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禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜  作者: supico
■第一幕■ 魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科3年:編入初日
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模擬訓練②



「なんだよ、やる気ねぇなぁ。魔法は何系が得意なわけ? 俺は攻撃特化。防御魔法はてんで苦手。武器有りの戦闘訓練だと、魔剣専攻。あ、ニイナは回復が得意だぜ?」

「へぇ、そうなんだ。……んー、しいてあげるなら、探知系魔法、かなぁ……」


 和久たちは見た通りの適正なのかと納得しつつ、改めて自身の得意分野を聞かれると困る。


 ノクスロスを殲滅がてら捕食できるし、人の魔力を取り込むことも出来るのだが、ゲテモノ喰いは全く自慢にならないだろう。それに、言い触らすべきことでもない。

 自衛は得意だが、訓練における魔法の攻防はからきしだし、体術なんて基礎科からやり直すべきレベル。


 消去法で考えて、探知系しか残っていないのだ。


 実際は、得意なんていうレベルではなく、桁違いの精度なのだが、いかんせん、地味。

 しかし、ただの魔法学校のいち生徒として編入しているのだから、目立つ行為を避ける意味でも、後方支援に徹するぐらいがちょうどいいだろう。


 まぁ、和久の期待する回答じゃないことは明白で、


「げぇっ! 攻撃も防御も回復にも適正なし?」

「うん、残念ながら」

「……じゃあ近接戦闘は?」

「組手も勝てた試しがないなぁ……」

「うがーっ、お前も後方支援系かよー! えー、マジで言ってるー? ……3班ちょい偏ってんじゃねーかー? ……えーどうしよ。どこに突っ込んだらいいかなー……」


 頭を掻きながら大きく呻いた彼が、そのまま思案するように口の中で呟きはじめた。


 戦闘における頭数に入らないなんて、今回の模擬訓練では不利になる可能性が高い。

 ニイナは回復役として重宝されるだろうが、シナリオが決まっている訓練で、探知や索敵なんて不要だ。むしろ今回の立ち回りで求められるのは、攻守のバランスである。戦闘要員でないメンバーが増えたところで、邪魔にしかならない。

 班長である和久にとっては、頭の痛いタネに、ボヤきたくなっても仕方ないだろう。


 正直すぎる反応に、気分を害する余地もなく、真剣に悩んでいる姿には好感を持つ。


 ——と、ニイナが軽く袖を引っ張った。


「……ごめんね。和久ったら、自分勝手に失礼なこと言って……」

「まさか。気にしてないよ。役に立ちそうにないことは本当だしね」


 声を潜めて謝ってくるニイナに、逆にこちらが申し訳なくなってくる。

 せめて、足を引っ張らない程度には、頑張らないといけないか……。

 と言っても、本当に体術は苦手だし、魔法はやりすぎる可能性があるから絶対にダメだ。


 人様に迷惑をかけないように、適度なポジションはどこだろうか、と考えるも、


「……ま、いいか。編入生、徐々に慣れていこうぜ! ……ところで、前の学校じゃこういう訓練、やらなかったのか?」


 難問に頭を悩ませていた筈の和久が、あっけらかんと話を変えた。

 その切り替えの早さに小さく吹き出し、どうだったか……と思案する。

 前の学校、と言われても、実際は転校じゃないので、数年前のことを適当にボカすしかない。


「そうだね……やったことはあるけど、あんまり……」

「何だそれ。紺碧校じゃ3年にもなれば、殆ど毎日が模擬訓練だぜ? そんなんで師団に入れんのか?」

「ごもっともで」

「まぁ他の学校は知らねぇけど、ココはハードだからな。お前の席も、先々週にドロップアウトした奴の席だったんだ」

「……ドロップアウト?」

「そう。逃げたんだ。退校処分」


 唐突に出てきた殺伐とした言葉に面食らう。


 神妙な表情になった和久に戸惑いニイナを見るが、そちらも同様に沈んだ顔だ。


「こういう学校だからね、仕方ないんだけど。怪我とかで再起不能になって退校、じゃなくて、突然出て行っちゃう人がいるの。累君の席だった子も、そこまで成績が悪いわけじゃなかったのに、書き置きだけ残して……。悩んでるなら、もっと話し掛けてあげるんだったな……」

