七話 有難いお話
「初めまして。王立魔術学校、校長のディードリッヒだ。」
入学式当日、校庭。初老過ぎぐらいの男性が壇上に立ち、話し始める。
あ、長ったるそう。確かにこういった校長の挨拶は長いのが基本だ。耐えろ耐えろ……。念仏のように唱えながら、社交辞令のような挨拶に耐えていると、急にディードリッヒ校長の雰囲気が変わる。
「……さて、こんな長ったるい挨拶も嫌だろう。少し軽めに行こうか。」
なん……だと……?こいつ、分かっていやがる……。
「ここは、数学よりも政治よりも、魔術を学ぶ場所だ。魔術は人を支えているが、必ず人に味方してくれるわけじゃない。その獰猛な刃を携えて、我々に牙を剥く時もある。──こんな風にね。」
ディードリッヒ校長がおもむろに右腕を上げ、袖をまくる。
すると、生身が見えないほどグルグルに包帯巻にされた右腕が顕になった。
「これは昔、私がやんちゃした時についた傷だ。脅すようだが、君達にはこうなって欲しくない。そう思って建てたのがこの学校だからね。ここでは、家柄も紋章も年齢も関係ない。余計なことを持ち込むような人は、この学校には必要ない。それだけは覚えておいて欲しい。以上だ。」
素晴らしい。なんて素晴らしいスピーチなんだ。特に長さが。
その後は特に向こうの入学式と変わったことは無く、他の先生方のありがたいお話などを頂いた。いらない。
入学式が終わると、そのまま教室でちょっとしたHRをやるらしい。
担任の指示に従って、校庭から校舎に入って行く。
階段をのぼり、二階。教室に入ると、前には黒板があり、教卓と少しのスペースを挟み、長机と椅子が並んでいる。……いや、広くね?黒板、でかくね?大学の講義室みたいだ。実際大学生にはならなかったが、なんかの特別講義で行ったことがある。
イメージしてた小学校とかけ離れ過ぎていて呆然としていたら、他の生徒達が動き始めていた。適応しすぎじゃね?それともこっちだとこれが普通なのか?
どうやら黒板に座席表が貼ってあるらしいので、出遅れながらもそれを見に行く。
席は前から……四番目、の、右から二番目か。サボってもバレなさそうだな。
そそくさと黒板から去り、確認した自分の席に座る。騒いでいる他の子達も担任に連れてかれて自分の席に座っていく。やっぱ子供って感じだ。
「はい、静かにして!ホームルームやるよー。」
担任の先生が声を上げて、騒ぐ子供たちをしずめる。やっぱ大変そうだな、先生……。
「今日は授業はないから簡単に自己紹介をして終わりたいと思う。まずは俺。担任のレデノ=ヴィルウォルドだ。うちの学校はクラス替えはほとんどないから、六年間よろしく頼む。」
クラス替え、ないのか……まあ、それはそれでいいのかもしれないな。
「じゃあ、名前順で自己紹介してもらおうかな。じゃあ、一番、アリエ!」
「はーい!出席番号一番、アリエ=アードウィッチです!アリエって呼んでください!よろしくお願いします!」
うーん、元気だ。レファさんから聞いた話によると、貴族じゃない人の中には姓がない家もあるそうで、そのような子が入ってきた時の為に名前順というのはファーストネームで決めるらしい。日本みたいな苗字順じゃなくてね。
アリエと名乗った少女に続くように、二番、三番とクラスメイト達が自己紹介をしていく。みんな年相応で、元気でシンプルな自己紹介だった。……のだが。
「じゃあ、次!」
「はい。」
そう促され立った少女は、他の子供とは違った。年に見合わぬほど落ち着いていて、こんなこと言ったらあれだが──表情が見えない。そんな彼女の名乗った名前は。
「出席番号十八番、スィアリ=ハルベルトです。適正は炎。気軽にスィアリ、とお呼びください。よろしくお願いします。」
と。
「……は?」