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禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜  作者: supico
■第一幕■ 魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科3年:編入初日
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訓練が終わって……②



「全然、汚れてないね。ヨレヨレだけど」

「…………制服ですか?」

「うん。編入して1回目の模擬訓練だから、どうかなーと思って。特に最初のフェーズは全然動けてなかったし、戦闘自体、苦手そうだったから」

「それは、ご心配をおかけしたようで……」

「さっきの最終フェーズは攻防が激しかったし、結構汚れるかな、と思ったんだけど……。……あんまり戦闘に参加してなかったの?」

「まぁ……はい、あまり……」

「——あ、それは俺が。累には、とりあえず逃げとけ、って指示したんで」


 和久が小さく手を挙げて、会話を割って入る。


「そういう作戦だったの?」

「あー、累は索敵が得意なんで、後方支援としてのサポート役をお願いしてたんです。直接対峙しての戦闘は、また次回以降でも良いかと思ったんですが……マズかったですか?」


 恐る恐る聞く和久に、ユーリカはカラカラと笑って否定した。


「違う違う。別に全然問題ないよ。ただ、ちょいちょい攻撃を指示してたんだけど、当たった気配は無いし、前線にも出てこないから、どうしたのかなぁと思っただけ。そっかー、探知系が得意なんだ。ふーん……でも、最後の重力波を躱されたのは、ちょっと悔しかったかな。私の得意攻撃なんだよ?」

「——え、累、会長の攻撃を避けたの!?」


 驚愕の声を上げる和久に、たじろぐ。


「そりゃ、狙われたから逃げたけど……最後のはホントびっくりした」

「いやいやいや。ビックリとか冷静に感想言えるような代物じゃねーって。お前の探知能力、便利すぎるだろ」

「……便利だねぇー」

「他人事かっ!」


 食い気味のツッコミは、疲労した身体には辛かったらしい。笑った表情のまま一瞬顔をしかめた和久が、大きく脱力した。


「こっちが必死に攻防してたっつーのに。なんだよ余裕かよ。……次は絶対に前線メンバーに加えてやる」

「えぇぇ、攻撃系は全く適性無いんだってば」

「なんとかなるだろ。お前、器用そうだし」

「いやぁ、だから逃げるのだけは得意っていうか……」

「自慢になんねぇよっ?」


 ぽんぽんと続く軽快な会話に、ユーリカがくすくすと上品に笑いながら口を開いた。


「いいねぇ、二人。なんか凄く……バランスが絶妙」

「絶妙って……それ褒めてませんよ?」

「あははははっ」


 和久の言葉に更に楽しそうに笑うユーリカ。無防備な笑顔を見せると、戦闘時の威圧感などまるで無く、人としての魅力に溢れている。

 これで生徒会長なのだから、慕われるのも納得だ。


「ユーリカ様」


 そしてその腹心となるのが、冬馬ハルト副会長。

 颯爽とした足取りで歩み寄ってきた冬馬は、累と和久に気持ちだけの目礼をして、自身の主人へと話しかける。


「特にケアが必要な負傷者はいないようです。大きな問題点もありませんので、このまま解散になるでしょうが、何かございますか?」


 冷静沈着を絵に描いたような、薄いレンズの眼鏡が非常によく似合っている男だ。性格なのか、従者として育てられていたせいか、淡々とした物言いは、見た目以上に落ち着いた年齢に見える。


「そうね、峯月くんも怪我は無かったし、私からは何もないよ」

「では担任へその旨を伝えて、集合を促します。……あと別件ですが、夕方の会食がキャンセルとなりました」

「あら、叔父様、どうかしたの?」

「緊急の出動要請があったようで……」

「まぁ、ディギー叔父様が出るなんて相当ね。手強いノクスロスだったのかしら……」

「——え、ディギー叔父様……って、第4連隊を率いる鷺ノ宮ディギー連隊長ですか!?」


 二人の会話を聞くともなしに聞いていた和久が、驚いたように声を上げた。


 それがどうした、と言わんばかりのユーリカが小さく頷く。


「そうよ。知ってるの?」

「お名前は有名なので以前から。でも1度だけ、実地訓練の時にお会いしたんです。……凄い、魔法士様でした……」

「叔父様は、近年の鷺ノ宮家でも3指に入る天才ですもの。私なんか、叔父様が学生だった時には全然及ばないわ。今日は、こちらにお招きして、勉強させてもらおうと思っていたのだけれど……お忙しいみたいね……」


 せっかく広間に夕食の用意をさせていたのに……と残念がるユーリカ。

 大きな被害が無いと良いんですけどね、と憂う和久も名前を知っているほど、この辺りでは高名な魔法士のようだ。

 残念ながら世事に疎い累には、会話を挟む余地もない。むしろ、未だに冬馬と言葉を交わしていない事に気付き、どうやって話し掛けようか、なんて悩んでいた。と言っても、一欠片の視線も合わない隙の無さに心が折れてしまう。


 身長高いくせに背筋も良いって嫌味だよねー、なんて僻み根性丸出しの心境で眺めていると、雑談を交わしていたユーリカが、少しの間を置いて、はたと顔を上げた。


「そーうだっ、歓迎会にすればいいじゃない!」

「……ユーリカ様?」

「もう殆ど準備は済んでいたんでしょう? せっかくの機会だわ。——ねぇ峯月くん、夜空いてる?」



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