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禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜  作者: supico
■第一幕■ 魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科3年:編入初日
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訓練開始③



「っ左に逃げて!」


 累の声が、届くか届かないかの瞬間、


「っく……!」

「……っぶねっ」


 カマイタチのような風の刃が、大きく地面を抉った。激しい音と共に、衝撃に砂埃が立つ。


 警告が間に合わなかった数人が、かすめたようだった。

 制服が破れ、赤い火傷を抱えた生徒が蹲る。


 それでも、殆どが累のとっさの指示で、大きなダメージを免れたらしい。

 素早く反撃に転じる3班。


「助かったぜ、累っ! みんなっ、攻撃に集中しろ! ニイナは回復を!」


 和久の声を聞きながら、1班からのターゲティングを恐れて移動する。あんな攻撃の的になるなんて、絶対にご免こうむりたい。


 茂みに身を潜めながら周囲を確認すると、負傷者の回復を始めるニイナが見えた。


 綿毛のようなふわふわな髪を乱しながら、真剣な表情で蹲る生徒に声を掛けている。

 そして息を整えたかと思うと、口の中で小さく呪文を呟き出した。

 ぼんやりとした燐光がニイナの手を包み、それを痛みに顔を顰める生徒へかざす。すると直ぐに、生徒の表情が和らいだ。


 負傷した部分をよく見ると、火傷のように腫れた肌の赤みが、じわじわと引いていっている。

 ニイナは回復に適性がある、と紹介されるだけあって、スムーズな回復魔法だった。


 しかし、肉体は治っても、制服は直らない。回復魔法とは、本人の自己回復力を魔法で補うものだからだ。


 破けた制服のまま再び戦闘へと戻っていく生徒を見ながら、せっかくの制服が勿体無い、と庶民的な累である。


 実際は、汚れたり破けた制服は、学校運営側がすぐに修繕・交換してくれるから心配は無用だ。心置きなく訓練に励めるというものなのだが、この綺麗な制服も寿命が短いのかと考えると、けっこう複雑な心境だった。


「——っと」


 視界の端に捉えた魔法の気配に、慌てて回避する。


 数歩のステップで次の茂みへと身を潜めたが、予想外に再び向かってくる攻撃魔法。

 避け過ぎかな? と思いつつも痛いのは嫌なので、ギリギリ当たらない所でやり過ごす。


「見つかっちゃったか……」


 向けられる魔法の数が増えてきた気がする。

 しれっと逃げている累のことを、相手が認識したのだろう。少々うんざりしたが、和久たちの動きに合わせて、目立たないように移動を繰り返した。


「くそっ、4班まだか!?」

「あと5分はかかるっ——」


 和久たちの前線は、もう数分も持たないだろう。

 攻撃に集中すると言いながらも、もう防戦一方だ。


 攻撃力に歴然とした差がある。


「会長と副会長だっ」


 誰かの悲鳴のような言葉と共に、遠くの木の枝から広範囲の閃光魔法が放たれた。


 周囲が眩しさに目を細める中、猫のようにしなやかに着地した一人の生徒が、俊敏に3班へと詰め寄ってくる。尻尾のように翻る長いポニーテールが、魔法の燐光を帯び、薄暗い森の中に光の線を描いた。誰の追従も許さないと言わんばかりの、凛とした美しさを放つ、会長・鷺ノ宮ユーリカ。

 その後ろをぴったりと張り付き、先陣をきる彼女の周囲に防御魔法を張り巡らせるのは、胸元に青いハンカチが見える副会長の冬馬ハルトだ。


 二人とも息一つ乱すことなく、制服も糊付けされたように線が出たまま。

 激しい動きで着崩れている3班と比べると、全く別の行動をしていたのかと疑いたくなる程、その立ち居姿には余裕がある。


「これは終わり、かな……」


 3班に立ち塞がったユーリカが、目の前でそのしなやかな両手を交差させた瞬間、和久たちの周囲に大きな重力場ができた。


「ぐっ……っ!」


 見えない手に押し付けられるような重たさに、和久たちが膝をつく。

 防御魔法を張っているにも関わらず、その上から潰すように覆いかぶさってくるユーリカの魔法。


 それは、離れた場所にいる累をも射程に入れていたようで、予想外の攻撃に反射的に避けてしまった。


 ——まずった……。


 飛び退った姿勢のまま、素早くユーリカを仰ぎ見る。


 すると、驚きと興味深げな、しかし冷静に観察するような瞳と、一瞬、目が合った。


 ——やばっ……。


 もし一人だけ魔法を避けた者がいるならば、次のターゲットは決まったも同然だろう。

 今、真正面からユーリカとぶつかるのは避けたかった。全ての魔法攻撃を防ぐのはオカシイし、適度に負傷して上手く倒れないと、ユーリカの目を欺くのは困難に思える。だからと言って、わかっていて怪我をするのは気が重い。……逆に、体術のみで制圧してくれれば、完璧に勝てる要素が無いから諦めもつくのだが……。


 一瞬のうちに様々な思惑が過ったが、しかし、そんな懸念は不要だった。

 ユーリカらは3班を全滅させるよりも、この訓練の勝敗を決する方を選んでくれたのだ。


 副会長の冬馬が、構成した魔法を右手を払い、4班が進めている拠点設置型魔法を、数秒のうちに崩壊させた。


 魔法の欠片が光の粒子になって、周囲に降り注ぐ——。



 この瞬間、模擬訓練が終了した。



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