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禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜  作者: supico
■第一幕■ 魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科3年:編入初日
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午後①




 模擬訓練の後は、昼食を挟んで自習の時間となる。


 一部の選抜された生徒は、紺碧師団のどれかの部隊に付いて、実地訓練と言う名の『巡回』に出るらしいが、勿論、累に声はかからなかった。魔法でも戦闘でも筋トレでも、好きに施設を使って訓練しておけ、ということらしい。人によっては、教師陣に師事を請い、少人数での特訓をお願いすることもあるそうだ。

 ニイナは救護室の回復魔法士に鍛えてもらうのだと息巻いていたし、和久は筋トレをしてから、魔剣での戦闘訓練なのだとか。


 累としては、先ほどの模擬訓練で疲れ果てたので、コンディション調整と銘打ってサボる気満々だ。和久とニイナが、限りない善意の眼差しで訓練に誘ってくれたのだが、丁重にお断りしてきたことは言うまでもない。


 まずは昼食だ、と意気揚々、一般棟の食堂へ向かう和久らとは別れ、特別棟に割り当てられた自室へと戻ってきた累。


「お帰りなさいませ」


 丁寧に頭を下げて出迎えるスズメに上着を渡し、部屋の中心に置かれた、豪奢なソファに腰を下ろした。


 この特別棟は、使用人を抱えることが前提の部屋なだけあって、広く、贅沢な作りをしている。年季の入った、しかし徹底的に磨かれているのが分かる、味のある木目調の落ち着いた部屋に、オーバーサイズ気味の家具たち。

 しかも、部屋の主人の為だけではなく、従者が寝泊まりするための小さな個室も併設されているのだから抜かりない。


 昨日の晩、この部屋に案内された時には無かった調度品が揃えられているのは、スズメの仕事だろう。このソファも含めて、見慣れたデザインの大型家具も、事前に運び込んだに違いない。いつもながら完璧主義が過ぎる。


 ぐるりと周囲を確認した後、側に立ったまま、主人の視線を待つスズメを見た。


「ご昼食は如何いたしますか?」


 本日も、一片の隙も無いハイネックのブラウスと、ハイウエストのプリーツスカート姿のスズメ。シックながらも甘みのあるコーディネイトが、非常に良く似合っている。柔らかい金髪を切り揃えた前髪と、細く長い三つ編みは、普段通りのトレードマークだ。

 長い睫毛の間から覗く、澄んだ瞳を見つめながら、食事ねぇ……と考える。


 朝もお茶を一杯飲んだだけで、疲労困憊になるまで動いたのだ。身体はカロリーを必要としているだろうが、そういう意味での食欲は、わかない。


「いいや。紅茶だけ、ちょうだい」


 疲れすぎて、食べることすら億劫だ。


 飲み物だけを頼むと、スズメは一礼をして下がった。

 部屋を出てすぐの別室に、キッチンがあるのだ。恐らくそこで用意してくれるのだろう。


 ……と思っていると、間を置かずに、装飾の施されたワゴンを押して戻ってきた。


「あれ、早かったね。予想してた?」

「当然です。ある程度のパターン、準備しておりましたから」


 何てことない風に言い切ったスズメは、素早く、だが決して大きな音を立てないように、茶器をテーブルへ並べる。

 その手慣れた仕草を眺めながら、無駄になった準備があったのかと思い、申し訳なくなる。


「あー……今度からは、お湯だけ沸かしといて貰ったら……スズメ1人じゃ大変でしょ?」


 どうせ食べる必要は無いのだし、毎日これだけ疲労困憊になるのなら、飲み物だけでいい。


 そう思って提案してみたのだが、


「お気持ちだけ、有難く頂戴いたします。そもそも、私1人ではありませんので」

「……そうなの?」

「快適な環境をご提供するために、本日より増員しております。それに、私1人だけが累様にお仕えするなど、他の【止まり木】の仲間から恨まれてしまいますから」

「そんな大げさな……」

「このお茶の準備も、厨房担当の者が致しました。もし、累様が不要と仰ると、その者の仕事は無くなってしまうのです。……どうぞ、ご不便でなければ、我々がお仕えすることをお許し下さいますよう」

「えぇぇ…………いや、うん、好きにしてくれれば……うん、どうぞ……」


 冗談ではなく、本気で言っているらしいスズメの言葉に、拒否も出来ずに丸め込まれる。

 いや、これは仕方ない。うん、誰だってこんな美少女にここまで言われたら、断れない筈だ。うん。


 自分で自分を慰めつつ、出された紅茶を前に、頂きますと口にしてから手を伸ばした。


 熱い液体が喉を通り、身体の内から温まる感覚に、疲労感が少しやわらぐ。

 このままリラックスモードに突入してしまえば、今度は昼寝でもしたい気分だが……一応は潜入調査なのだと思い直す。あまりまったりと学生生活をエンジョイしていると、各方面から苦情が入りかねない。


 なんてことを呑気に考えながら、ゆっくりカップを傾けていると、部屋の扉が小気味良くノックされた。




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