第一話 A
ドグラマグラ太郎
ドグラマグラ太郎先生が僕に語りはじめた。
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鮎。
食べ頃は七月初旬まで。
とれたての新鮮なのをすぐ食べること。
活あゆの刺身は洗い作りの王。
塩焼きは頭から食え。
頭の中のエキスがうまい。
はらわたは無論美味。
あゆの雑炊はふぐの雑炊に次ぐ雑炊の王。
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握り鮨。
まぐろのとろや鉄火巻きなどはしょうがを載せて食え。
まぐろは酢に好適のものなれども少しくさい点がある。
これをおぎなうのがしょうが。
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小あじ。
皮付きの方がうまい。
しかし適当に塩や酢が回らないとなまぐさい。
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貝。
俺の嗜好からいうと赤貝か赤貝のヒモが一等いい。
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のり巻き。
しっとりしめったのはまずい。
のりが乾燥してカサカサしているうちに食べないとまずい。
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高級品。
高いものを食え。
もともと原料の高価なもの。
安いものは場違いの味のまずいもの。
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天麩羅。
大きいのは見かけだおし。
揚げたて。
てんぷらに新鮮なだいこんおろし。
これにしょうゆをかけて食べれば俗なだしに優る。
新しい掘りたてのだいこんのおろしを吟味する必要がある。
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刺身。
わさびを生かして食う方法。
刺身の上にのせてしょうゆをつけて食べるとわさびは利く。
しょうゆの中にわさびを入れてしまっては辛味はなくなる。
しかししょうゆの味がよくなる。
わさびは最も調子の高い味の素と心得てよい。
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だいこんおろし。
新しくないと不味い。
畑から掘り上げて間のない新鮮なのにかぎる。
赤い身の刺身にはだいこんおろし。
だいこんにしょうゆをしませて刺身につけて食べる。
白の刺身はわさびだけでいい。
赤い刺身は飯の菜。
白い刺身は酒に適す。
刺身の茶漬けは美味。
たい茶とかぎらず刺身はなんでも茶漬けになる。
煎茶のやや濃いめのものをかける。
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すきやき。
ロースやヒレを食う時は肉の両面を焼くべからず。
必ず片面をだけを焼くこと。
半熟の表面が桃色の肉の色をしているまま食べること。
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ふぐ。
美食はふぐにとどめを刺す。
その証拠にはふぐが出ると他のものは食えぬ。
ふぐの刺身に優る刺身はない。
ふぐの美味さはすっぽんなどの比でない。
いかなる美食も比べられない。
ふぐには酒のような一種の独特な指向性と嗜好性がある。
君の好きな中毒性の話だ。