102話 おかえり
今回はチノン視点です。
私はエンジェラが待つ、空間の目の前まで白鬼に連れてもらった。
そして目の前までつくと、白鬼は私に告げながら手を振り、トンネルの中へと消えていった。
「私はここで消えよう。チノンよソナタには重い負担をかけるかもしれぬ。だが任せたぞ我が主を。さらばだ」
「はい! ありがどうございました!!!」
そう感謝しながら私は前を一度見た。そして深呼吸をしてから、空間へと手を伸ばした。
すると空間には穴が開き、私はそのままその空間へと落っこちてしまった。
「あれ?」
私はそのまま空間の底へと落ちたが、底はなぜか柔らかく、怪我はしなかった。私はそれに思わず呟いてしまった。
だが直ぐに私はそんな柔らかい底よりも、エンジェラの事を探すため、名前を呼び始めた。
「エンちゃああぁんいるううう!!!?」
そして私はその黒くて広い空間を探すため、羽を羽ばたかせながら空間を飛び交っていた。
するとある場所で首を傾げながら、こちらを見ているエンジェラの姿を発見した私はそこへと急降下した。
そしてエンジェラの傍へと近づくと、抱きついてエンジェラの名前を呼んだ。
「エンちゃん! 遅くなってごめんね····。」
「あ、あの〜お姉ちゃんは誰?」
「え··?」
エンジェラはこの空間でも、記憶喪失で私の名前が分からない状態だった。
そんな記憶喪失なことは分かっていた筈なのに、さすがに悲しかった···。
だが私はすぐに無理しながら、悲しみを押し殺し笑顔で話しかけた。
「あ、あぁごめんね。私の名はチノン! 今は妖精として復活したけれど、私はあなたに殺してもらったあなたの1人の親友だよ!!」
「チノン····? 私がコロシタ···? あ···あぁ·····ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
私はわざと自分を殺させたことを伝えた。そしてエンジェラも私の言葉に、過去の記憶が薄いながらも蘇ったのか、頭を抑えそこ場に倒れ込んでしまった。
私はそんなエンジェラへと再度話しかけた。
「そしてあなたの事は私は、エンちゃんと呼んでいたわ。そしてエンちゃんは私が守りたいと1番思った人よ」
「ヤメテ···」
私は私の言葉で、エンジェラの記憶が少しずつ蘇りだしてるのを感じた。だから私は追い打ちをかけようとした。
「エンちゃん! エンちゃんが私を殺したんじゃないの。私がエンちゃんに殺してもらったの! だからエンちゃんが苦しむ必要はないんだよ!!?」
「ヤメテヤメテヤメテ···」
私の発言に少し声が大きくなっていく様子を、空間の壁の外から見ていた2人の鬼は、白鬼が血鬼を止めてる感じだった。
「血鬼。今は彼女に任せるしかないの! だから今すぐ辞めなさい!」
「白鬼! じゃああれで貴様は主が助かると思うのか!!!?」
「今は彼女を信じるしかないのよ。あなただって主を助けられないでしょ!!?」
「くっ···。好きにしろ。」
(ほんとにお願いね。チノン)
白鬼がなんとか血鬼を抑え、白鬼もチノンのことを心配しながら見ていた。
そんなことも知らず、私はまだエンジェラに対し、言葉をかけていた、いえそれしか出来ないと思ったからである。
「エンちゃん! お願い目を覚まして!!」
「ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ! やめてぇぇぇぇ!!! 」
するとエンジェラはなんと、黒鬼のように霧を纏いだしたのである。
私がそんなエンジェラの状態に驚いていると、エンジェラは立ち上がりこちらを見ながら、話しかけてきた。
「うるさいのよチノン。エンちゃんとか。あなたを守りたいとか。あなたが私をいつ守れたって!? 笑わせないで! 」
「私は確かに守れたとはいえないわよ。でも私はあの時は力が弱かった。でも今は違う私にだって力はある!!!!」
するとチノンの体が白い霧を纏いだし、体は白い光を出し始めたのである。
そのチノンの様子に、その場にいた3体の鬼は驚いた。だが直ぐにエンジェラはチノンへと言葉を返した。
「それで強くなったつもり、前は弱かったとか言い訳言ってんじゃないわよ!!!」
エンジェラは黒い霧で、剣を作り出すとすぐに私へと攻撃を仕掛けるため、私の方向へと飛んできた。
私はそんなエンジェラの攻撃を、受け止めるため手を広げてその場から動くことをなかった。
そしてエンジェラはそんな私の行動に驚きながらも攻撃を仕掛けるのはやめようとせず、剣を横へと向けて、私に剣を当てようとした。
だが次の瞬間だった。エンジェラの剣は私の横腹に当たる寸前でなぜか止まった。エンジェラはそれに驚きながらも、震えて動かない片手にもうひとつの片手をのせて、なんとか動かそうとした。
「なんで動かないのよ! 動け!!! 動いて···」
