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獣人ギルド

 獣人ギルドで掃除の仕事を始めて1週間が経った。

 あれから仕事は順調そのもの。

 獣人ギルドのお便所掃除が良い宣伝となって、今では1日3~5件くらいはこなしている。

 家の便所掃除からゴミ置き場の染み付いた臭い取りまでなんでもござれ状態だ。

  

 給料もピンキリではあるものの、安くても1万カルトと異常な高さである。

 獣人族の臭いに対する執念は凄まじい。

 仕事に対する評価も毎回高く、全ての仕事で報酬の上乗せを申し出てくれる。

 ただその額がかなり多くて、本来の報酬の5割くらいを上乗せしようとしてくれるんだ。

 それだけ感謝してくれてるってことなんだろうけれど……。

 なんか俺自身は大したことしていないのに申し訳なくなってきたから、上乗せはいらないから代わりに以来の回数を増やしてくれって言ったらまた感謝された。

 そりゃ頼む側にしても、臭いが気になりだす前に気軽に頼めた方が良いに決まってるわな。


 と言う訳で、最近では上乗せ報酬の代わりに、【推薦会員】バッチをもらうようになりました。

 このバッチ、依頼者は誰でも会員に送れるらしい。

 【ギルドマスター推薦会員】みたいな特別な奴じゃなくて、一番一般的なやつだな。


 1人に推薦してもらうと銅のバッチを1枚。

 銅が10枚貯まると銀1枚。

 銀10枚で金1枚……

 と言う感じでどんどん交換していけるらしい。

 チョコのおまけみたいだ。


 そんな感じで今、俺の外套の左胸の所には銀のバッチ2枚と銅のバッチ1枚が付けられている。

 アンナと分けようと思ったんだけれど、アンナがそれはお前が付けておくべきだって譲らなかったんだ。

 たぶん俺がこの街の人から早く馴染んでもらえるようにとの気遣いだと思う。

 相変わらずいい女である。


 それに依頼のたびにアンナが俺のスキル【人見知り】についても説明してくれるから、今では獣人ギルドもかなり過ごしやすくなった。

 最初はみんな同情の目を向けてくるんだけれど、仕事を終えるとその目がなんか変わるんだよね。

 多分憐みっていうマイナス評価から掃除のプラス評価への振れ幅が大きいせいだと思う。


 自分だけの力では決してないかもしれないけれど、こうして誰かに認めてもらい、必要としてもらえるというのは素直に嬉しいな。



 まぁそんなこんなで今日も今日とて獣人ギルドで仕事を終え、現在宿に帰宅途中である。

 そんな折、アンナから提案があった。


「なぁケイト、明日なんだが掃除の仕事は休みでも構わないか?」


 どうしたんだろうか。

 まぁ別に急ぐような依頼もなかったはずだし構わないと思うけれど。


「いや、冒険者ギルドの方の仕事をやっちまいたくてね。あっちは絶対的なノルマは無いんだが、あんまり放っておくと評判があまり良ろしくないんだ」


 なるほど。

 それは確かに放っておけないな。

 でも街に来てもう10日ほど経つけど大丈夫だったのかな。


「前回あんたを拾った時に1つ済ませてあるからね。でかい仕事なら大体月に1回。小さな仕事なら週一回こなせば問題ないよ」


 なるほどね。それでそろそろ小さい仕事をこなしておこうってことか。

 ……よし。


「なぁアンナ、その仕事俺も手伝えないかな」


 俺は意を決してアンナに提案してみる。

 いつも手伝ってもらってばかりなんだ。

 俺もアンナの力になりたい。

 ……なれるかどうかは別として。


 俺の提案にアンナは少し驚いていたが、またいつもの表情で笑う。


「別に無理してくれなくていいんだよ? まぁでもそうだね。折角あんたがやる気をだしてくれているんだ。一緒にやってみようか」


 無事アンナの許可が下りました。


「とは言えその恰好じゃすぐには外に出れそうにないから、これから少し買い出しに行こうかね」


 確かに。今の俺の服装は麻の上下に革靴と、この町の人の一般的な普段着だ。

 これで一緒に冒険しようなどとよく言えたものである。


 少し赤面しつつも、俺たちは早速防具類を買いに行くことにした。





 翌日。俺は装備を揃えて宿を出発する。

 ロックリザードとかいうモンスターの革で出来た茶色い革鎧一式といつもの外套。

 武器は申し訳程度の短剣だ。

 

 武器を扱ったことが無いことをアンナに伝えたんだが――


「あんたにはそのスライムがいるじゃないか」


と笑われた。

 どういうことかと聞いてみると、どうやらスライムには物理攻撃が全く聞かないらしく、命令をスライムが聞き入れさえすれば生き物でも消化してしまうらしい。


 なんと。人畜無害な益獣はどこに行った。


「あぁ、アレは野生のスライムの話さね。この子たちは基本気ままに彷徨さまよっているだけだから、特に何かに危害を加えようとはしないんだ。でも自分の身の危険を感じた時にはものすごい勢いで逃げていくし、逃げられないときには牙を剥いてくることもあるんだ」


 なんと自由な奴らだ。

 強者故の道楽なのかな?


「でも魔法攻撃には滅法弱いからね。そこだけは気を付けてやんなよ」


 てな感じの会話があったわけだ。

 この辺りは魔法を使うようなモンスターはいないらしいから、俺の武器と言うか攻撃手段はスライムだけでも十分とのこと。

 全くスライム様様である。





 さて、そうこうしている内にやってきました冒険者ギルド。

 獣人ギルドの時もそうだったが、俺の人見知りスキルがビンビンに反応しております。


 こんな風に人が密集している所では毎回そうなんだけれど、特に冒険者ギルドはラノベとかのイメージが強いからやばい。

 めっちゃトイレ行きたい。


「はっは、今からそんなに緊張してどうするんだい。と言っても仕方が無いのかもしれないけどねぇ。どうする、やめておくかい?」


 俺を気遣ってアンナが聞いてくる。

 いや、これは少し挑発しているようにも感じるぞ。


「いや、大丈夫。いくよ」


 俺がしっかり前を向いて答えると、アンナも嬉しそうに、そうかと背中を叩いてくれた。

 めっちゃ痛かったけど、その痛みが今は心強い。


「……ただ、限界きそうだったらトイレ行くから場所だけ教えといてくれるかな」


 カクンとなるアンナ。


「……はぁ、締まらない奴だねぇ全く。まぁあんたらしいか」


 そう笑われながら、俺たちはギルドの扉を開いた。




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