00話 始まりの夜
ふと、空を見上げてみると見えるのは満点の星。
小さな星や大きな星も関係なく散りばめられていて、特に大きい星に目が行く。
人間も同じようなものだと思う。
小さな弱い人間もいれば、大きくて強い人間もいる。常に注目されるのは大きな星たちで小さな星たちは見向きもされない。
ポケットからポイントカードぐらいのカードを取り出す。
「ランクC…」
カードにはそう書かれている。
このカードには個人の能力とランクが書かれている。ランクはD〜Sの5段階大半の人間はDかCに割り振りされる。
そして、ランクが高いほど援助金など、多くの人々から讃えられる。低いと逆に人からも注目されないし、讃えられもしない。
俺もその讃えられない方の人間だ。人から褒められることも少ないし称賛されることだって無い。
だけど思う。
「でも、悪くない人生だな」
うるさいけど一緒にいてくれる友人。負けるものかと競ってくれるクラスのライバル達。何が何でも駄目って訳でもない。少なくても今は充実している。
さあ、はやく帰らないと。
カードをポケットにしまって再び道を歩く。もう夜は遅い。
住宅街からいろいろな声が聞こえる。嬉しそうに笑う家族の声。テレビの音。
不意に美味しそうな料理の匂いが鼻の中に入ってくる。そういえば、飯まだだったな。
最近は豆腐料理ばっかりだったので何かしらのに美味しいものを食べたいな。豪華にコンビニ弁当でもどうだろうか?そうだな、とりあえず帰りにコンビニでも寄っていくか。
コンビニへの道へと歩きだす。ここからコンビニは少し遠回りになるが帰り道の途中にある。
遠いが運動にはなるだろう。最近太ってきたし。
くるりとターンし道を変える。そして、1歩とあるき出そうとした瞬間。
何かが爆発したかのような音が住宅街に鳴り響く。その音に驚いたのかどこかの家の犬がワンワンと吠えている。
「なんだ?」
周りを見渡してみる。どこかで能力者どうして殺し合いでもしてるのか?
また轟音が鳴り響く。結構な威力だ、相当高ランクの能力使用者が能力をふるっていやがるな。
よく、能力者同士が喧嘩をすると警察沙汰になることが多い。この場合は相当な大事になりそうだ。
また、爆音が鳴り響く。それはさっきよりも大きくなっている。
なんかさっきより大きくないか?…って!?
「これは…!?」
俺の周りだけ昼間のように明るくなってきていることに気づく。嫌な予感がする。
ゆっくりと上を見ると、真っ赤な炎に包まれた人間が俺に目掛けて降ってふってくる。
「どいて!どいて!」
少女が俺の方に突っ込んでくる。どうやら自分で避けることができないらしい。もう間近まで来ているため普通に避けても間に合わないだろう。
はぁ…一体今日はなんて日だ。
渋々そう思い、俺は全身に力を入れる。身体にほんのりとエネルギーが溜まっていく感じがする。それがどんどんと全身を包み込む。そしてそのエネルギーを右足集中させ、溜めたパワーを一気に開放する感覚で右足を地面に叩きつける。
すると、地面のコンクリートを破壊しつつ俺の身体は何メートルも横に飛び、少女の直撃を回避することに成功する。
これが俺の能力『限界突破』だ。
身体の力の限界を突破することができる。それをすることにより、反射神経、視力、運動能力などを倍増させることができる。今のは足の筋力の強化を行った。そのため俺の体は冗談のように飛んだのだ。ちょっと足が痛むが…
「結構酷いな」
少女がいたところに視線をやる。
そこは少々煙が舞っており、見えないところもあるが、コンクリートがえぐられ、熱気で溶けている部分もある。
あれに当たってたらと考えると…笑えないな。
「痛てて…もう、何この硬い地面…最悪」
黒いとんがり帽子に魔女を想像させるロープ。髪は茶色でその髪をセミロングにしている。顔は少し幼さが感じるがちゃんと整った顔立ちをしている。コスプレか?
