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お仕事

 あのお便所掃除事件から2日経った。

 あれからというもの、ジョルトが異様に絡んでくる。

 絡むといっても直接じゃなくて、ドア越しに話しかけてきて返事はノックで返したり、近くのお勧めの店を地図を描いて渡してくれたり……。

 ジョルトの優しさが怖いです。


 確かにあの時俺のスキルをみてから、ジョルトの視線が妙に優しくなった気がする。

 多分【人見知り】スキルのことを同情してくれているんだろうけれど、なんだかなぁ。

 まぁ害意があるわけじゃないから別にいいんだけどね。


 さてさてそんなことよりも。

 あのお掃除事件からもう2日である。

 そう、仮証明書の期限切れまであと1日となってしまったのだ。


 あれから俺のしたことといえば、アンナの金で宿に泊まり、アンナの金で飯を食い、アンナの金で買い物をして、アンナの金でまた宿に泊まる。

 もう完全に紐である。

 このままアンナの紐でもいいかなぁとか思ったりもするが、そういう訳にもいかない。

 

 実家にいた時は家族の情もあり甘え続けていられたが、アンナは言ってしまえば他人だ。

 いつか愛想尽かされて捨てられるかもしれない。

 そうならないよう俺も努力せねばならんのだ!!


 ……とは言ったものの、俺の【人見知り】スキルが邪魔をする。

 やっぱり一番はスライムを使った掃除業だと思うんだけれど、それにしてもどうしても人と会ってしまう。

 しかも街の掃除なんて同じところばかりじゃないだろうから、毎回違う場所に行くことになって色んな人に会わなくてはいけないだろうし……。

 ムリだな。

 

 ウーム。どうしたものか。

 とりあえず一度アンナに相談してみよう。





「と言う訳で、完全に詰んでいる状況なんです」


 相談する立場なのでまずは下手(したて)から。


「なるほどねぇ。確かに何するにしてもそのスキルが足引っ張っちまうね。性格とかじゃないから治しようもないし」


 本当だよまったく。

 これじゃただの呪いじゃないか。

 まぁそんなことを今更言っても仕方が無い。


「それならあたしがあんたのマネージャーをするってのはどうだい? 需要はたんとあるんだ。交渉さえ私がどうにかすれば後はあんたが掃除するだけ。悪くないんじゃないかい?」


 おー。それなら俺にも出来そう。

 でもそれってアンナの今の冒険業しごとの邪魔になるんじゃないか?


「なんだい、気を遣ってくれるのかい? はっはっは、別に問題ないよ。私もこの年で一人身さ。かなり貯えもあるから少々遠回りしたってかまうもんか。それにあんたが独り立ちするまで付き合うって決めたんだ。女に二言はないよ!」


 なんともカッコいい女である。

 そこまで言ってもらえるなら俺も男を見せようじゃないか。

 まぁ結局掃除するのはスライムで、俺はついていくだけなのだが。






 と言う訳でやってきました獣人ギルド。

 え? なんで獣人ギルドなのかって?

 まぁ聞いてくれよ。


 そもそもこの国には、大小様々なギルドが存在するらしい。

 冒険者ギルドや商業ギルドとかの大ギルドから、虫取りギルドなんていう良くわかんらない小さなギルドまで様々。

 それで俺たちが最初に向かったのが掃除ギルドっていう中規模のギルド。

 まぁ妥当だよな。

 でもそこで言われたんだ。

 ここはお前たちの様な奴らが来るところじゃないってさ。


 どうやらこの掃除ギルド、孤児や怪我人といった本当に掃除くらいしか出来ない人たちの救済の場所らしい。

 だから、スライムが懐いてるなら他に需要はもっとあるからそっちに行ってくれってさ。

 要は簡単な仕事を横取りするなってことだな。

 確かにそんなことをして、他人が飢えるのは本意じゃなかったので素直に従う。


 で、そこで紹介されたギルドの1つがここ。獣人ギルド。

 ここは割と大きめのギルドで、この街に住む獣人の殆どが加入しているらしい。

 俺人間だけど大丈夫? って聞いたんだけれど、規則的には問題ないらしい。

 結局獣人に関することならなんでも良いわけだ。


 で、只今受付にて色々とやり取り中。アンナが。

 最初はやっぱり人間が登録するのは珍しいのか少々訝しまれたけど、スライムを使った掃除をすると伝えると、カウンターからはみ出す勢いで身を乗り出して食いついてきた。

 やっぱり獣人にとってこの臭いはきついらしい。

 スライムに懐かれる人っていないでは無いらしいけれど、やっぱり珍しいんだって。

 しかもその人が掃除業なんて人が嫌がる仕事をするとは限らないから、余計に少ないらしい。


「それではこれでお二人の当ギルドへの登録は完了いたしました。掃除の方はお二人で為さるということでよろしいですか?」


 受け付けの犬耳の女性がアンナに話しかける。


「そうなんだが、こいつはちょっと特殊でね。私が主に受付や依頼主とのやり取りをして、こいつが掃除をする形になると思う」


 俺はアンナに促され、ステータスウインドウを受付さんに見せる。

 どうやらこのウインドウ、表示を少しいじれるらしい。

 というわけで【ペット創造】は非表示中だ。


 俺のスキルを見た犬耳女性が、あぁなるほどと憐みの目を向けてくる。

 もう慣れたけどね。慣れたんだけどね!


