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翌朝①



 翌朝。


 ギリギリまで寝ていた累は、あくびをかみ殺しながら、校舎へ続く遊歩道を歩いていた。


 昨晩は歓迎会の後、念のためノクスロスが発生していないかを確認すべく、魔法学校の周囲を見回っていたから、非常に寝不足だ。


 見回るとは言っても、残念ながら累は転移の魔法が使えない。行動できる範囲なんてたかが知れていると、早々に敷地の外周を回ることは諦め、適当な高台から周囲を見渡すに留めておいた。ノクスロスとして実体化するほどの濃密な穢れであれば、ある程度離れていても十分に見つけることが出来るからだ。


 結果、紺碧校の周囲は、意外にも穢れが少なかった。


 ノクスロスの被害が頻発している、と聞いていたにしては、穢れが活性化する深夜にも関わらず、早急に対処が必要なレベルの塊は見当たらなかったのだ。場所によっては、教皇庁の聖域に近い程の、澱みがない空間もあったから驚きだ。

 宿主がいるタイプのノクスロスといえど、基本的に穢れは、更なる穢れを好む。被害が頻発する、ということは、それだけ周囲に澱みが生まれている筈なのだ。

 なのに、あそこまで何もないなんて。本当に拍子抜けだった。


 肩透かし感に首を傾げながらも、それならそれでいいか、とすぐに部屋へ戻ったが、過剰に捕食させられたアトリの魔力のせいで、目が異様に冴えていた。だから、穢れを一掃がてら、余剰な力を発散しようと思っていたのに……ただの散歩じゃ意味がない。


 お陰様で、寝不足だ。


 時間が許す限りベッドに転がっていたものの、見かねたスズメに叩き起こされ、身ぐるみを剥がされる始末だ。寝惚けていて全く覚えていないが、数人がかりで身支度をされたような気がする。


 そして『教室まで付いていきたい』と顔に書いてあるスズメに見送られ、今ココ。というやつだ。


 朝の陽光がやたら眩しくて辛い。


 いい天気過ぎるだろ……と、意味もなく天気に八つ当たりしながら、校舎の門をくぐった。ここまで来ると、結構な人数の生徒が溢れていて賑やかだ。


 日陰の有難さに感謝しつつ、屋根のついた通路を歩いていると、ふと視線を感じた。


 何気なく目を向けると、同じく制服を着た女子生徒と目が合う。


「…………?」


 何か用事でもあるのかと思いきや、すぐに視線を逸らされてしまった。そして隣の友人らしき女子生徒と、コソコソと、だが楽しそうに話し始めてしまう。


 偶然目が合ってしまっただけなのだろうか……?

 ……なんて。

 1回だけならそう思う。そう。間違いなく、最初の1回目はそう思った。


 だけれども、同じことが今朝からもう数度目なのだ。

 流石に偶然だけで済ませるには頻度が多すぎる。


 チラリと別の方向へ顔を向ければ、やはりこちらを向いていたらしい数人が、パッと身体の向きを変えた気がした。


 ……被害妄想が過ぎるのだろうか。

 そうも思ったが、でも何故かやたらと視線を感じるのだ。


 一応念のため、自分の服装を見下ろしてみるが、変なところはない、と思う。師団服にも相似した黒の制服は、累にとって着慣れたスタイルだ。

 それに何といっても、スズメが整えてくれたのだ。おかしな箇所などあるわけない。


 「……じゃあ、ま、いいか」


 悪意はなさそうなので、編入生が珍しいだけなのだろう、とあっさり納得する。


 そもそも、視線に晒されるのは慣れているのだ。

 一挙手一投足を見逃すまいとする、【止まり木】達の視線に比べれば可愛いものじゃないか。


 そう思うと、突き刺さってくる視線たちも、瞬時に気にならなくなるのだから、慣れとは恐ろしいものだ。


 うむうむ、と一人納得しながら歩いていると、すぐに校舎の昇降口まで辿り着いた。


 時間的にはギリギリだったが、まだ周囲で雑談を楽しむ生徒も散見される。遅刻することはなさそうで一安心だ。

 2日目からこんなんじゃ、先が思いやられるなーと思いつつ、板張りの廊下を歩いていく。


 さて教室はどこだったか……と、視線を巡らせていると、廊下の先が騒めいていることに気付いた。


「…………?」


 よく見れば、誰かの周りに人が集まり、挨拶をしているようだ。

 わざわざ出向いてまで挨拶をしたい相手なんて、一体誰なんだ……と思って眺めていると、


「あれ、副会長……?」


 人垣の間を颯爽と歩いてきたのは、薄いレンズのメガネが非常によく似合う、冬馬ハルト副会長だった。今日もピシリと制服を着込み、背筋を伸ばした立ち居姿には若干の威圧感すらある。


「——峯月累。教室はこっちだ」



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