くわたしの指に嵌った指輪に目をつけた。だから嫌だったんだよう。
「ラピスラズリの指輪なんて、それは畏れ多くも国王陛下のお色じゃございませんの? 仮初の婚約者とはいえ、不敬にあたりますわよ」
「左様でございますか」
やっぱり国王陛下の色だったのか。
瞳の色と似てるなあとは思っていたけど。
この国では恋人の瞳や髪の色のものを身につけるのがラブラブの証だそうで。国王陛下は何故か藍色のものをわたしの誕生日にくださる。
仮初の婚約者だということは、わたしだってわかってるけど、やっぱり対外的に贈っておかないといけないんだろうな。お手間かけます。
「わかっているなら外しなさい」
「外れないのです」
「はあ?」
ご令嬢方がご自分の侍女を呼んで、わたしを手洗いにつれて行った。
石鹸はもう試したのよ。そんなことしても外れないの。
何か魔法がかかってるなって思ったけど、これ多分外れない魔法がかかってるの。引っ張っても無理よお!
痛いからやめて!
「お嬢様、こちら魔法がかかっているようです」
侍女の一人がやっと気づいてくれた。
もうわたしの指は擦られすぎて真っ赤になってる。
「ソニアさん、あなたどういうつもりで……」
知りませんよ。
わたしが嵌めたんじゃないし。
と説明したけど、ご令嬢とその侍女さんはどうも納得できない様子。後日外せる魔法使いを呼ぶからって言われたの。こちらとしてもそれは助かるわ。最悪指を切られるかと思ってヒヤヒヤしたけど、お嬢様だからそんなことはしないのね。
まあ、毎回当たりはキツいし友達もできないけれど、地味に地味に過ごしているから、実害になるようなことはギリギリ起こっていない。いや、授業サボったことになっちゃったから、これは迷惑だわ。ノートを見せてくれる友達もいないんだもの。
お嬢様方は家庭教師に教わればいいから良いわよね。
授業が終わるとわたしは図書室に向かった。
平民の奨学生の誰かにノートを見せてもらえないかと頼むの。人見知りのわたしには結構辛いミッションだけど、このままだと次の授業について行けなくなっちゃうもの。奨学生は大体図書室にいるのできっと行けば誰かに見せてもらえる。
図書室の書架の向こう、勉強机が置いてあるサンルームに向かう途中で、急に腕を引かれた。