異世界に転生した元・なろう作家は、幼女と一緒に賢者モードでメシを食う。
「――待たせたな、マチ」
夕暮れ時の森の中。焚火の前に座る幼女に男が淡々と声をかけた。
「兎が獲れた。焼いて食おう」
男は澄ました顔でナイフを抜いて、手慣れた様子で獲物をさばき始める。すると黒い髪を肩まで伸ばした小柄なマチが口を開いた。
「コウダ。おかえり」
「ああ。ただいま」
やせた幼女は無垢な瞳でコウダを見ている。そのイノセントな視線をコウダは澄まし顔で受け流したが、その実、胸の中では死ぬほど悶えまくっていらっしゃった。
(う~あ、ヤバい。マジやべぇ。この子めっちゃかわいすぎて、ガチで辛抱たまりませんわぁ~)
――そう。
コウダはけっこうロリコンだった。
地球の女神によって異世界の惑星ヴァルスに転生した元・なろう作家のソルティーコウダは、世界中のダンジョンを探検する旅作家として生計を立てていた。
そして、とあるダンジョンで身寄りのない7歳の幼女マチと出会い、保護者になった。以来コウダは胸の中で渦巻くマチへの萌え萌えパッションを完璧に偽装する賢者モードの澄まし顔を身につけて、幼女と二人きりのウルトラハッピーな旅をしていた。
「ほら、マチ。肉が焼けたぞ。しっかり食え」
「うん」
コウダは渋い大人フェイスで串焼きの肉をマチの口元へと運ぶ。しかしマチが肉を頬張ったとたん、興奮で鼻息が荒くなった。
(あぁ~ん、やっばぁ~い。なにこの子ぉ。マジでラブリーエンジェルじゃ~ん♪ ああ、異世界って最高すぎる)
隣に座る幼女を見ながらコウダのハートは焼き肉よりも萌えまくった。しかし彼の顔面はデレることなくさらに肉を食わせまくる。
「ほら。まだいっぱいあるぞ」
「うん」
マチはコウダに寄り添いながら小さな口で肉を食べる。そんな無防備キュートな幼女を見てコウダは生唾をのみ込んだ。
(オウ……やべぇ。マジやべぇ。今すぐ俺のシャツの中にマチちゃんを突っ込んで、ゼロ距離だっこで幼女の温もりを感じてぇ~)
――そう。
コウダはかなりのロリコンだった。
だがしかし、彼の賢者モードは絶対に崩れない。なぜならば――。
「コウダ」
「ん? どうした」
「あのね……いつもごはんを作ってくれて、ありがとう」
不意にマチがコウダの腰に抱きついた。
「……気にするな」
コウダは胸の中で鼻血を噴き出しながら賢者フェイスでうなずいた。
――そう。
マチとコウダはお互いに信頼している。だから彼の賢者モードはこれから先も絶対に崩れない。
……たぶん。