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俺、養ってって言ったよね!?  作者: 黒絵曜
第一章 黄金の町モルディアナ
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魔物の襲撃

「皆の者、カトリーヌ様を守れ! 領主様に傷一つつけてはならんぞ!」

 

 護衛達はカトリーヌを急いで荷台の奥に避難させ、武器を手に取り、魔物の襲撃を警戒している。


 俺も盾を構えて臨戦態勢に入りながら、周囲に目を光らせる。

 今まで愛用していた盾は壊れて使い物にならなくなってしまったので、荷馬車に積んであったのを勝手に拝借したものだ。

 カトリーヌのことは好きじゃないが、ここまで乗せてもらった恩をふいにするほど厚顔無恥ではない。何よりトアさんを傷つけようとする者は、何であろうと許せない。


 耳をすませば、足音が聞こえた。

 それもひとつやふたつではなく、複数の足音。


 獣の唸り声。

 荒々しい息遣い。

 尾を引くような遠吠え。


 びりびりと張り詰める緊張の中、魔物がその姿を現した。

 飛び出してきたのは《草原狼(グラス・ファング)》の群れだ。

 その背中には緑色の小鬼が乗っていた。棍棒や、弓矢を手にした個体もいれば、杖を持った個体もいる。

 

「ゴブリンと、ゴブリンメイジか」


 最弱と名高いゴブリンは何の問題でもない。

 問題があるとすれば、ゴブリンが草原狼の背に乗って高速で動いているという点だろうか。

 素早い動きでかく乱されている間にゴブリンメイジの魔法が放たれてきて、その隙を突いて群れに突貫でもされたら壊滅しかねない。


 そうなる前にこちらから迎え撃つ。

 俺は荷馬車から飛び降りる。


「ちょっ……お前、何やってるんだ! 一人で突っ込むな!」

「戻ってこい!」


 護衛たちが叫んでいるが、気にしない。

 俺はSランクギルド《暁の旅団》で盾役を務めていた。このくらいお手の物だ。

 大盾を地面に叩きつけ、大きく打ち鳴らし、声を張り上げる。


「おい、お前ら! こっちだ! こっちを見ろ!」


 狙い通り、草原狼共が突っ込んでくる。

 ゴブリンがケタケタと気の触れた奇声を上げる。

 正面から一頭の草原狼グラスファングが飛びかかり、嚙みつきが迫る。

 気合の叫び声と共に、盾ごと体当たり。


 頭蓋骨を砕く手応え。

 きゃうん、と子犬のような悲鳴をあげると、草原狼グラスファングは地面を転がりながら、血を吐いて動かなくなった。

 背中から振り落とされたゴブリンが立ち上がろうとしたところを、盾で殴りつけてその頭部を叩き潰す。


 仲間がやられたことで、魔物の群れが怒りの唸り声を上げる。

 魔物の群れが俺めがけて雪崩れ込んできたところを、


「今だ! 矢を放て!」


 護衛達がきりきりと弓を引き絞り、一塊となった魔物共に、すかさず矢の雨を浴びせかけられる。

 ゴブリンと草原狼が身体のいたるところを撃ち抜かれて、その場に崩れ落ちていく。

 びくり、と気勢をそがれ、立ち止まる草原狼とゴブリン共に、


「突っ込め!」


 抜刀した護衛達が、鮮やかな剣さばきで次々と斬り伏せていく。

 奥の方でゴブリンメイジが魔法を詠唱してるのが見えたけれど、


「《|沈黙せよ》《シュティレ》!」


 すぐにトアさんの魔法で呪文を封じ込められている。

 ゴブリンメイジは呪文を封じられていることに気づかず、ぱくぱくと口を開いて戸惑っている間に、首を刎ねられた。


 中には捌ききれず、俺を通り抜けて荷馬車に向かっていったゴブリンや草原狼グラスファングもいた。

 けれどすぐに護衛によって斬り伏せられるか、それすらもかいくぐってくる個体はトアさんの魔法によって沈められている。


 ……良い判断だ。


 魔法使いの立ち回りをしっかりと理解して、後衛に徹している。

 そんな彼女だからこそ俺は後ろを振り返ることもなく、全てを彼女に任せることが出来た。


「ふう……終わったか」


 魔物共が周囲から完全に消え去ったのを確認してから、盾を降ろし、ほっと息をついていると、肩を叩かれた。

 振り返ると、護衛たちが満面の笑みで立っている。


「すごいじゃないか、兄ちゃん」

「兄ちゃんが注意を惹きつけてくれたおかげで攻撃に専念できたぞ」

「今までどこのパーティにいたんだ」

「すごいですね、ティーさん。かっこよかったです」


 口々に褒め称えられるではないか。

しかもちゃっかりトアさんまで混ざって微笑みかけてくれる。


「いや、俺はたいしたことないよ」


 トアさんを見やる。

 すごいのは俺じゃない。そもそも最初に敵の襲撃に気づいたのは、トアさんだ。彼女の機転がなければここまで上手くはいかなかっただろう。

 しかもトアさんは自分の手柄を誇ることなく、俺が護衛たちから持ち上げられているのを嬉しそうに見ている。なんて謙虚な女の子なんだろう。

 真に称賛されるべきはトアさんである。


「ここ最近、魔物が増えてきた気がするの。何か異常の前触れでなければいいのー」


 荷台の奥に避難していたカトリーヌがいつの間にか姿を現している。


「それはさておき、見事な手並みだったのー。トアちゃんは可愛いだけでなく、強いだなんてさすが私が見込んだだけのことはあるの。うれちー!」


 偉そうに笑ってから、トアさんの手を取った。

 おい! 汚い手でトアさんに気安く触るんじゃねぇ! てめえのどぎつい香水の匂いが移ったらどうしてくれるんだ!


「ところであなたたちは本当に恋人じゃないのー?」

「違いますよ。もう、さっきもそう言ったじゃないですか」

「ほんとなのー? でもその割りには、息がぴったりだったように思えたの。まるで、共に死闘をかいくぐってきた間柄のようにね」

「……え?」


 あれ? 俺たち、そんなこと話していなかったよな。トアさんと一緒に魔物との死線を潜り抜けてきただなんて一言も言ってなかったのに……なぜそれを知っている?


 戸惑う俺をよそに。

 カトリーヌはじっとりと熱のこもった眼差しでトアさんをまじまじと見る。

 あまりの恐ろしさに、ぞっとなる。


いのう、愛いのう、愛いのう愛いのう愛いのう愛いのう――」


 呪詛のように、睦言のように、それだけを繰り返し囁く。


「カ、カトリーヌ……ちゃん? どうしたんですか?」

「おっと、いけないいけなーい。私としたことがトアちゃんの可愛さに正気を失ってたのー」


 カトリーヌは笑う。

 そこにはさきほど浮かべていたモノが嘘であったかのように、年相応の幼女のようなあどけない笑みを浮かべている。


「さあ、みんなー。こんなところで呆けている暇はないの。またいつぞや魔物どもが群れを率いて襲ってくるかもしれないの。モルディアナのみんなが私たちの帰りを、待ちわびているだろうし、急いで帰るのー!」


 護衛たちを急かしつけると、何事もなかったかのように荷馬車に戻っていった。

 ……さっき俺たちが見たあれは一体何だったのだろうか。

 得体の知れない不安を抱えながらも、俺たちも馬車に乗り込んだ。


 そしてしばらくして街が近づいてくる。

 ――モルディアナの街だ。


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