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プロローグ

鬱成分たっぷりです。この作品好きだ……そう思ったそこの君!

君は病気だ。

 「人生ミスった……」


 誰しも思った事があるでしょ?

 僕もそうだ。現在進行形でそう思ってる。

 勉強、スポーツ、趣味、恋愛、仕事……そう思う原因はいくらでもあると思う。

 僕はそれが『結婚』だった。


 「ただいま」


 僕は玄関の扉を開けつつ言う。

 仕事帰りに立ち寄ったコンビニで買った弁当が邪魔で開けづらい。

 僕の「ただいま」に返事をしてくれる者はこの家にはいない……。

 いや、正確にはいなくなった……か……。

 僕は既婚者だ。結婚して五年ぐらい経つのかな。

 最初はこうじゃなかった……。

 毎日「おかえり」と言ってくれる妻。

 仕事で疲れた僕に毎日手料理を振る舞ってくれた。

 今はもうそれはない……。

 結婚して一年ほど経つと妻の手料理は簡素化していった。


 最初は逸品物。カレーとかカツ丼とかだね。

 その次はレトルト食品。

 まだ許せるレベルさ……。

 僕は心が広いからね。だけど……

 最終的には白米だけになった……。


 悲しかった。リビングの五人掛けのテーブルに白米が入った茶碗が一つ……。

 最初は何の苛めだ……?と思った。

 妻に「これは何?」と尋ねると「あなたの夕飯」と真顔で答えられた。

 悲しかった。どうしていいかわからなかったから、とりあえずその日は白米だけで食べた。

 それからというもの僕は必ず仕事帰りにコンビニ弁当を買うようにしている。

 だけどその日は違った。「おかえり」はなかったがリビングからいい匂いがしていた。


 「カレーだ!」


 嬉しかった。白米の上に茶色いルーがのっていることが……こんなことは久しぶりだ。

 僕は椅子を引いて腰を下ろし、カレーと対面する。


 「いただきます!」


 ガツガツと僕は口にカレーを運ぶ。

 あー久しぶりの妻の味だ。カレーを闇鍋か何かと勘違いしているのかとりあえず冷蔵庫にあるものをぶち込んだせいでおかしなことになっている複雑な味。

 でも満足だ。毎日毎日コンビニ弁当で飽き飽きしていたからな。


 「あなた話があるの」


 僕がカレーに夢中になっていると妻が僕に近づいてくる。手には紙を握っている。保険証書みたいだな……。

 

 「どうしたの?」


 僕は妻に問いかける。

 会話するなんて随分と久しぶりな気がする……。

 妻はゆっくりと紙を開いて僕に見せた。

 やっぱり保険証書だ。んーそれで?


 「あなたが死ぬと私に二億入ることになっているの」


 二億かよッ!道理で保険料高いと思ったんだ。

 でもそれが何だっていうんだ。

 僕はまだピチピチの二十代……死ぬのはまだまだ先だぞ……?


 「だからね……あなた死んで」

 「……え?」

 

 僕が何言ってんだこいつと思っていたら妻は服の中から包丁を取り出した。

 嘘だろ……僕の驚愕に染まっている顔が妻の持つナイフに映っている。

 どんだけ研いだんだよ……ピカピカじゃねーか。


 「アアアアアアッ!!」


 妻が奇声を発しながら僕に包丁を突き刺してくる。

 僕はすんでのところで何とか躱した。

 やべえ……こいつマジだ……目がイってやがる!!

 兎に角、妻は今危険な状態だ。

 不用意に刺激しない方がいい……そうだ交渉だ!

 警察が立てこもり犯から人質を解放する時、相手を刺激しないように交渉を進めているのをサスペンス系のドラマでよく見かける……。

 あれを僕もやるんだッ!そうだ……やるしかない。

 刺激しないように……優しく、それでいて語り掛けるようにだ……。


 「まあ、とりあえずその般若の様な顔を沈め……」

 「アアアアアッ!!」


 危なッ!ちょっと掠ったぞ!

 糞ッ……何が失敗だったんだ、全く分からない……。

 どうすればいい……そうだな、きっと僕に不満があったように妻にも僕に対する不満があったはずだ。

 まずそれを聞こう。

 それを聞きつつ落ち着かせ、刃物を取り上げよう。

 そう僕は考え口を開く。


 「君が大切にしていた焼酎を半分程飲んでしまったんだが、まだ僕の部屋に余りがある……それでも飲みながら話をしよ……」

 「ウアアアアアアアッツ!!」


 やべえッ!

 僕は額に汗を掻きながら妻の攻撃を躱す。

 畜生ッ……何がいけなかったんだ。

 酒でも飲めばいい気分になり、きっと妻も自分の不満を打ち明けてくれると思ったのだが……。

 僕は妻の攻撃をすんでのところで躱せたことに慢心してしまったようで自分がコーナーに追い詰められたことに気が付いてなかった。

 

 「死ねやああああッ!!」


 妻は暴力団の様な叫び声をあげながら僕に包丁を突き立てた。


 グサッ!!


 「痛てぇッ!!」


 冷たい鉄の感触が僕の腹部から伝わってくる。

 妻が包丁を引き抜くとその感触はなくなり、僕の腹部から真っ赤な血が噴き出した。

 僕はそのまま壁にもたれかかり、ズルズルとへたり込む。

 何だか温かい……。

 温いお風呂にでも浸かってるみたいだ。

 呼吸がしづらい……。

 なんだか視界もモヤモヤしてきた。

 僕は妻の顔を見つめた。

 鬼の様な形相だ。

 視界がぼやけているのにそれは分かる……。

 

 僕はこんな目に遭うために結婚したんじゃない……。

 妻のことだって真剣に愛していたし、妻の欲しい物は頑張って買い与えてきたつもりだ。

 この家だってそうだ……三十年ローンを組んで買った。

 妻が一戸建てに住みたいと言ったからだ。

 僕はこじんまりした団地で良かったのに……。


 体にもう力が入らない。

 きっとこのまま死んでしまうのだろうな……と思う。

 畜生ッ……。

 何だろう。ただただ悔しい。

 今まで僕は色々と我慢してきた。

 家事だっていっぱい手伝ったし、欲しい家具があると妻が言えば、自分の欲しいものを我慢してでも  買ってあげてきたのに……。

 こんな仕打ちあんまりだろう……。

 僕は妻に何か一言言ってやりたくて腹に力を込める。


 「お前のカレー……まずいんだ……よッ!」

 「くたばれやああああッ!!」


 ザンッ!!


ーー

 

 目が覚めると僕の視界には見知らぬおっさんがドアップで映し出されていた。

 なんだろう……?なんだか僕に対して怒ってるみたいだ。

 見知らぬおっさんに恨まれるようなことしてないんだけどな……。

 かなりの形相で僕に怒鳴っている。

 よく見ると周りにいっぱい人がいるな。

 そのおっさんは周りの人達にもなんだか暴言を吐いてるみたいだ。

 そのおっさんの言葉は日本語じゃないから僕にはわからない。

 おっさんはひとしきり何か怒鳴り切ると、木製の豪華な両開きの扉を乱暴に押し開け出ていってしまった。



 部屋には大きな鏡があった。

 鏡には木製のゆりかごの中にいる赤子が映し出されている。

 汚い顔だ……。僕はそう思った。

 その赤子の顔には大きな黒い痣が左目付近を覆うようについていたのだから。



 


更新頑張ります。

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