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俺、養ってって言ったよね!?  作者: 黒絵曜
第一章 黄金の町モルディアナ
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師匠であり旧友

「いいか、知らない人の後をついて行ったらダメだぞ?」

「はい、知らない人の後はついていきません!」


トアさんは偉いなぁ。


「知らない人からもらった食べ物を食べるのもダメだ。それがどんなに美味しそうでもな。あと口をきくな」

「はい、わかりました! 絶対に貰ったりしませし、口もききません!」


トアさんは賢いなぁ。


「あと絶対に俺からはぐれないように」

「はい、離れたりしません!」


 トアさんはちょろいなぁ。

そう確信した俺は、言う。


「この旅が終わったら、養って」

「だめっ!」

「えー」

「えー、じゃないです」


 ……なぜなのか。これがわからない。


 まあとにかく。

 これで今すぐさっきみたいに知らない人に騙されるような事態は防げるだろう。

 さて。トアさんのお母さんを探すと決めたからには情報収集が肝心だ。


 そんな訳で早速聞き込みを開始しようとして西通りを歩いているのだけれど、さっきからおかしなことが立て続けに起こっている。


 突然、体調不良を装って目の前で倒れ込む男や、腰の弱そうな老婆を装ってトアさんに助けてもらおうとしたり、悪霊が憑いているのでこの壺を買わねばと勧めてくる占い師など。

 いろとりどりの詐欺師が俺たちを欺こうと近づいてきた。


 案の定、心優しいトアさんはそいつらを助けようとするのだけど、俺が睨みを利かせると舌打ちをして走り去っていく。

 ……どうもきな臭い。

 明らかにトアさんだけに狙いを定めた、やばい集団がいる。

 この街の無法者たちにカモ認定されたか?


 もしかしてさっき取り逃がした男が、仲間を呼んだのだろうか。

 ときおり誰かに見られているような気がして振り返れば、そこには必ず領主カトリーヌのセクシーポーズをキメた黄金像がそびえたっている。


 やっぱりモルディアナはやばい街だ。

 ここに留まり続けると大変な事に巻き込まれそうな予感がある。

 情報収集は別の街でするとして、早々にこの街を出ることにしよう。


 そんなふうに、荷馬車を探していたとき、


「おう、久しぶりじゃの。テオの坊主」


 渋みのある懐かしい声がした。

 声のした方を見ると、そこには立派なあごひげをたくわえた60代くらいの初老の男が腕組みをして、穏やかな微笑みをたたえている。


「あんた……ヴァンじいさんか。何やってんだ、こんなところで」

「この街に美しい領主がいると聞いてな。一目見ようとやってきたはいいが、まさか子供だとは思わず途方に暮れていたところでおぬしとばったりというわけじゃよ」

「なんだそりゃ。もう良い年なんだから、諦めろよ。そういうの」

「ふん、年齢は関係ないぞ。そうやってあれこれと言い訳をつけてるからモテないのだぞ、坊主」

「うるせー、クソじじい」


 お互いに軽口をたたき合う。

 こいつはかつて《暁の旅団》で一緒にパーティを組んでいた仲間で、名前をヴァンという。

 俺にとっては戦い方を教えてくれた師匠のような人だ。


 別件があるとかで離脱してからしばらく顔を合わせていなかったが……こんなクソみたいな街にいたとはな。

 良い出会いもあるものだ。


 白髪の混じったあごひげを撫でつけながら、ヴァンは辺りを見回す。


「して、他の者たちはどうしているのかの?」

「他の者だと?」

「なんじゃ、おぬし。スカーレットとは一緒じゃないのか?」

「ああ……」


 そうだ、ヴァンは俺がクビになったことを知らないんだよな。


「聞いてくれよ。実はここまで色々あってな」

「まあ待て。ここで立ち話もなんじゃ。儂が良い店を知っておるから、そこで話さんか。儂が奢ろう」


 ……本当に、良い出会いもあるものだ。





 昼を少し下回った頃。もう少しで夕暮れに差し掛かろうという微妙な時間帯だからか、食堂は混み合っておらず、すんなりと席に着くことが出来た。

 あと少しでも店に入るのが早かったり、遅かったりでもしたら確実に待ちぼうけをくらっていただろう。


鳥人ターキーのから揚げを三つ頼む」

「あいよ」


 ヴァンのおっちゃんが三人分の席を確保しながら、店主に注文を告げる。

 鍋の爆ぜる音。

 鳥肉の香ばしい匂いが、店内に立ち込めている。


「へい、お待ち」


 程なくして、皿に盛りつけられた三人分のから揚げが、俺たちの前に並べられた。

 香辛料の香りと、肉から立ち昇る湯気、からりと揚げられた衣、どれもが食欲を掻き立てられる。


 ごくり、と喉が鳴る。

 しかも添え物として茹でた香草や、搾りたてのレモン、焼き目がついた焦がしニンニクまでついてきた。

 鳥肉と一緒に食べたら美味しいに違いない一品ぞろいで楽しみだ。


 ここまで空腹だ。

 今すぐにでも肉にしゃぶりつきたいけれど……トアさんの様子が変だ。ヴァンと出会ってからというものの、急にむっつりと押し黙っている。肉を前にしても微動だにしない。

 ヴァンもそのことには気づいていたようで、訳が分からなそうにトアさんを見ている。


「どうしたんだ? 嬢ちゃん、もしかして肉は嫌いだったか?」

「……」


 トアさんはちらりとヴァンを一瞥し、すぐに目を逸らした。

 本当にどうしたんだろう?

 いきなり無口になったし、食べ物にすら手をつけないし、こんな失礼なことをするような子じゃないはずだ。



――知らない人からもらった食べ物を食べるのもダメだ。それがどんなに美味しそうでもな。あと口をきくな。

――はい、わかりました! 絶対に貰ったりしませし、口もききません!



 ……って、ああ! そういえばそんなことを言ったっけ。


「トアさん、そいつは俺の知り合いだ。だから口を利いてもいいし、食べ物も食べていい」

「そうでしたか! 良かったです!」


 トアさんが胸に手を当て、ふぅ、と息を吐いた。

 ようやく安心できました、と言わんばかりに頬を緩ませている。

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