三話 そのとき、術式に電流走る
あれから少し経って、俺はすっかり成長した……といっても、一人で歩いたり飯食ったり出来るくらいだが。幼稚園児くらいの体型にはなったはずだ。
俺は今、スィアリに連れられて森に来ている。
どこの森かと言うと、家を出て歩いてすぐにある所だ。どうやら家の家は随分と自然に囲まれていて、外に出れば山や川が見れる。といっても田舎な訳ではなく、王都と呼ばれる都会の中らしいが。
何故俺が森に来ているかというと、いわずもがな、魔術の練習だ。なぜだかは分からないが、スィアリは魔術について詳しい。下手すれば教師を出来そうなくらいだ。だからこそ、スィアリに魔術について教えてもらえるのだから俺としてはありがたい。
「それじゃあ、まずは「印」について勉強しましょうか。」
「わざわざ森まで来て、勉強するのか?」
「そう思うのも仕方がないですが……勉強といってもほとんど実技です。家の中でやったら大惨事ですよ。」
ほーん……そんなもんか。
「では、始めますよ。……前も言いましたが、「印」には「基礎印」と「補助印」の二種が存在します。それぞれ、「基礎印」は単体でも機能しますが、「補助印」は「基礎印」が無ければ機能しません。」
「自転車と補助輪的な?」
「頭悪そうな例えですが、まあそんな感じです。今日は「基礎印」の方を学びましょう。」
いちいちなんで煽るんだよ……。まあ兎に角、初めてのスィアリ魔術授業が始まった。
「……魔術って言うからどんなもんかと思ってたら結構簡単なんだな……」
俺のしゃがみ込んで見ている土には、某サボテンのダーのポーズのような形の記号が丸で囲まれている。スィアリ曰く、「電気を発生させる」基礎印で作られた魔術術式のようだ。
「じゃあ、魔力を流してみてください。」
「いや、流してみてくださいって言われても……。」
魔力がどんなものかもいまいち掴めてないし……。
「あー……血が流れてるイメージ出来ますか?それを手からこう、ぴゅーっと出すイメージで。」
急に説明下手くそだし。
「えーと……こうか?」
術式に触れ、言われたイメージをしてみると、間もなくして術式が淡く光出した。
「……痛っ。」
触れていた手にビリッと痛みが走る。静電気が起きた時みたいなむずがゆい痛みだ。手を離して術式を見てみると、ビリッビリッ、と黄色い光が彈けている。
「お、おう……?」
「おめでとうございます、成功ですね。」
「それマジ?やったぜ。」
「あ、今のは魔力さえ掴めればJNでも出来るので。」
あ、そうなの……。
「まあなにはともあれ、これが「術式」の基本形態になります。ここにいくつかの「補助印」を付け足していくのが「魔術」になります。」
なんか、聴いてるだけなら簡単そうだな……。それなら、誰がやっても時間をかければ一緒なんじゃないか?、という旨のことを訊くと、
「いえ、そうとも限りません。そもそも素の魔力量も人それぞれですし、魔術も発想が大事です。自分だけにしか使えないオリジナルの魔術を使えてこそ、一流の魔術師と言えるでしょうね。それにそもそも、人には魔術の適正がありますから。」
「適正?」
「人にはそれぞれ自分に最も適した基礎印が存在します。基本的に、不適正な基礎印が適正の基礎印に勝ることはありませんが、鍛錬を続ければ、適正に限りなく近づけるかも知れません。大抵器用貧乏で終わりますけどね。あ、ちなみにあなたの適正は「雷」ですよ。」
雷……あ、今のビリビリってやつ?
「その適正ってやつは使ってみるまで分からないのか?」
「いえ、肩甲骨の間らへんに適正を表す痣がついてますよ。随分前寝てる時に確かめました。」
ほーん……勝手に見られたのはなんか気に食わないが、まあいいとしよう。
「それじゃ、暗くなってきたし帰りましょうか。明日もまた魔術の勉強、やりますか?」
「勿論だ。こんな楽しいこと、やらないわけないだろ。」
「そうですね。……あ、そろそろ言語理解の術式を刻みますよ。いい加減不便でしょう。」
「そうだな。」
確かに父親が何を言ってるのかわからないのは恐怖をかりたてる何かがある。分かるにこしたことは無いだろう。
「よし、今日はカレーにしましょうか!」
「あんまり辛くないのにしてくれ……」
「おや?レアくんはからいの苦手でちゅか〜?」
「■■■■■■ぞ。」
「やだ!この子本当に子供!?」
言い争いをしながら、なんだかんだで平和な日々を過ごしていたと思う。俺自身、この生活を心地よく思っていた。こんな時間がずっと続けばいいと。
──そう、思っていた。