ホスピティの街
街にむかい歩くこと数時間。
途中何度も休憩を挟んでもらいながらやっとのことで目的地に到着した。
「あそこがホスピティの街だよ」
アンナに言われて景色を見渡す。
おぉすげぇ。
城壁だ城壁。
テレビでしか見たことなかったけれど、やっぱ生は違うなぁ。
4階建てくらいの高さがあるけれど、これって何から守るために作られたんだろう。
「あぁそりゃモンスターからさ。この辺は戦争なんて滅多にないからね。皆モンスターの相手で手が一杯なんだよ」
なるほどなぁ。
ちなみにこの国はメディカリン王国っていう国なんだって。
大陸でも1,2を争う様なでかい国らしい。
まぁでも俺あんまり地理とかには興味ないかなぁ。
「ほれ、さっさと並びな! そんなとこで突っ立ってたら日が暮れちまうよ」
アンナに背中を押されながら列に並ぶ。
結構長蛇の列だ。
こりゃなかなか時間がかかりそうだ。
そうこうしている内に俺たちの番に。
まぁ俺はアンナの後ろで立っているだけだったんだけどね。
アンナが門番の人に何か説明して、お金を渡してカードを受け取っていた。
「ほれ、これがあんたの身分証明書だよ。仮だけどね。この後どこかのギルドにでも登録しようと思うんだけど、どこか希望はあるかい?」
んー、特にないかなぁ。
でも戦闘とかは無理そうだし、やるとしたら商売?
いやでも俺人と話せないから無理かー。
うーん……。
「まぁ焦るこたないさ。その仮証明書の期限は3日あるんだ。ゆっくり決めなよ」
そうか。じゃぁお言葉に甘えておこう。
街に入ると、そこはネットで見たヨーロッパとかその辺りの街並みのようだった。
白を基調とした石造りの家。
レンガの様なタイルが埋め込まれた道。
ケモ耳やずんぐりむっくりした人など多種多様な人々。
おぉ、これぞ異世界!!
しかし……。
「く、くせぇ」
なんだこの臭い。
いや、多分排泄物とかの臭いだとは思うんだけど。
そういえば、昔の街は下水とかそういうのが垂れ流しだったから臭かったとか聞いたことあるな。
ここもそうなんだろうか。
「なんでこんなに臭いんだ?」
「そうかい? 私はもう慣れちまったからそれほど気にはならないんだけど……確かに獣人なんかはこの臭いに苦労してるってよく聞くねぇ」
そりゃそうだろう。
鼻がよく効く人たちにこれは拷問だ。
「スライムとかで掃除はできないのか?」
益獣とか言われてるんだ。
こういう時に使ってやったらいいのに。
「あー、スライムね。あいつらはさっき言ったように連れてくるのも大変だし、連れてきたらきたで今度は飼うのが難しいんだ」
「なんでだ?」
「あいつらは基本人に懐いたりしないからねぇ。自由気ままにその辺を移動して、いつの間にか逃げちまうんだ。ガラス瓶なんかで無理に留めておいても、いつの間にか瓶を溶かして移動したりもするからね」
なんて自由な奴らだ。
でもじゃぁ俺のスライムは大丈夫なのかな?
「あんたのはもうすっかり懐いているだろう? あんだけ懐かれてたら逃げやしないだろう。まぁ逃げられたとしてもその入れ物溶かされて終わりだから大した被害もないさ」
なるほどなー。
よし、これからもしっかり構ってやることにしよう。
そうこうしている内にアンナが泊っているという宿に到着。
受け付けはかわいい女の子ではなく、右目に大きな傷跡を持ついかついお兄さんでした。
不機嫌そうにこちらを一瞥して一言。
「……らっしゃい」
あのぉ、職業間違ってません?
