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禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜  作者: supico
実地訓練−治安維持活動:編入3日目
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不測の事態②


***



「……くん……ぃくん……累くんっ……!」


 どこか遠くから聞こえて来た声に、泥の中から意識が浮上した。


 頭を撫でる、誰かの優しい手を感じて、ゆっくりと目を開ける。


「あっ、累くんっ! 気が付いた!?」


 寝ぼけ眼で見上げた視界には、自分を見下ろしてホッと息を吐くニイナがいた。寝起きに、至近距離からの満面の笑みは、結構破壊力が高い。


「ぁれ……ニイナ……? ふぁーあ……なんか、よく寝た……?」

「よく寝た、じゃねーよ!! 寝すぎだボケ!」


 我慢しきれず、欠伸をしながらぼんやりと口を開くと、すかさず鋭いツッコミが入った。こんな事を言うのは和久しかいないだろう……なんて考えて、そこで初めて、あれ、と思う。何で寝てるんだっけ……。


 何度か瞬きをしながら周囲を見渡して、ようやく、ニイナの脚を枕にさせて貰っていたのだと気付いた。柔らかい太ももがクッションになって、意外ととても寝心地が良い。しかし、それにしては後頭部が痛いような……。


 無意識に痛みの部分を押さえようと手を動かして、ギョッとした。

 両手が、身体の前で縛られていたのだ。


 手首を持ち上げると、丈夫そうな麻布でしっかり結ばれているのが見えた。簡単には解けそうもない。


 なんでこんな事になってるんだっけ……と、混乱しながら上体を持ち上げれば、ニイナが優しく背中を支えてくれた。


 軽く礼を言って視線を上げると、次に見えたのは、呆れ返った顔の堂本だった。


「お前……想像以上に図太いな。初めての実地訓練で、こんなに伸びてた奴は初めてだぜ」

「あれ、堂本さん、おはようございます」

「おはよう、じゃねーよ!」


 何だか傷だらけになっている堂本に、とりあえず起床の挨拶をしてみると、和久ばりのノリツッコミが返ってきた。


「一発殴られただけで、どんだけ寝る気だよ!」

「あーなるほど。通りで後頭部が痛い……」


 頭の痛みに合点がいって、縛られた手を何とか動かし、後頭部をさわさわと撫でる。と、ニイナが累の手に、自らの手を被せてきた。


「大丈夫かな? 念のためさっき勝手に触っちゃったんだけど、タンコブは無かったと思うんだ」

「うん、大丈夫だよ、ありがとう」


 傷があったとしても、治ってただろうし……とは言わず、背後から覗き込むニイナに感謝する。

 が、そこで視界に入った、同じように縛られたニイナの手に、頭の芯が急に冷えた。正確には、赤く腫れた手首に。


「ニイナ、それ……」

「あ、この痣? うん、さっき捕まった時、無理に抜け出そうとして、自分でやっちゃったの。全然痛く無いんだけど、回復魔法が使えないから、ちょっと目立っちゃうよね」


 見苦しくてゴメンねーと眉を下げるニイナに、自身の置かれた状況がようやく理解できた。


 白く無機質な室内。

 高窓から採光しているものの、外は一切見えず、椅子などの家具も無い。ただ部屋の一辺には、まるで教会の祭壇を模したような空間があった。

 隠れた教会、とでも言えそうな、さほど広くは無い室内にいるのは、累たち4人だけ……。


 のほほんとしていた雰囲気を一瞬で捨て去り、冷静に周囲を確認する累。その空気を感じた堂本は、すかさず状況を説明した。


「今はあの集会所の中の一室だ。ご覧の通り、縛られてる上に魔法も使えない。……お手上げだな」


 自嘲するように笑う堂本。見れば、堂本も和久も、生傷だらけで両手を縛られていた。魔法の構成を阻害する結界が張られている以上、回復魔法が使えないのだ。


「まさかあんな特殊な拠点設置型魔法を所持してたなんてな……。ホント、調査不足のマヌケな話だよ……お前たちには迷惑をかけるな」

「いや、堂本さんのせいじゃないっすよ。俺も全然戦力になれませんでした」

「私もですっ。まだまだ訓練が足りないって……凄く実感しています……」


「……え、あ、自分も……」


「「お前は反省しろ!!!」」


 流れに乗ってみようと思ったのだが、ダメだったらしい。

 小さくを手を挙げた瞬間に、堂本と和久から全く同じダメ出しが飛んできて、吹き出してしまった。


「笑ってる場合じゃねーぞ!? あんな分かりやすく近付いてきた敵に一発KOされるって、相当だからな!?」

「それは主観的な問題でしてー……」

「ニイナでさえ1人は倒したってことを、身に沁みて実感しろ! 魔法関連はすげぇ回避力あるんだから、少しはこっちにも回せよ」

「いや、あれは反射神経ではなく、フライングで見えてるからってだけで……」


 呆れ果てた堂本からの、和久のコンボに、しどろもどろの返答をする累。

 しかしまだ言い足りないらしい和久が、更に口を開く。


「お前、ほぼ無抵抗に近いからな!? 無抵抗って何だよっ!」

「心の中にはレジスタンスが……」

「しかもノビてるおかげで、お前1人だけ無傷だしよぉ!」

「でも後頭部が……って、それは敵さんに言ってよっ!」


 起きた途端に後頭部は痛いし、凄い勢いでダメ出しされるし……いや、でもニイナの膝枕で起きれたのは貴重な体験だったかも。


「あはははっ、最後のは完全に和久の八つ当たりー」

「和久、捕まった後もボッコボコにされてたからなぁ……」

「口の中がまだ血の味するっす……」


 不味そうな顔で大袈裟に溜息を吐く和久に、苦笑気味に慰める堂本とニイナ。


 ひたすら指摘されまくりだった累は、この期に及んでも自分のペースを崩さず、しんみりした空気が好転したなぁ……と、見当はずれな感想を抱いていた。


 とはいえ、


「これからどうするっすか?」


 和久の静かな問いに、堂本への注目が集まった。彼の左胸には、師団員の証である、青い団章が輝いているのだから。


「そうだな、まずは……」


 と、堂本が口を開いた時、


「——懲りもせずに、無駄な相談か?」



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