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指名依頼

 冒険者ギルドを訪れた翌日、俺はまたいつも通り獣人ギルドのクエストをこなしている。


 昨日は色々あったわけだが、あの後結局猫の女性の依頼を一緒に受けることにしたんだ。

 と言っても、仕事をしたのはスライムだけなのだが。


 彼女の名前はナーシャ。

 黒猫族の女性で、悪戯好きそうな色っぽい笑顔が印象的だ。

 ただ彼女、少々服装が大胆なのだ。

 ふ~じ〇ちゃ~んが着ていそうなライダースーツ風のぴっちりした革鎧を着ており、ちょいちょい胸元が際どい場面があって慌ててしまった。

 普段は斥候役で索敵なんかをしているらしいからこの服装が動きやすいとは言っていたが、俺の心の平穏の為にぜひとも自重していただきたい所だ。

 ただ彼女は結構Sっ気があり、俺が慌てているのを見て楽しんでいたから、多分改善してくれることはないんだろうなぁ。


 もう一人の狼の男性はドク。

 凛々しいワイルドな顔をした銀狼族で、ポジションは魔獣戦士。

 あ、モンスターとかの魔獣じゃなくて、魔法が使える獣人の戦士って意味らしい。

 何と彼、魔法が使えるらしいのだ。

 銀狼族は元々氷魔法に強い適正があるらしく、小さいころから皆少しずつ教わるんだって。羨ましい。

 そんな彼はスライムが掃除をしてくれている間、ギルドでの事件に割って入ったことをナーシャにずっといじられていた。

 彼女も一緒に割って入ってくれた訳だが、それはそれ、これはこれらしい。


 まぁこの会話も、3人がしているのを横から聞いて頷いたり首を振ったりしていただけなんだけれどね。

 それでも、気づけば2人といるのはそれほど苦にはならなくなっていた。

 大きな進歩だと思う。


 あと、スライムが掃除を終えて受付で清算しているときに気づいたんだけれど、3人ともかなりランクが高いんだよね。冒険者ギルドの。

 ギルドのランクは下はGから上はAまであって、Sっていう特別枠みたいなのを除けばAが最高ランク。

 そんな中、3人とも一つ下のBランクだったんだ。


 アンナは年齢もあって何となく納得できたんだけれど、ドクとナーシャはまだ20代前半。

 ナーシャに至ってはこの前まで10代だったっていうんだから驚きである。


 まぁ二人とも獣人だからって謙遜してたけれど、やっぱりそれだけではないんだろうな。

 若くして実力を付けなければいけない世界。二人は一体どんな人生を歩んできたのだろう。

 二人があそこで声を挙げてくれたのも、自分に対する自信があってこそだったのかもしれない。

 なんだか少し二人が眩しく感じた。


 とは言え、俺も最年長としてのプライドくらいあるわけで。

 俺は俺の出来ることを頑張ろうと決めて、今日も仕事に励んでいるわけです。


「あ、そういえば昨日俺がスライム使いだって言われたときなんか皆様子おかしかったけど、なんでなんだ?」


「あぁ、それはあんたがスライムを悪用しないか皆不安になったんだよ。スライムは基本人畜無害だが、人に懐いたスライム、つまりスライム使いのスライムは人を襲うことが出来る。あの消化力を知っている奴はみなそりゃ恐れるさ。魔法が使えなくちゃ抵抗すら出来ないんだからね」


 おっふ。

 確かに恐ろしい兵器だわ。


「まぁあんたなら大丈夫だよ。人は未知のものを恐れるもんだ。こうやって少しずつあんたの仕事っぷりを見てもらって、皆に知っていってもらえばいいんだよ」


 そう快活に笑うアンナ。

 アンナが俺にバッチを付けさせているのも、そういう意味合いもあったのかもしれない。


 



 仕事を終えギルドに清算しに戻ると、いつもの受付の犬耳女性から声が掛った。


「あ、アンナさん、ケイトさん丁度よかった。お二人に指名依頼が入っているんです」


 指名依頼? 

 なんぞそれは。


 俺が首をかしげていると、犬耳女性が答えてくれた。


「指名依頼って言うのは、その名の通り依頼主が会員を指名して出す依頼のことです。まぁ今ここに張られている掃除の依頼は、ほぼ指名依頼みたいなものではあるんですけれどね」


 そう苦笑する犬耳女性。

 そういやこの人名前なんて言うんだろう。


「なるほど、分かった。で、依頼主は誰なんだ?」


「えーっとですね、それがうちのギルドマスターからなんです」


 おぉ……。

 とうとう俺にも異世界テンプレのギルマスとの邂逅イベントが。

 そわそわしてしまう。


 そんな俺をみて、犬耳女性が笑う。


「ふふ、そんな緊張なさらないでも大丈夫ですよ。うちのマスターは優しい方ですから」


 少し勘違いをさせてしまったらしい。

 まぁいいか。


 と言う訳で、俺たち二人はギルドマスターと早速会うことと相成った。





 獣人ギルド2階。

 ここは普段会員は出入りしないが、会議や面談等で使うこともあるらしい。

 そして今いるのはその中の一つの応接室。

 アンナと二人でドキドキしながら待っている。


 アンナは俺に気を遣って、ギルマスと会うのは遠慮しようとしてくれたのだが、俺が大丈夫だと言って押し切ったのだ。

 そりゃかなり緊張してるけどさ、ギルマスとの邂逅イベントを逃すわけにはいくまい!


