サランの村という所2
レースって若い子が良く着ているイメージ
そこには、身長二メートルはあろうかというような大男が立っていた
しかし、”大男”という表現があっているのかは私含めこの場にいる全員が首を捻っていることだろう
容姿は完璧に男、むしろ素晴らしい筋肉量を持つがっちり系
しかし、問題はフリフリのレースがあしらわれたドレスのような装束を着ていることだ
髭の剃ったような跡が目立つ顔面にはがっつりと化粧が施されている
あまりの驚きに勇者を見に来た村人が絶句していると、一足先に正気を取り戻した村長が大男に近づいた
「失礼ですが・・・あなたがベルウィス王国から来られるという勇者様ですか?」
ベルウィス王国とは、この町の隣にある国のことで、漁猟を主に貿易している海の綺麗な王国だ
現ベルウィス国王は思慮深いと噂で、まさかオネエを勇者にするなんてことはないだろう
「やぁだ、あたしは勇者じゃないわよぉ!
勇者様はあっち」
なんだか安心したような、少し残念なような感情が沸いた気もする
よく見ると、開いたままの門から見える道の先に、二つ人影が近づいてくる
一つは子供のように小さく、もう一つは杖をついているのか腰の曲がった影だった
「ちょっとローズ
なんで僕をこの体力なしと一緒に来させたの?
おかげで一人で歩くより時間かかっちゃったじゃん」
「お・・・お前なぁ・・・・」
可愛い見た目からは想像もつかないような暴言を吐く少年は、さも不機嫌そう杖を握る少年を見る
息も絶え絶えのこの男は、さして距離も離れていない隣国から杖をついて歩いてきたのだろうか
それならこの可愛い少年の意見も一理あるのではないかと思ってしまった
完全に置いて行かれてしまった村人に紹介がされたのは、杖をついていた男に水を与え、息を整えた後だった
「始めまして、俺がベルウィス王国の勇者ヨルです
こっちのでかいのがローズ、分かりづらいですが魔法使いです
そして、こっちの子供が僧侶のルク」
先ほどまで杖をついていたヨルと名乗る男の話では、ベルウィス王国からの道中魔法使いであるオカマ、もといローズが森に住む狼達を刺激してしまい、ここまで追いかけられていたそうだ
森に住む獣は獰猛だが人里を襲うような度胸はないから、入り口に集まっている村人の気配を察知して逃げてしまったらしい
魔物以下の獣に追い掛け回される勇者が信用できるのかと思わず口から悪態が出そうになったが、そこは持ち前の表情筋で耐えてやった
爺含め老人連中は顔がこわばっているので、もう少し表情筋を鍛えたほうがいいと思う
何はともあれ、勇者がこの村に訪れたことに変わりはない
村は予定通り勇者を歓迎する宴の真っ最中で、目の前では踊り子が舞い弾き手らが音を奏でている
私も予定通り勇者様の酌をさせられているのだが、酒は好まないのか進みが良くない上にあまり喋らないし、目線すら合わさないのは一体何なのだろう
仮に愛らしい少女が恥じらいからこんな行動をされたら可愛いと思えるが、実際に自分と同じか少し上の男にされても何とも思わないし、むしろ少し引く
言いたいことがあるのならその口で言えこの貧弱、なんて言ったら監視するように聞き耳を立てる村人たちに大目玉を食らうことは確実なので、その場で口にチャックをした
まあ、自分の気持ちも満足に発言できないのはお互い様かもしれないけれど
今だって、私は周りの目があるから上辺だけの言葉を吐いている
それが自己なのか他意なのかの違いがあるだけだ
私がこの男にどうこう言える立場ではない
宴も終盤に差し掛かり、どんよりと黒い塊のような重い気持ちを残したまま、辺りには暗い影が滲んでくる
松明に灯された火が、周りだけを照らしている光景が、少し離れた所にいる魔法使いの楽しそうな笑い声も、村の子供の声も、いつもなら笑って過ごせるのにどうしようもない苛立ちを感じてしまう
仄かに甘酸っぱい香りのする酒の入った瓶を持つ手に力が入った時、近くで私を呼ぶ声が耳に届いた
「あの・・・大丈夫ですか?」
隣に座る男、ヨルがこっちを見つめていた
村長の締めの挨拶が始まっているから誰も自分を認識していないと思っていたが、どうやら私の認識は甘かったらしい
いつの間にかほとんど減っていなかった酒のグラスは空になっていた
「申し訳ございません・・・グラスが空かれているのに気がつかず
おかわりはいかがですか?」
「いえもう大丈夫です。それより、何やら暗い顔をされていたので気になってしまって
無理はしないで下さい」
さっきまで私の方を見ようともしなかったくせに、そういう所には気がつくのか
無理やり話を切り替えてみたものの、この男はそれを良しとはしないらしい
思わず顔を顰めてしまった事に気付いていだろうに、ヨルはそれ以上何も告げることなく、私も何も言えないまま長い長い宴は幕を閉じた
果実酒って美味しいよね