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試練を終えて

 門の前へと転移し、アンナ達の顔を見て安心する俺。

 というか、俺が試練を受けている間ずっと待っていてくれたんだろうか?

 そんな俺の疑問にアンナが答える。


「何言ってるんだい? アンタさっき門を通ったばかりじゃないか。失敗してすぐに帰ってきたんじゃないのかい?」


 えっと、アンナは何を言っているんだろう。

 俺結構頑張ったんだけれど……。

 すると横からジョイの声が。


「試練の間は、時空が少しいじられているらしいでし。お前が向こうで試練を受けている間の時間は、こっちでは一瞬だったんでしよ」


 なるほど。

 時空魔法と言うのは本当に便利なものらしい。

 俺が一人で納得していると、アンナの後ろにいたドクが恐る恐る尋ねてくる。


「それでよう、ど、どうだったんだ? いや、おめぇの体から感じる魔力の量見たら、ただ事じゃねぇのは分かるんだが……いややっぱ聞くのやめとく」


 そう言ってはっきりしない態度のドク。

 気にはなるけど、俺の魔力が増えたのを感じとって聞くのが怖いのかもしれない。

 まぁドクが躊躇うのも無理はない。

 なんてったって魔王の欠片を吸収しちゃってるしね、俺。

 そんなドクにため息をつくナーシャ。


「にゃはー。そんなうだうだ言ってたって仕方が無いにゃ。で、ケイトは今度は何をしでかしたんだにゃ?」


 そう言ってぐぐいっと迫ってくる。

 角度的に胸の谷間が視界に入って目の毒だ。

 俺はそこから目を逸らしつつ、ナーシャの質問に答えることにする。


「えーと、どこから話したらいいんだろう。まず――」


 と俺が皆に説明しようとしたその時、村の外から辺りに耳をつんざくような遠吠えが鳴り響く。


――ウオオオオォォォーーーンッ!!


 緩んでいた空気が一気に張り詰めた。

 

「にゃ、にゃんにゃんだにゃ!!?」


 俺に迫っていたナーシャも、突然の展開に慌てている。

 すると、それに答える様にドクが口を開いた。


「こりゃこの山の主の遠吠えこえだ! でもあいつはもっと山奥にいるはず……村のこんな近くで聞いたことがねぇ! おい、ジョイ! どうなってる!?」


「私に聞かれても分かんねぇでし! でも考えられるとしたら、魔王の欠片の影響ぐらいしかないでし! おい異世界人! お前、やっぱり封印に失敗したんでしか!??」


 俺を問い詰める様に叫ぶジョイ。

 

「いや、そんなはずは……」


 無いとは言い切れない。

 だって魔王の欠片は、今は俺の中にあるんだから。

 封印って言うより、むしろ開放しちゃってる気が……。

 ……あれ? これってひょっとしてちょっとマズい?


 そんな俺の戸惑いをどう受け取ったのかは分からないが、ジョイは舌打ちを1つした後、村の外へと駆けていく。


「もういいでし! ドク! 兎に角今は村を守るでしよ!!」


 そう言うと、ジョイはドクを連れてあっという間に駆けていってしまった。


「……えーっと、どうしたら良いのかな?」


 突然の展開について行けない俺。

 そんな俺に、アンナも少し焦った表情で答える。


「私たちも向かうべきだろうね。ジョイたちだけで何とかなるかもしれないけど、ここで知らん顔する訳にはいかないよ」


 確かにそうだ。

 まだ力の使い方を知らない俺に何が出来るかは分からないけれど、居ないよりはましだと思う。多分。


「そうだね。じゃぁ俺たちも向かうとしようか」


 そう言ってジョイたちが向かった方向へ足を進めようとした時、道の向こうの方から聞こえるジョイの声。


「こ、こらー!! 待つでし! そっちはダメでしよ!!」


 かなり焦っているようだが、一体どうしたというのだろう。

 と俺がボケッと考えていると、


――ズザッ、ズザッ、ズザッ


 地を揺らす程の足音と共に、ここからでも視認できてしまう程大きな体躯をもった狼がこちらに向かってきていた。


 ……これ、やばくない?


「ちょっとこれはマズいかもしれないねぇ」


 そう言いながら、大剣を構えるアンナ。

 ナーシャも隣で短剣を構えてすでに臨戦態勢である。


 どんどんと迫ってくる巨狼。

 あんな大きな化け物、地球で見つけたら一目散に逃げだすだろう。

 しかし俺は、その巨狼から目を離すことが出来なかった。

 その毛並みは白銀に輝いており、日に反射してキラキラと光を振り撒いているようでとても美しい。

 

「ケイト! 何ボケーっとしてるんだい! さっさと私たちの後ろに下がんな!!」


 俺が巨狼に見惚れていると、アンナが焦って俺に声を掛けてくる。

 確かにアンナの言う通り、さっさと逃げるべきなんだろう。

 なんだろうが……。

 しかし俺は、不思議と危機感を感じていなかった。

 寧ろ何と言うか、懐かしい感じすら……。


「……もしかして」


 俺はハッと思い立つと、アンナ達が止める中、そのまま巨狼の方へとゆっくり歩を進めていく。

 迫りくる巨狼。

 まだ距離は50mは優にありそうだ。

 が、巨狼は俺を視認すると、その距離を一気に跳躍。そして、


――タタン


 と俺の前に軽やかに着地した。

 高さ3mはありそうなその巨大な体で、俺を見下ろす巨狼。

 そのサファイヤの様に青く透き通った目には、明らかに知性が込められている。

 そして俺に顔を近づけ、スンスンと臭いを嗅いだ後、俺の前に伏せる様にしてこうべを垂れる巨狼。


 突然の事態に息を呑むアンナ達。

 巨狼を追いかけてきたジョイや他の銀狼族も、予想外の展開にどうしたら良いか分からないのか、皆固唾を飲んで見守っている。


 そんな皆を横目に、俺は巨狼へと一歩、また一歩とゆっくり近づく。

 そして右手を差し出し、巨狼な頭を撫でてやる。


「君は、魔王の眷属なのかい?」


 俺の問いに、ウォンと威厳を込めつつ短く答えて肯定を示す巨狼。

 しかし俺がゆっくり撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。


 皆が固まる中、一番こういう事態に慣れてきていたのか、アンナが最初に口を開く。


「……おい、ケイト。私には何が何だかさっぱり分からないんだが……」


 アンナの問いに、どう答えたもんかと悩む俺。

 とりあえず、一番大切なことを伝えておこうかな。


「えっとね……俺、なんか魔王になっちゃったみたいなんだよね」


「……はぁ?」


 俺の言葉に心底意味が分からないとでも言いたそうな顔をして返すアンナ。

 横ではナーシャが口を開けて固まり、振り向くとドクが額に手を当てて天を仰いでいた。


 やれやれ、これはまた説明するのが大変そうである。


第1章完結にあたってのお知らせとお願いを活動報告にてさせていただいております。

ご興味のある方は、是非一度ご覧ください。

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