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禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜  作者: supico
■第一幕■ 魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科3年:編入初日
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鷺ノ宮ユーリカ




 魔法学校・本科の、主な授業は実技だ。


 その中でも、これから行う模擬訓練は、何度も繰り返し行われる、重要な授業の一つとなる。


 魔法士部隊が数人単位での班行動を基本としていることから、模擬訓練も同様の構成だ。

 今日も教師が適当に選出した者たちで班を組み、指示された役割で立ち回ることを求められている。


 模擬訓練では、魔法や戦闘の修練の成果が評価される。

 その中でも、実戦に出て良いと認定された者は、魔法士部隊の任務に帯同して、実地での訓練を許可されるのだ。

 誰もが早く認可を貰いたくて、真剣だ。毎回が実力考査に近い。


 このクラスでは、既に半数程度の生徒が、実地訓練を経験していた。

 数ヶ月前、その最初の一人として選ばれたのは、鷺ノ宮ユーリカ。紺碧校を束ねる、非凡な才能を持った生徒会長である。


「今日の模擬訓練は、編入生の実力検査でも兼ねているのかしらね?」


 ユーリカは、配られたプリントを弄びながら、側に立っている副会長を仰ぎ見た。長身で、生真面目な性格が表れたように一部の隙もなく制服を身にまとった冬馬が、気乗りしない様子で口を開く。


「この内容を見る限り、そうでしょう。満遍なく攻守を確認できる展開です」

「うふふふ、楽しみだね。あの編入生、きっと面白いよ」


 ユーリカの視線の先には、ついさっき、クラスメイトになったばかりの編入生がいた。


 彼は隣の席のニイナと、これから行う模擬訓練について、何か話しているようだ。顔を近づけてプリントを覗き込んでいる。


 この近辺では珍しい黒髪は、前髪の方が少し長いせいで、漆黒の瞳に更に影が落ちていた。

 そのせいなのか、柔和な表情をしているというのに、一種独特の空気感があるように感じられる。


「寮は我々と同様、特別棟の従者付きだそうですが、実力については不明です」

「あら、じゃあやっぱり私の勘が当たるかな? 有力な家の人間なら、私に挨拶があって良さそうだもの。それが無いんだから、期待値が大きい生徒として、特別棟に割り当たったんだわ」

「……生徒会あての通知では、紺碧師団長からの推薦状があったそうです。どういう経緯での推薦かはわかりませんので、個人的な知り合いという線も有りうるかとは思いますが……」

「それが実力での推薦なら、紺碧師団に内定しているも同然じゃない。なんで今更、3年のこの時期に編入してきたんだろう?」


 ユーリカも、他の生徒たちを諌められないな、と心の中で苦笑いする。

 模範となるべき会長ではあるが、やっぱり珍しい編入生には興味をそそられてしまうのだ。


「模擬訓練、一緒の班になりたかったなぁ。次は教師に直談判してみようかな」

「それは止めてください。会長自らが指名なされるなど、周りに示しがつきません」

「つまんないなぁー。興味あるんだけどなぁー」

「ユーリカ様。鷺ノ宮家の次期当主たるもの、他の生徒などに煩わされず、ご自分を高めることだけに集中なさいませ」


 聞き飽きた言葉に唇を尖らせる。


「……冬馬って、ほんとお父様みたい……」

「冬馬の人間ですから。家名にかけて、ユーリカ様の為にならない交友関係は、阻止させていただきますよ」

「為になるかもしれないじゃない」

「減らず口はおやめください。… …リボンが曲がっていますよ」


 ため息でも吐きそうな冬馬に、してやったり、と思いながら、リボンを整えてくれるのをじっと待つ。


 冬馬はクラスメイトではあるが、紺碧師団に多くの魔法士を輩出する鷺ノ宮家に、代々仕えている家の者だ。ユーリカが魔法学校に入学する時、従者として一番側近くで補佐するための通例として、一緒に入学した。だから普段から、級友ではなく、従者の立ち位置を譲らない。


 今も、ユーリカの頭頂部で高く結い上げられた、栗色の美しいストレートヘアを、紺碧校のシンボルカラーである青色のリボンで丁寧に巻いてくれている。

 そんな冬馬の胸元にも、青色のハンカチが綺麗な折り目で畳まれて差し入れられていた。


 このシンボルカラーのアイテムは、生徒会だけに許された特権だ。


 魔法士の服装は、基本的に黒一色と決まっている。それは魔法学校の生徒も同様で、白いシャツ以外は黒という、非常に重たい見た目をしている。

 しかし唯一の特例として、成績優秀者で構成された生徒会の所属員には、学校側からシンボルカラーのアイテムが授与される。

 それは、魔法士部隊が各師団への所属を表す団章にも似ていて、学生の中では羨望の的だった。


 その青リボンを、ユーリカの魅力が最大限引き立つように結わえた冬馬は、未だニイナと談笑している編入生をチラリと視界に入れながら、自分の大事な主人を次の模擬訓練場へと誘った。




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