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現代知識で出来る魔術  作者:
一章 転生したからって別に人が変わるわけじゃない
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五話 記憶の再生

「ありがとうございます。お風呂だけじゃなく、食事まで。」


俺は今、女性の家で夕飯を食べている。最初は遠慮したのだが、女性がどうしてもと言うので押し負けた。


「それで……[小鬼]と[中鬼]を倒したって本当なの?」


「ああ、はい。魔術を練習してる最中でしたから。」


温かいスープを飲み、答える。すると、女性の顔が少し暗くなったように見えた。何故だろうか。人の表情がよく読める。


「……怪物とはいえ、生き物を殺すことに抵抗は感じなかったの?」


「確かに、何故でしょうか……兎や狐などを殺すのは嫌ですね。母にも殺すなと教わりましたし。でも、奴らは何故か……殺すべきだと、そう、思ったんです。」


女性の顔色を伺うが、俯いていて顔は見えなかった。しかし、なにか負の感情を抱いていることは間違いない。


「そう……今日は泊まっていきなさい。外はもう暗いから。」


「え?でも」


大丈夫です、と断ろうとしたが、「いいから」と女性が制止してきたので、大人しく従った。案内された部屋はそこそこ広いが、良質なベッドと、勉強机だけが置いてある、簡素な部屋だった。

女性が扉を閉めるのを確認すると、そのままベッドに倒れ込む。何故だろう、とても疲れていて、目を瞑れば今にも意識が刈り取られてしまいそうだ。それに、彼女の言葉は、なぜだかよく身体に染み込み、強く抗えない。それに、知らない女性について行くほど、自分の家から無意識に離れようとしているのか。しかし考え事をするほど頭は冴えておらず、その疑問に結論が出ないまま眠りに落ちていった。










「やっぱりあなたは、伝聞書にあった……」


額に手を触れると、少年の顔が微かに歪む。彼女の手には、一枚の紙が握られていた。元の世界でいう「新聞」、伝聞書だった。日付は、今から二週間前。記事は、「一家鬼虐殺事件。」

曰く、夫婦が[小鬼]と[中鬼]により虐殺、一人息子が行方不明だそうだ。


「■■■■、■■、■■■■」


常人には理解できない言語を口にする女性。本来ならば単なる大気の振動でしかないそれは、確かに魔力を吸収し、魔術を起動した。










「おはよう。よく寝ていたわね。」


「おはようございます。おかげさまでよく眠れました。」


「あら、私は何もしてないわよ?」


「冗談はよしてください。昨晩、俺に魔術を使ったでしょう。」


そう言うと、女性は僅かに驚愕を浮かべたが、直ぐに微笑みを浮かべた。


「……なぜ、分かったのかしら。」


「魔術を使った痕跡が残っていましたから。魔力の濃度が普通の空気に比べて若干薄くなっていました。魔力の減り具合と魔術の規模から考えて、俺が寝て直ぐに使ったでしょう?」


今度こそ女性は驚愕が顔に張り付く。直ぐ微笑みに戻ることは無く、俺にかける言葉を探っているように見える。しかし、言葉は見つからないようだ。


「……おかげで、全部思い出しました。」


「……ショックではないの?」


「……勿論ショックですけど。そりゃ、ショックすぎて喪失した記憶を無理やり呼び起こされたんですから。……でも、腑に落ちた、ってのが大きいです。なんで俺が[小鬼]や[中鬼]を殺すことが出来たのか。なんで知らない女性について行くほど家を避けてたのか。……全部……







俺の親が、あいつらに殺されたからなんですね。」








魔術の練習を初めてからしばらく経ち、魔術にも森の練習にも慣れた俺は、一人で森に行くようになったことは、前にも言ったと思う。あの日も……二週間前のあの日も、俺は一人で森に出ていた。よく地面に目を凝らせば見えていたであろう、鬼共の足跡を見落として。

そして、夕暮れ時になり、家に着いた俺が見た光景は──




形が分からなくなるほど殴られ歪んだ顔と、もはや原型のわからないほどもがれ、ところどころ穴が空いて、血に塗れて転がる、父と母だった。

鬼共は時々、群れを為して人間の住処を襲うのだという。奴らにとって、人間を虐殺することは"愉悦"であり"趣味"であると、後から誰かに聞いた。たまたま偶然、俺の家が標的になったと、ただ、それだけの事だった。生まれて……転生前も含めて初めて目の前で見た人の死と、家族の死。それを俺は拒み、記憶を封じて、これまで通りの生活を望んだ。何度か生き残りがいないかの確認をしに来た人がいたが、俺はそれに恐怖し、クローゼットに隠れていた。そのせいで行方不明扱いになってしまったのだろう。別にケチをつけるわけし不満がある訳でもないが、なんで部屋の隅々まで探さなかったんだろうか。どうせ生きてないとでも思ったのか?

両親を失っても今まで通り森に出た俺は、二週間後の昨日、鬼共に出会い、その後今に至る。


「貴方には本当に悪い事をしたと思ってるわ、ごめんなさい。」


「謝らないでください。これは俺が背負ってくべき記憶なんです。封印して生きてくような軽いもんじゃ、決して無い。」


「……ありがとう、えーと、名前、聞いてなかったわね。なんていうのかしら。」


──そういえば、人に名前を訊かれたのはこれが初めてだ。 そう思うと、俺は本当に生まれ変わったのだなと、そう再確認する。


「……レアです。レア=カナリア。伝聞書に書いてあるカナリア家の一人息子です。」


「私はレファ=エクリベージュ。ちょっと前まで、冒険者をしていたわ。もう、引退してしまったけれど。」


そう言うレファさんの顔は、すこし寂しそうに見えた。しかし、その表情もすぐに消え、また微笑むと、話しかけてきた。


「レアくん、あなたはこれからどうするの?」


「……確かに、なにも考えてませんでした。街に出て働くか……?」


「あら、その歳で雇って貰えると思う?」


「確かに……」


俺がうんうんと頭を悩ませていると、レファさんが俺にひとつ提案をしてきた。


「じゃあ、うちで暮らさない? 」


「ええ?」


お風呂だったり一晩泊めてくれたりは有難かったが、ここで暮らす?レファさんと?一人屋根の下で?


「いや、それはちょっと……」


「でも、このままじゃ食べるものが無くなってしまうわよ?森は動物が多いから木の実も少ないし、いくら魔術が使えても、まだ子供なんだから。」


うぐ、確かに……逃げ道がない気がする。絶対この人口論強いぞ。


「じゃあ……お言葉に甘えさせて頂きます。」


傍から見るどころか、声を聞くだけでも明らかに根負けしたような様子で答える。だめだ、勝てる気がしない。


「そう、良かったわ。」


そう言うと、「お風呂に入ってくるわね」と言って席を立つ。

結局流れに押し負けてしまった……と思っていると、レファさんがふと後ろを向き、口を開く。


「レアくん、俺、って似合ってないから、僕、って喋った方がいいわよ?」


……謎の威圧感を帯びて。


「ぜ、善処します……。」


そう答えるしかなかった。

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