彼女は多少ふらつきさせながらこちらにやってくる。怪我をしているらしい。
「…大丈夫か?」
「うん、なんとか…それにしてもここの世界は道を全部石で固めてるなんて…」
ここ世界?コイツは何言ってんだろう。
少女は服に付いたホコリを手で払う。何だか不機嫌そうな表情をしてるな。
「ねぇ、ここってどこ?」
「ここは植木野だが?」
「うえ…きの?」
少女が首を傾げる。植木野市を知らないのか?結構ここらじゃ大きな都市だが…。
少女は何やらブツブツ言ったあとに、腕を組み顎に手をやり何やら考えている仕草をしたあと。何かを閃いたらしく「うん!」頷く。
「ねぇ!あなた名前は?」
「ん?神谷響也」
「なら、神谷!お願いがあるの!」
なんか面倒くさいことになってきたぞ。今日は疲れてるから勘弁して欲しいが…
適当にあしらおう思い彼女に何かを言おうとするが、彼女の目は期待の念が込められていてなんとなく断りづらい。
「すまんが…」
穏便に断ろうと話しかけようとしたとき声が響く。
「ここですッ!ここで爆音と何かが落ちた音がして!」
「ここですか!?危ないので下がってて下さい!」
バットタイミング…どうやら能力者鎮圧のための警察が来たらしい。
はぁ、仕方がない。こうなったら言い逃れは出来ないだろうな。コイツを連れて離れるか。
俺は目の前の少女の腕を掴む。どうやら状況が分からなくて口を開けて呆然としている。おいおい、お前のせいだぞ
「何この人たち?」
「逃げるぞ…一刻も早く」
「えぇ…ちょっと待って」という言葉を無視して少女の腕を引っ張る。ちょっと強引過ぎたかと思ったが今は仕方がない。我慢してもらおう。
暴れる少女を引き連れて家に戻った。
「はいお茶」
「ありがとう、なんかいろいろしてもらって…」
俺たちはなんとか警察に見つからずに家に帰ることができた。
ちなみに俺の家はアパートだ小部屋2つとトイレと風呂、ダイニングキッチンがある。一人暮らしにしては大きいだろう。
さて、俺は家に戻ったあとは少女の手当を行った。放っておくとと酷くなりそうだったからな。
その少女というと、とんがり帽子を脱ぎ、台所の椅子に座ってテーブルに置かれたお茶を飲んでいる。なんか飲んでいる時にブツブツ言ってる。
さてと、一通り終わったし、そろそろコイツから話を聞くか。
俺は彼女の向かい側の椅子に座る。正方形の机に椅子が2つ向かい合ってる絵面だ。
俺が何か言おうとしたが話題は彼女から振られた。
「あの?さっきのお願いだけど…良いかな?」
「それは何だ?」
少女は再び先程と同じように期待を込めた眼差しを俺に送ってくる。
いかにも面倒なことが起きそうだな。もう、関わったから仕方ないか。
半々諦めて目の前のコスプレ女の言葉を耳を傾けることにした。
「私とコネクトして欲しいの!」
「は?」
コネクト?どういうことだ。
どうやら本当にイタい人だったらしい。勘弁してほしい。
「コネクトって何だ?」
「えっ!?コネクト知らないの!?」
何やら大げさな反応を示してくる。本当にコネクトってなんだ?最近の流行りなものか?
意味がわからないまま少女の言葉を待つ。
少女は「コネクトを知らないなんて…」と呟き常識を知らない人間を見つめるかのような視線を送ってくる。すると、少女は「もしかして!」と言い放つ。
少女は先程とは違い、切羽詰まった感じな表情をしている。なんかヤバイことでもあるのか?
