85話 さよなら、ありがとね
今回もエンジェラ視点です。
剣から手に伝わり、下へとポタポタと水滴のように落ちてゆく、血の音を聞きつつ私は俯きながら涙を流していた。そして私は無言のまま、剣をすぐに抜くと、剣を捨てすぐにチノンを寝かせ、チノンの傷に回復魔法をかけ出した。
チノンはそんな私に苦しみながら、笑顔を見せて声をかけてきた。
「····エ···ンちゃ···ん。わ···たしは···もう···なお···らないよ·····。だ··からごめ····んね そして···わたしの···ねが···いにこた···えて···くれてあり··がとね··」
「なんでチノンが謝るのよ! もう喋らなくてもいいから! 私が傷を治してあげるから!」
私は必死に答えながらも、幾度となく血が溢れ出す傷口に回復魔法をかけて血が出るスピードを少しでも抑えていた。だが私もチノンがもう治らないことはわかっていた。けれども私は分かりたくはなかった···いやチノンが死ぬことを認めたくはなかったのかもしれない。私はチノンの殺してという願いを、実行してしまったからなのかもしれない。
チノンは私の言葉を聞いて少し経ってから、思い出すように語りだした。
「エン···ちゃん。わたし···ね、エン···ちゃんのこと····ずっ··とだ···いすき···で、ずっと···すごい··ひと··だなって···おもって···たんだ。エ···ンちゃんは····さ、まえ··からな··んかわ···たしより···まえを···はし··ってて、おい···つき···たくて···しか···たなか···ったから、わ···たし···エン···ちゃん···をまも··ろうって···きめ··たんだ···。だから···ひと···つきき···たいんだけど···わたし···はちゃん···とまもれ··てたかな?」
「私だって! 私だって···チノンのことは大好きだし、チノンのことはいつもどの戦いでも、強く成長してたし、どんな時でも私の事をちゃんと守れてたし、それにチノンにいると私が安心する! だからチノンを私は失いたくないのよ! だからこそお願いだから··治ってよ····」
私は大泣きしながら、チノンに向けて声を出した。するとチノンは私へと願いを言ってきた。
「エン···ちゃ····ん。お···ねがい····がある···んだ。ま····ほ···うはや····めてさ、わた···し···のこと···だき···しめて···ほし··いんだ。···だめ····かな?」
チノンの言葉を聞いた私は、すぐに魔法をやめチノンを抱きしめた。血が魔法を止めた影響か勢いが少し増して、私の服に飛びっちる感じを私は、我慢しながら泣きつつも答えた。
「こう···? これでいい···?」
「う······ん。·····りがとう。やっぱ·····エン······はあた····たかいや··。」
チノンはもう話すことも難しくなったのか、飛び飛びで言葉を話していた。私はそれに抱きしめるのを少し強めながら、チノンに話しかけた。
「チノン···も温かいよ!」
「あ···がと···。ねぇ····エ····ちゃん。」
「うん? 何? チノン」
チノンのかすれて飛び飛びの声は本当に徐々に弱々しくなっていた。私はそれに涙を堪えることは出来なそうだった。
そして私の問いに、チノンはまた願いを言ってきた。
「さ···いご·····にさ、エ····のえがお····がみ···たい···んだ。」
私はすぐにチノンを抱きしめるのをやめ、チノンをゆっくり寝かせつつも、少し離れて、涙をボロボロの服で拭き、無理に笑顔になってチノンへと見せた。
「こうでいい!?」
「やっ···ぱ····エ··ちゃんの····え···がおが···いち···すき·····だなぁ···」
私はその言葉に笑顔を作るのもきつくなってきたため、1度俯いた。したらチノンの足から腰までがチノンの背後の地面が見えるぐらいまで、消えかけていたのである。
私はそれに驚くと、チノンへと聞いたのである。
「チノン! 足が····!足が····!」
だがもうチノンはほとんど声が出なかったのか、口が開き遠くでは聞けないぐらいの声量だったため、私はチノンの耳へと近づけた。するとチノンは少し泣きつつも、私に話しかけていたのである。
「エン···。わた···はも····おわ·····かれ···かも···。だからさ····エ···ちゃ····、わた······やく····そくしてほ·····しいこ····あるの····」
「チノン····お別れじゃないわ! 私の中でずっとチノンは生きるの! だからお別れじゃ····ないわよ····。····約束はなに?」
私はチノンに俯き泣きじゃくりながら、答えていた。するとチノンは最後の力を振り絞り答えてきた。
「エ····は······かな····ず···これ···か···も···ちゃ····ん····いき···てね···? そ····して····幸せ····になっ······て·····? 」
「うん···! 約束する····!」
私はそう答えつつも、チノンの体を見ると、もう首元までがほぼ消えていた。
私は消えてゆくチノン体を見つつも、チノンを殺すことしかできない自らの非力さにイラつき、泣きながらも唇を噛み締め、手を強く握った。
チノンは私の言葉を聞いてから、少し笑顔になり頷くと、最後にある言葉を告げてきた。
だがその言葉だけは、私にもハッキリ聞こえたのである。
「エンちゃん! さよなら、今までありがとね!」
その言葉を最後に、チノンは亡くなり顔もやがては消え、そこには誰もいなくなった。
私はチノンの言葉を聞いてから、言葉にできない程の叫び声をあげた。
「ああああああああああああああああぁぁぁ!!!」
その叫び声には、悲しさと自らやセレン達に対する怒り、そしてチノンのとここまでの思い出が、全て詰まっているのであった。
そして一方、私がいる所へと走りながら向かっていたシキとラゼフだが、シキがチノンの気配が消えたのを感じたのかその場に止まり、空を見上げてチノンの名前を言った。
「チノン?」
「チノンちゃんがどうかしたのか? シキ」
ラゼフはシキへと問いた。シキはラゼフの言葉を聞いて、急ぐ方を優先するために、答えた。
「いえ、多分勘違いか何かもしれませんが、いってみないと分かりません。取り敢えず行きましょう!」
「まぁそうだな! 転移は現場がどんな状態か判断できない以上、走るしかないからな。行こう」
そして2人は急いで私の所へと向かうのであった。




