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禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜  作者: supico
実地訓練−治安維持活動:編入3日目
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治安維持活動①



「おい、これは学生の演習とはワケが違うからな。集中しろよ」


 そう言って前を歩くのは、黒い団服を着た魔法士だ。左胸に輝く青い団章が、紺碧師団に属する魔法士だと教えてくれる。


 実地訓練と称した、魔法士部隊の治安維持活動に協力する、累・ニイナ・和久は、彼の後ろを真剣な面持ちで歩いていた。


 今から向かうのは、魔法学校から少し離れた場所にある、辺鄙な村の、更に森の中にある小さな集会所。

 そこに、今回の任務のターゲットがいた。


「情報によると、頻繁に出入りしているのは4〜5人。全員が若い男で、人目を避けるように、布に包まれた荷物を運搬しているそうだ。その荷物こそが、不正に売買している『聖遺物』らしい」

「……『聖遺物』って、500年前の埋蔵品ですよね。均衡崩壊前の……」


 和久の質問に、先導する魔法士が迷いなく頷く。


「あぁ。この近くに発掘現場があってな、恐らくそこからクスねているんだ。場合によっちゃ、発掘現場の作業員もグルかもしれないな」

「売買禁止の『聖遺物』を、不正に流通させてた、ってことですか……」

「そうだ。本来なら教皇庁へ奉納しなければならないシロモノだ。奉納すれば、その価値に応じた祝福を受けることが出来る。だが、ここを根城にするチンピラ共は、その祝福を、金銭で贖おうという不届き者達へ、売り捌いているらしい」


 吐き捨てるように説明する魔法士は、名前を堂本久志と言い、師団に所属して4年目になるらしい。入団後も、治安維持に専任しているらしく、対人戦闘に関しては紺碧師団内でも評価が高い人物ということだ。


 今日は実地訓練をかねて、堂本が調査を進めている、『聖遺物』を不正売買する根城を叩く予定だ。

 魔法学校の正装である制服を着込んだ累たち3人は、堂本の指導配下として、彼からサポートを受けつつ、根城に出入りする売人達を捕獲しなければならない。


「説明した通り、相手はチンピラだ。お前達が、基礎科で学んだ戦闘技術を使えば、十分に制圧できる」


 鼓舞するような堂本の言葉だったが、3人の表情は晴れない。


 何と言っても、対人戦闘がダメダメな累と、控えめに言って苦手な部類というニイナ、そして格闘を好む和久、という3人なのだ。

 どう考えたって、和久の負担が大きい。


「あの、魔法を使うのは……」


 実戦とあって、しっかりと髪をまとめたニイナが、控えめに手を上げて質問した。


「もちろん、魔法を使うのは自由だ。俺たちは魔法士だからな。ただし、周囲への過剰な被害が見受けられた場合は、叱責程度じゃ済まないぞ。結界を張るなり、自己コントロールには必ず留意すること」


 魔法はオッケーという堂本の回答に、ホッと肩の力を抜いたニイナ。


「良かった。足止めの小さな魔法を使えば、2人ぐらいは相手にできると思います」


 体術が苦手と言っても、魔法学校で戦闘技術を鍛え上げているのだ。一般人がニイナの相手になるわけがない。


 和久からしたら、むしろ魔法なんて使うまでもないと、拳を叩いてアピールしている。


「じゃあ最初の打ち合わせ通り、先頭は和久、その後ろをニイナが魔法でカバー。累は2人が倒した奴を確保。俺は念の為、最後尾をつとめよう」


 累の前評判を聞いて、戦闘要員には入れないでくれた堂本の指示に、ありがたく、伸されたチンピラを縄で縛り上げる役を引き受けた。



***



「見えるか?」

「はい……4人……5人、っすかね? 何かを見ながら、交渉してるっぽいっす……」


 木々に紛れながら、集会所の中を窓越しに確認する和久。


 民家から少し離れた場所にあるこの集会所は、午前中だというのにひっそりとした空間になっており、やましいことをするならば最適の立地だった。

 累達4人は、木や茂みに身を顰めながら、機会を伺っていた。


 和久の報告を、思案気に聞いた堂本は、顎に手をやる。


「バイヤーは全員いないかもしれないな……」

「……そっすね。たぶん1人は、買いに来た町の人っぽいです」

「うーん、どうするか……ここで1人でも逃すと、捕まえるのが困難だな……奥の部屋にいる可能性もあるが……」


 その逡巡も当然だ。逃げて民家に紛れ込まれたら、確固たる証拠がない限り見つけ出すのは難しい。


 出入り口が1つしかないのは幸いだったが、このまま突入して良いものか、判断に迷うところだった。


 堂本が熟考する中、和久が、良案を思いついたとばかりに累を見る。


「おい累。お前の索敵魔法で、中の人数わからねぇか?」

「あ、ほんとだっ! 累くん、得意だもんね。訓練の時も凄かったしっ!」

「……ぇ、いや……っ」

「索敵魔法? あぁ、確か累はそういう、後方支援向きの人材だったな」

「うちの鷺ノ宮会長も褒める才能っすよ」

「おぃ、ちょっと和久!?」


 和久とニイナの、オーバーな褒め言葉を焦って遮る。


「鷺ノ宮連隊長の姪っ子さんに認められてるなら、大したもんだが……本当かぁ? おべっかじゃねぇの?」

「いや、そうなんです、索敵って言っても……」


 範囲魔法を使って索敵しているのではなく、累にとっては、見えているだけなのだ。……捕食対象である、魔力の痕跡が。

 だから魔力を持たない、普通の人間を索敵することは出来ない。

 魔法学校の訓練では、全員が魔力の持ち主だから、十分に有用だっただけで、この場では役に立たないのだ……と、説明しようとしたところで、あれ、と気付く。


 奥の部屋の方角に、淡い輝きが3つ、ぽつりぽつりと揺らめいているのだ。


「……奥の部屋には、3人、いますね……」

「ん、3人? 人数的には十分だな……が、その情報の確度は?」

「……3人は確実にいます。でも——」

「でも?」


 累は一呼吸を置いてから告げた。


「その3人は、魔法士かもしれません」



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