「エンちゃんはやっぱりエンちゃんだったんだね!」
私はそんなエンジェラを、剣を避けながらも抱きつくと、声をかけた。
すると私の光がエンジェラへと伝わり出したのか、周りの空間が少しずつ白くなり始め、エンジェラの黒い霧も消え始めたのである。
私はそれを確認すると、さらにエンジェラへと話しかけた。
「エンちゃん。もう1人で抱え込む必要は無いよ。あの時は私はエンちゃんに深い傷を残してしまった。だからこれからは私もその傷を治すの手伝うから。戻ろ?」
エンジェラはなにも返してはこなかったが、涙を流してるのを感じた。
そしてエンジェラの剣は消え、空間も白くなる速度も上がり始めた。
私はそれを確認すると、再度エンジェラへと話しかけた。
「エンちゃん。これからは私は側に入れるから大丈夫。もう君は1人じゃないよ。」
「うん····うん···」
するとエンジェラからは涙を流しながら、返事を返す小さな声が聞こえた。
だから私は抱きつくのをやめ、エンジェラの顔を見ながら問いかけた。
「エンちゃん。皆も待ってるから戻ろ?」
「うん··· チノン··」
「ん? 何エンちゃん?」
「 ありがと。そしてただいま」
私はその言葉を聴けた時、とても嬉しかった。
だから笑顔でエンジェラへと返した。
「おかえりエンちゃん。行くよ!」
「うん!」
黒い空間はその時は完全に白くなり、エンジェラからも完全に黒い物は消えて、いつものエンジェラへと戻り始めた。
そしてエンジェラ私はエンジェラの手を取り、先程通ってきた所を戻りだした。
そんな私達を空間の壁の外から見ていた2人の鬼は、笑顔で見ながら話し合っていた。
「荒療治だな。あんな戻し方もあるのか。」
「あれが彼女のやり方よ。まぁさすがに少し荒療治だけどね フフっ」
「あぁそうだな。」
そんな2人の鬼のことは遠に忘れ、私達はトンネルをくぐり抜け、最初の空間へと戻ってきたのである。
そこでエンジェラは私の手から手を離すと、私へと話しかけた。
「チノン。私はここで消えて元に戻るわ。だからあなたは先に戻ってて?」
「うん! 待ってるね! エンちゃん!!!」
そして私はその場で消えた。
エンジェラはそんな私を見送ると、2人の鬼の名前を呼んだ。
「白鬼! 血鬼! 居るんでしょ?」
すると空間の壁の外から、2人の鬼は姿を現し、エンジェラへと話しかけた。
「何だ?主よ。」
「やっと戻ったのね。おかえり主!」
「血鬼と白鬼。2人もありがと。そしてまた外の世界の時、力を借りるかもしれない。だからその時は···」
エンジェラがそこまで言いかけた時、血鬼がエンジェラへと返したのである。
「あーあー。そういうのは聞きたくないの。てか早く外の世界へと戻ってやれ、ほなまたな。」
すると血鬼は壁の外へと消えていった。そんな血鬼を笑いながら見ていた白鬼は、エンジェラへと答えた。
「あんな言い方してるけど、エンジェラ。彼女もあなたのことを心配してるし、当然力も貸すと思うわ。私もそうだけどね。まぁあんなに性格の荒かった血鬼があんなに丸くなったのは、チノンやクロシーやあなたのおかげかもしれないけどね。まぁ早く戻ってあげなさいエンジェラ!」
「うん! ありがと! それじゃあね!」
そしてエンジェラはその場から姿を消したのである。
一方先に帰ったチノンはというと、エンジェラの体からいきなり姿を現したため、外で待っていたクロシーやカノーに驚かれたのである。
「おぉ!!? 戻ったかチノン!! エンジェラは? エンジェラは?」
「クロシーそんなにチノンに迫ると話しずらいじゃろ? それでチノン。エンジェラは戻ってくるのか?」
私はあまりのクロシーの勢いに、 驚いてしまったが、すぐに冷静に戻り2人へと伝えた。
「クロシーさん。カノー様。エンちゃんはもう少しで戻ると思いますよ。」
「そうか。なら待つとしよう。でもよくやったなチノン!」
「うむ。ほんとによくやったなチノン!!」
「えへへ〜」
私は2人に頭をなでられ、それがとても嬉しくて口がつい緩んでしまった。
そしてその直後、エンジェラの体が急に光だした。そしてその光が消えると、エンジェラは目を覚ましたのである。
そしてエンジェラが目を覚ましたことを、確認した私やクロシーさんやカノー様は、直ぐにエンジェラの名前を呼んだ。
「エンちゃん!」
「エンジェラ!」
「起きたかエンジェラ」
するとエンジェラは目を覚ましながらも、その3人へと話しかけた。
「うるさいですよ····」
「ごめんエンちゃん!」
「すまない。」
「済まなかったエンジェラ。」
すぐに謝った3人に対し、エンジェラはため息をつきながらも、笑みを浮かべ話しかけた。
「はぁー···。まぁ···その···。ただいま!」
「おかえりエンちゃん!」
「おかえりエンジェラ!」
「おかえりなさいエンジェラ!!」
そしてエンジェラの人生が再スタートをするのであった。