客商売出来そうに全然見えないんですが。
「新しい客を連れてきたよ。極度の人見知りだから、気ぃつかってやってくんな」
「……了解」
だから恐いって。
なんで一々溜めるんだよ。
お兄さんに戦々恐々としつつも、俺は鍵を渡されアンナと同じ1階の部屋に。
しかしここがまた臭いのなんの。
「あぁ、そこの離れに便所があるからねぇ。慣れないとちょっときついかもしれないね」
言われた通り部屋の窓の外にはお便所。
むぅ。ここで暮らすのは流石に無理だ。
……あ、そうだ。
「なぁ、あそこ掃除してもいいのか?」
「なんだって? あぁ、スライムか。まぁ自分から掃除するってんなら構わないんじゃないかい? ジョルトには私から言っておくよ」
そう言って部屋を出ていくアンナ。
あの不機嫌な兄ちゃんはジョルトというらしい。
よし、じゃぁ早速始めるとしよう。
俺はお便所に向かう。鼻をつまみながら。
そして服の下にしまっていたスライム入りペットボトルを取り出して、キャップを開ける。
「よーし、じゃあここの便所の汚れ全てを食べてくれ。壁とか床の石は食べないようにな」
そういうと、ブルンと一揺れしてお便所に入っていくスライム。
おぉ、早速スライムが通った後が綺麗になっていく。
なんてすごい奴なんだ。
……と言うかあいつ移動早くない?
確かスライムって移動が遅いって聞いた気がするんだけれど……。
まぁいいか、あとでアンナにでも聞いてみよう。
そうこうしている内に、お便所があっという間にきれいになってしまった。
ものの30分くらい?
俺もそのビフォーアフターが楽しくてつい見入ってしまったよ。
しかも全然臭わないんだ。
壁や床に染み付いた臭気も食べてしまったんだろうか?
だとしたらすごいな。
もうスライム無しでは生きていけないぞ。
俺がスライムを愛でていると、宿の方からアンナがやってきた。
……ジョルトとかいう宿の兄さんも一緒だ。
「すまないねケイト。ジョルトも手伝うって聞かなくてさ。……ってどうしたんだいこれ! すっかり綺麗になっちまってるじゃないか!」
俺とスライムによる劇的なビフォーアフターをみて驚愕するアンナ。
そしてその横で口をぱかーと開けているジョルト。
「なんかスライムがすごい勢いで食べてくれてさ。この通りだよ」
俺はスライムをつんつんしてやる。
「この通りってあんた……まぁあんただったらこういうことをしでかすって予想してなかった私も悪いさね。ジョルト! このこと他には喋るんじゃないよ!!」
アンナの一喝に深くうなずくジョルト。
う~ん、どうやらまたやらかしてしまったらしい。
俺が唸っていると、ジョルトが俺にドスドス近づき、ガバっと両肩を掴んできた。
俺170㎝。ジョルト190㎝(推定)。
固まる俺。
ジョルト、俺を睨みつけて一声。
「……ありがとう」
礼がこわい!!
一々オーバーなんだよ!
人見知りマジで舐めんな!
さっきからジョルトの顔がまともに見れない。
足もなんか震えてきた。
息が荒い。
あ、やべ漏らしそう。
しかし俺の人としてのピンチはアンナによって救われる。
「ジョルト! こいつは極度の人見知りだって言っただろう! さっさと離れな!」
それを聞いてガバッと離れるジョルト。
あ、ちょっと焦った顔してる。
ふぅ、少し落ち着いてきた。
「……すまない」
本当に申し訳なさそうに頭を下げる彼。
ん~、別に彼は悪いことしてないのにこちらこそ申し訳ない。
まぁそんな言葉を伝えられたら苦労はしないわけで。
俺はとりあえず首をフルフルと横に振った。
「……そうか」
それをみて一安心といったところのジョルト。
まぁこればっかりは追々慣れていくしかないよね。
「……名前……聞いてもいいか?」
う~ん。
まだ話すのはしんどいんだよなぁ。
まぁ名前くらいなら大丈夫か?
……あ! あれがあるじゃん。
俺は目の前にステータスプレートを表示させ、彼に見せてやる。
するとそれを見て目を見開くジョルト。
あれ、そんな驚くことあったけ?
……あ、スキルか。
「おい! だからそう無暗やたらに自分の情報をさらすなと――」
とアンナにぐちぐち説教される俺。
仕方がないじゃないか。話すのしんどいんだから。
しかしそんな俺の言い訳も通用せず、アンナの説教はしばらく続いたのであった。