 ギルドにはランクとかあるのかと思ったけど、この獣人ギルドには特にないらしい。

 ただ、やはり依頼の重要度によって振り分けは必要だから、【ギルドマスター推薦ギルド会員】とか信用に合わせて色んなバッチが付くそうだ。

 これを見れば誰の太鼓判をもらっているかって言うのが一目でわかるらしい。

 確かに形だけのランクよりよっぽど意味がありそうだ。


 登録を終えた俺たちは、早速依頼を受けることとなった。

 本当は門番の所に仮証明書を返してゆっくりしたかったんだけれど、受付の人にどうしてもって頼まれてしまったんだ。

 まぁ時間もあるし、頼られて嫌な気分もしないし結局受けることにした。





「うっ。これはまたなかなか……」


 依頼を受けて案内されたのは獣人ギルドのお便所。

 まぁ獣人たちが一番多く集まる場所だ。

 みんな早急にどうにかしてほしかったみたいだ。

 臭いに堪えている俺に、アンナが話しかけてくる。


「ケイト、無理にトイレ掃除をする必要はないんじゃないかい? 他にも掃除の依頼はあるんだ。無理をせずにそちらを選べばいいじゃないか」


「うん、そうだね。でもさ、やっぱり誰かに必要とされるのは嬉しいからさ。俺は|トイレ掃除(この仕事)を続けようと思う」


 俺がそういうと、アンナは「そうかい」と言って微笑み、背中をバシンと叩いてくれた。


「さて、じゃぁやるとしますか!」


 このカオス、ばっちり綺麗にしていきましょうかね。


 俺は宿の近くで買った外套の内側でペットボトルのキャップを開ける。

 すると中から水色のスライム君の登場だ。


「じゃぁまた前みたいに、このトイレの汚れを全部食べちゃってくれるかな。あ、少しゆっくりでも大丈夫だから」


 前回みたいにあっという間に綺麗にしちゃうと怪しまれるからね。

 俺に言われてどんどん汚れを綺麗にしていくスライム。


「ほんとあんたのスライムは異常なくらい素早いねぇ。それだけ懐かれているってことなんだけどさ」


 あの後アンナにもなんでこのスライムがこんなに素早いのか聞いてみた。

 なんでもスライムって元々割と素早く動ける生き物らしい。

 でも普段は基本自由に彷徨うだけだし、誰かに指示を出されてもやる気を出さないのかゆっくり動くんだと。

 

 俺のスライムは何故か異常に俺に懐いてくれているらしく、必要以上にやる気を出して頑張ってくれているらしい。

 かわいい奴である。

 懐いてくれるのが俺が異世界人だからなのか、それとも他に理由があるのかは分からないが、まぁ現状問題ないのでこれで良しだ。


 1時間後。

 茶色くくすんでいた床や壁はすっかり元の白さを取り戻していた。

 鼻をつまんでいないと耐えられなかった空気も、今じゃすっきり爽快である。

 スライム君、いい仕事してますね~。



「うわ~! 噂には聞いていましたけど、人に懐いたスライムって本当に凄いんですねぇ。私たちも何度かスライム捕まえてきてここの掃除お願いしてみたんですけど、すぐにどこかに行っちゃってあんまり効果なかったんです。あの子たち逃げるのだけは早いですから」


 受け付けの犬耳女性にも大好評だ。

 これで俺の仕事もなんとか目途が立ちそうで良かった。

 アンナ頼りではあるけれども。


 その後俺たちは依頼を終え報酬を受け取り、仮証明書を無事返して宿へと戻った。

 ちなみに今回の報酬は5万カルト。

 大雑把ではあるが、1カルト1円だ。

 たかがトイレ掃除で5万円もって思ったりもしたが、それだけ重大な問題だったのだろう。

 掃除の出来栄えも評価されての値段らしいので、まぁありがたくいただいておく。

 

 宿代とか諸々のつもりでアンナに渡そうとしたんだけど、これは初給料だからこれで何か旨いものでも食いに行こうと流された。

 まぁ急ぐことでもないしいいか。

 帰ったらスライム君にもペットボトルをたんと食わせてやろう。


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