 てことで今に至るんだけど、手汗がすごい。

 俺の外套の中のスライムも俺の緊張を感じているのか、ちゃぷんちゃぷんと揺れてがんばれーって応援してくれている気がする。


 とその時、ドアの扉が開き、一人の初老の男性が杖をつきながら入ってきた。

 受け付けの女性の言う通り、優しそうな雰囲気のお爺さんだ。

 長めの灰色の犬耳は顔の横に垂れ、長く伸びた白い眉は目を覆いそうな勢いである。

 なんかシー・ズーっぽい。

 好きだったなーあの犬。なんかおじいちゃんみたいな顔してて。

 ってそうじゃないそうじゃない。


 俺が一人でトリップしてると、ギルマスが向いに座り徐に話し始めた。


「初めましてじゃなお二人とも。わしはここのマスターをしておるフィージオじゃ。よろしくのう」


「私はアンナ。それでこっちがケイトです。こいつのことは――」


「ふぉっふぉっ、聞いておるから大丈夫じゃよ。良く来てくれたのう。まぁあまり長びかせても悪いからのう、手短に話すとしよう」


 そう言ってフィージオさんは一枚の地図をテーブルに広げた。


「これはこの街の地図じゃ。それでこの印を付けているのが、公共の厠じゃな。2人にはこれらの清掃を頼みたい。汲み取り場を含めての」


 地図にはかなりの数の印がつけられている。

 しかも、一つ一つがかなり大きい。


「こんな規模の依頼が、何故獣人ギルドから出たんです?」


 アンナの質問ももっともだ。

 この規模は最早一つのギルドの枠を超えている気がする。


「ふむ。正確にはワシからでは無く、この街のギルド連盟からの依頼じゃな」


 その言葉に目を見開くアンナ。

 ギルド連盟って、やっぱ町全体のギルドの連盟って意味だよな。

 ってことは町全体からの依頼ッてことじゃないか!


「昨日、月例のギルドマスター会議があってのう。そこで君たちのことが話題に上がったんじゃよ」


 その言葉に顔を見合わせる俺たち。


「獣人たちの間では、君たち二人の顔はすでにかなり知られておる。もちろんいい意味でじゃよ。それで昨日、君たちが冒険者ギルドの厠を掃除したじゃろ。それを冒険者ギルドのマスターがえらい上機嫌で話しおっての。ギルド内の臭いが大分改善されて嬉しかったんじゃろう」


 まじか。

 というかどれだけ耐えてたんだギルドマスター。


「それから皆口々に君たちの話をしだしてのぉ。君らのことを知らなんだ他のマスターも興味を示したと言う訳じゃ」


 なるほど。

 昨日の依頼がそんな大事になろうとは。

 

「それでこの仕事が挙がったというわけじゃ。この街の臭気についてはずっと問題にされておったが、中々解決の糸口が見えておらん。何十年も前に公共の厠が出来て街中に垂れ流しと言うことは無くなったが、それでも汲み取りが滞っていたり、そもそも汲み取り場に臭いが染み付いてそこが臭いの発生源となってしまっておる」


 なるほどなぁ。

 そこをどうにかしてほしいってことか。


「どうじゃ。ワシらを助けると思ってこの依頼、受けてくれんかのぅ」


 ここまで頼ってくれているんだ。

 もちろんお受けしましょう!


 ……という視線をアンナに送り、アンナがそれを通訳してくれた。

 いつもお世話になってます、アンナさん。


 

 ▽



「しかしまたえらい仕事を引き受けたもんだねぇ」


 とぼやくアンナ。

 まぁ本気で嫌がっている感じではないけれど。


「確かに多いよなぁ。それに広い」


 ふむ。これは戦力の増強が必要そうですな。


「と言う訳でアンナさん。新しスライム君たちを仲間にしたいんですが、お付き合いいただけますか?」


 俺の下手したてモードに苦笑いのアンナ。


「あんたそれやめとくれ。背筋か痒くなる」


 失礼な奴である。


「ま、もちろん付き合うさ。戦力は多い方がいいからね」


 と快諾をいただいた。

 そういう訳で、明日はスライム探しだな。


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