「ニイナが気に病むなよ。あいつは自分に負けたんだ。入学する前に、ちゃんと覚悟を決めておかなきゃなんなかったんだ。——魔力の適性があるだけじゃ、意味がない」


 毅然と言い切る和久。

 その言葉を否定できないからか、ニイナも諦めたように息を吐いて、渋々と頷いた。


「魔法の才能だけは、努力でどうにも出来ないもんね……」

「適性は生まれた時に決まってる。生まれ持った価値が、身近な仲間同士で天と地ほども違うんだ。残酷な格差だよ」


 魔力は、生まれながらの適性と、その後の適応能力で全てが決まると言っていい。


 適性さえ、才能さえあれば、後は本人の努力次第で、その才能の限界までは伸ばすことができる。だが、そこまでだ。

 エリートと呼ばれる一部の人間は、才能が別格なのだ。その才能を十分に伸ばすことが出来れば、他の有象無象の何十倍もの力を扱うことができる。

 反対に、どれだけ本人に強い意志と希望があったとしても、後方支援でしか力を発揮できない者だって、ゴマンといる世界だ。


 だから学校側も、才能を認めた貴重な人材には、その才を十分に伸ばすため特別扱いをする。


 顕著なのが、寮の特別棟だ。


 全寮制である魔法学校の『特別棟』と呼ばれる寮は、貴族の子弟だけではなく、学校側が認めた生徒を入寮させ、プライベートを全て従者がサポートすることになっている。

 貴族達は自らの家の従者を連れてくるが、特別枠の生徒は、学校側が雇った従者を一人割り当ててもらえる。そして、訓練に専念できるようにするのだ。

 そうして特別棟の生徒は、ほぼ間違いなく、期待された通りの強大な魔法士となって、世界の安寧に貢献する——。


 同じスタートラインから始めた筈なのに、最初の第一歩で大きな格差を見せつけられてしまうのが、魔法学校の現実だ。

 そしてそれは、努力だけでは決して埋めることの出来ない差なのだ。


「…………」


 思いもかけずしんみりしてしまった空気に、どうしようかと悩む累。

 なんでこんな話になったんだったっけ……と会話をロールバックしていく。


「えーっと……、じゃあつまり、模擬訓練頑張ろー……ってことで?」


 要約すると、こういうこと? と若干おどけながら軌道修正をはかる。


「おぉ、そうだな。特にD地点では、1班からの攻勢を防ぐから、気合入れろよ。あそこは会長と副会長がいるからな」

「あ、やっぱり会長たちって凄い人なの?」

「そりゃーもう。生徒会の人間は、才能がダンチだからな。その中でも会長は別格だよ。ゆくゆくは皇帝陛下直属の近衛師団に入れるんじゃないか、って言われてるぐらいだぜ」

「鷺ノ宮家って、紺碧師団じゃ有名な家系なんだよ。何人も凄い魔法士を輩出してるの。副会長も、最初は鷺ノ宮家に仕えてた、ただの『会長の従者』だったんだけど、今じゃ実力でナンバー2になって、名実ともに会長の右腕なのよ」

「へぇー、そうなんだ。……でも、その二人が同じ班って、パワーバランス大丈夫?」


 二人が誇らしげに話す生徒会に、少しの興味を覚えつつも、それが別の班じゃ意味がないのでは……と軽い気持ちで言ってみる。


「…………そこなんだよ。……だからお前に期待してたんじゃねーかよっ!」

「うわぁ、それを言われても困るなーなんてー」

「ほんっと、ビシバシ行くからなー、じゃんじゃん攻撃に参加しろよー。ニイナも、必要以上に回復しなくていいから、絶対に4班の拠点設置型魔法を落とさせんなよ」

「が、頑張るよっ」


 現実を思い出したらしい和久が、鼓舞するように累とニイナの肩を叩いた。


「よし、じゃあ他のメンバーも紹介するからついて来いよ。累、でいいか?」

「もちろん。そっちも和久って呼んでいいのかな?」

「好きに呼んでくれ。ニイナも来いよ、作戦会議だ」


 気合の入った和久が、どこかに向かって片手を上げると、離れた場所で固まっていた数人のグループが応じた。どうやら彼らが、同じ3班の仲間となるようだ。


 一つの輪になり、簡単に自己紹介を済ませ、役割分担と基本的な行動ルールを再度おさらいする。

 何度も班長をやっているからか、和久は慣れたように周囲をまとめると、好戦的な表情で正面の森を見つめた。


「——さぁて、はじまるぞ」


 口角を上げて笑う和久の視線を辿ると、訓練場のゲートが開き始めていた。


 これから始まる戦闘への、不安や興奮は全くない。


 累は、普段通りの淡々とした表情で、周りを静観していた。




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