「ねぇ!?あなた魔法知ってる?まほう!」
「顔が近い!…魔法か?テレビやアニメとかなら見たことあるが」
「てれ、び?まぁ…いいわ!魔法は知ってるってことだよね!なら、魔法使いとかは見たことある?」
「知ってるが…使えるやつは知らんし、それ以前に存在すらもしない」
「存在しない…?嘘…」
少女は急に固まる。そして「まさか魔法使いがいない世界なんて…」と意味わからんセリフを言ってちょっと泣きそう表情になる。
泣かれた困る。本当に困る。泣いた女の子をどうするかは俺には分からんしな。
そして、この様子を見るからになんかワケありのようだな。ただのイタい人ではなさそうだ。とりあえず、話を他にも聞いてみるか。
そうだな…
「おい、お前が言ってる“世界”って何だ?」
「ふぇ?そっか…知らないよね」
少女は涙を拭い、ゆっくりと話す。その表情は真剣で嘘では無いということが伝わってくる。
「えっとね、私はここじゃない別の世界から来たの」
「別の世界か…」
「信じてくれるの?」
少女が上目遣いで訴えてくる。どうしたんだ急に慎重になって。
さっきとは変わって何だか弱々しく見える。おそらく何か引っかかることでもあるんだろう。
「どうしたんだ?さっきはよく分からん言葉投げかけたわりにはやけに慎重じゃないか?」
「だって、この世界には魔法使いとかいないんでしょ?そうだとしたら私の言葉なんてわかってもらえるか分かんないし…」
「そうだな、分からないな」
少女は俺の言葉を聞いて「やっぱり…」と呟く。
確かにコイツの言葉には信用する証拠はない。だけど
「お前が嘘ついてるとは思えないからな」
「えっ…!」
少女は顔を上げる。その顔には初めに会ったときの期待や希望の表情が見えた。
なんとか調子を取り戻したらしい。このまま暗いままでいられても困るからな。
少し明るくなった場を保ちつつ言葉を繋ぐ。
「お前を信じる確証はない…だが、一方的にも決めつけるのも悪いからな。とりあえずお前の話を聞いてみることにする」
「…ありがとう、それじゃあ」
少女は再び経緯を説明する。その言葉は張りがあり、元気そうだった
「簡潔に話すね、私はその世界である事情で追われていたの、それで追い込まれてしまって、イチかバチかでこの世界に転移して逃げて来たってことだよ」
「かなりぶっ飛んでいるが理由は分かった」
追われていたか…本当だったらとんでもない奴をかくまってしまったな。
本当な話なら身柄を狙われてるってことは、俺にも被害が来るってことだ。今更出ていけっていうのも自分勝手すぎる。それに、こうやって首突っ込んだ時点で他人事ではない。いまさら後戻りはできないな。
少女の顔を見る。その顔は常に真剣で、嘘偽りないことを示している。
さて、本当に信じれるか試してみるか。確か魔法って言っていたが…コイツの格好見るからにそれ系だよな。なら、使えるはずだ。
俺は少し元気になってご機嫌な少女に質問を投げかけてみる。
「俺はお前を信じるための証拠が欲しい、だから、お前魔法使えるんだろ?使ってみてくれるか?」
「うん、使えるよ、えいっ」
少女の左の手の手のひらの上にピンボールぐらいの火の玉が出現する。
だが、これだけでは信用することはできない。能力の一言で片付いてしまうからな。
「残念だがそれだけでは信じられないな」
「むっ!そっか…でも、これだけじゃないよ!」
少女は大マジックを見せつけるマジシャンのような表情を浮かべたあとに今度は右手を差し出す。すると今度はそこにピンボールぐらいの水の塊が出現する。
俺はその光景に目を疑う。ありえない…
能力は一人に1つ、火を出し、水を出すことなどできない。ということはコイツは本当に…
「どう?これで信じてくれた?」
「まぁ…証拠にはなるな」
少女は「やった!」と手を上げて喜びの感情をあらわにする。その仕草は欲しいおもちゃを買ってもらった子供のようだ。
だが、これでこの話に信憑性を増してしまった。どうやら本当にとんでも魔法使いを家に入れてしまったらしい。
これからどうしたもんだと思う。とりあえず誰かに相談するか?でも、信じてもらえるか?いや、信じさせるにはさっきみたいに魔法を使ってもらうが1番だが。巻き込むのもどうかと思う。
とりあえず今日はここに泊めることにしよう。明日は学校だがなんとなるだろう。
「お前、今日はとりあえずここに泊まれ」
「良いの?」
「追われてんなら外は危険だろ、一部屋空いてるしそこに泊まって良いぞ」
少女は晴れ晴れとした表情で「ありがとう」と言った。
内心、同い年ぐらいの女の子を家に泊めるのは…と思うが仕方ないな、うん、これは仕方ない。
空き部屋の片付けを軽くしようと椅子から立つと目の前の少女がふと声をかけてくる。
「本当にありがとうね、感謝してる…私の名前はシエラ!よろしくね!」
シエラは手を伸ばしてくる。
彼女の表情を見る。真っ直ぐな視線がを見つめている。
俺はその手を取る。もうここまで来たら協定関係だ。とことんやってやろうじゃないか。
「あぁ、よろしく」
俺とシエラの逃亡生活が始まった。