六話 魔法と魔術と誕生日
「レアくん、はっぴーばーすでー!」
使い慣れない言葉で祝福するレファさん。別に「お誕生日おめでとう」でもいいのに……。
「だって、せっかくレアくんの教えてくれた言葉なんだから、使わないと。」
今日は俺の六歳の誕生日だ。レファさんに助けてもらったあの日から、もうしばらく経ってしまった。
この世界には「英語」なんてものは存在しなくて、レファさんの誕生日(何歳かは教えてくれなかった)に「ハッピーバースデー、レファさん。」と言ったら、「今の言葉は何!?」とすごい勢いで問い詰められた。よもや「前の世界にあった言葉です」なんて答えようものなら、いつになったら寝られるのか知れたものではないので、「母に教えてもらった祝福のおまじないです。」と答えた。ハッピーバースデーを初めて俺に言ったのは母なので、あながち間違いではない。
「そう、もうレアくん、学校に行く年齢なのね。」
「はい、たのしみです。」
はい、憂鬱でしかないです。
そんな思いを胸の内に秘め、貼り付けた笑みを見せる。
だが!この世界の学校には魔術の授業がある!
正直算数とかそこらへんは退屈でしかない、と思ってる。随分前だが、前の世界と算数とかの仕組みは同じらしい。何百年かに一度、俺みたいな転生者が出た時に困惑したりしないよう、殆どの世界で仕組みを揃えてあるとのことだった。
よし、寝るか。
「レアくん、学校で寝ちゃいけないから、早寝早起きを心がけるのよ。」
「はい、わかってます。」
釘を刺された。仕方ない、ちゃんと受けるか……
外と中の摩擦で発火してる時間を過ごしていると、あっという間に夜が更ける──。
「それじゃあ行ってきます、レファさん。」
「いってらっしゃいレアくん。学校までは少しあるから、気をつけてね。お夕飯作って待ってるからね。」
「そんなにかからないと思うけど……それじゃ。」
手を振っているレファさんが見えなくなるまで歩き、ピタリと立ち止まる。
実は、レファさんは知らないと思うが俺はあの後も毎日森に行っている。レファさんは冒険者を辞めたと言っていたが、仕事はしているようで、毎日帰りが遅いのだ。
森で日々魔法の練習をしている内に、魔力の保有量や操作感度も良くなってきたし、魔法陣の発動も早くなった。そして何より、魔法が開花したのだ。
その名も「放電」。魔力から生成した電気を身体に溜め込むことで、放電出来るようになる。勿論、ずっと身体に電気を溜め込んでいては色々不味いので、定期的に魔力に還元し直しているらしい。デメリットは、今の保有魔力のうち一割が発電用に使われてしまうこと。まあそもそも保有魔力を十割使う機会なんてほとんどないが、保有魔力がまだ少ないこの年齢では少し不便する。
メリットは、魔法陣を介さなくても攻撃が可能な点、そして──
バチッ!と眩い光が弾け、術式を生み出す。次の瞬間それは光り始め、突如として姿を消した。
そして、突風が巻き起こる。お世辞にも重いとはいえない俺の身体は軽々と持ち上がり、宙に吹き飛ばされた。
宙に飛ばされた俺はくるっと前方宙返りで余り余った勢いを殺し、三階建て程の家の屋根に着地する。
「うん、これも結構様になってきたな。」
魔法があれば何がしたいか、って昔友達に聞かれたことがある。こらそこ、友達いたのかとか言わない。そりゃ、ほんとに魔法があるなら、エクスプロなんたらとかマテリアルなんとかとか、夢に見た魔法は沢山あるが、その時俺がなんと答えたかというと、
「空を飛びたい」
と、そう言った。なんでそう答えたかはよく覚えてないが、まあ多分自由が欲しいとかそんなことを考えてたんだろう。
それが今、実際に叶っているのだ。魔法……魔術がある世界なんで言われた時は「は?」って思ったが、今は来てよかったと思ってる。そりゃ日本にも帰りたいし、家族にも会いたいけど……。それでも、この世界だって好きだ。
そんなことを考えながら、建物の屋根を伝って学校まで行く。これが意外と近道なのだ。
「よいしょっと。」
学校のすぐ近くに着いたので、低めの屋根から飛び降りて、魔術の風で勢いを殺し着地する。
まだ少し早い時間だからか、学校の近くだというのに人はあまりいない。
「早くついてもやることないし、ゆっくり行くか。」
そのままぶらぶらと、呑気に歩いていく俺は、
「……」
この時の視線に気づかないまま、学校へ向かうのだった。