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村人Aの冒険譚  作者: 夕日
1/3

サランの村という所

自分の美少女の表現乏しい



「ようこそ旅の方、ここはサランの村です

何もないところですが、どうか旅の疲れを癒していってくださいね」


村に入ると一番最初に話しかける人間は、必ずと言っていいほどこのような事を口にする


特に誰に強制されているわけではなく、ただ単に家が近かったから、旅人が話しかけやすい場所を通り過ぎたからなどの理由で口にするその言葉は、おそらく村中でアリスの口から吐かれていることが大半だと思う



魔王という存在が突如として現れてからというもの、各国の王らは勇者と呼ばれる魔王を打ち倒す人間を国に一人ずつ旅人の中から決め、それ以外の者を旅人と呼ぶように定めた


本来ならば勇者と呼ばれる選ばれし者はこの世界に一人だけだが、この国の王らはそんな不確かな人間に絶対的な信頼をおけないらしい




城下に比べ豊かでもない辺鄙な田舎であるこのサランの村では、旅人が置いていく銭が貴重な収入源にもなっているわけで、無下にするわけにもいかないのも頭では分かっているのだが



それでも、誰に聞いたって同じような事を言うのにわざわざ私に話かけるなと、心の中で悪態をつくのを止められない






完璧な自慢になってしまうが、私は村の中で一番見目が良い


日の光に透ける絹糸のような髪

陶器のような肌

宝石にも見立てられる薄い水色の瞳

紅を引いているような艶やかな唇


アリスという名前も、今は亡き母が童話に出てくる様な可憐な女性になってほしいと付けてくれた名前だ


内面の汚さは隠しようもないのでともかくとして、外面は我ながら完璧に揃えたと思う



それこそ、何の期待もしていないドがつく田舎に足を踏み入れると、可憐な少女が佇んでいるのだから声を掛けたくなる気持ちもわからないではないが、毎日何人もの人間から声を掛けられる事ほど面倒くさいものはないのだ







「皆集まったようだな」


立派な髭を蓄えた村長が口を開くと、何故呼び出されたのかわからない私含めた村人達は身体を向き直す


今日も今日とて旅人に話を掛けられ、時にはナンパにも似た文句を吐かれたりもして精神的疲労で表情が硬くなってきた頃、村の長である道具屋の爺に呼び出された


村長の手には立派な羊皮紙が握られており、何やら神妙な面持ちの村長はそれを掲げる



「明日、この村に隣国から勇者が来る

そこで、ここにいる者たちにもてなしをしてほしいのだ」


各国に一人しかいない勇者と呼ばれる一握りの人間がこの村に立ち寄るのだ

ならばここでこの村を気に入ってもらえば、‘勇者のお墨付きの村‘としてそれが更なる資金を呼ぶことになる

                 

いわばここに集められた者は村の為に有益な人間だ

                 

ざわつく村人の中にはこの村一番の料理人や宴に呼ばれるであろう踊り子、音楽を奏でる弾き手がいる

ならば自分がここに集められた目的はただ一つ、これから来る勇者の酒を注ぎ笑顔を振りまき、隣国の店の女のようにしろということなのだろう


こんな扱いも一度や二度ではないが、相変わらず人を道具のように使うその精神に吐き気がする

私の見た目は金になると分かっているからこその収集だった



「反吐が出る・・・」




思わず口から洩れた言葉は皆の話し声にかき消されてなくなった









翌朝、朝早くから村の女にたたき起こされた私は、いつもより上等なドレスに身を包んでいた

ルビーのように鮮やかな赤いスカートは日の光に照らされた髪によく映える


あの後何とか逃げ出そうと夜中脱出を試みたが、今まで何度もお世話になった抜け道に、あの髭が立っているのは正直心臓に悪いものがあった


腹いせにあの爺の家の前に夜通し穴を掘っておいたのだが、果たして落ちたのかは本人しか分からない




村もすでにお祭りムードで、勇者を一目見ようと子供からお年寄りまでが村の入り口である木の門に集まっている

村長に至っては上等な筆のような髭に赤いリボンを結んでいるのだから、浮かれているのが一目でわかった


テーブルには様々な料理が並べられており、あれよあれよという間に朝食を抜く羽目になった私からしてみれば拷問にも取れるような長い長い時間だった



何度目かわからないため息をついた時、開門を知らせる鐘とともに門がゆっくりと音を立てて開き始めた


誰の者かわからない唾をのむ音を聞きながら、その瞬間を待っていると、






「いやぁん!可愛い村ねぇ!!」




女性とは取れない野太い声が村中に木霊した







いやぁん!

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