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魔王の欠片

「では最後に、私が封印している魔王の欠片をあなたに返すと致しましょう」


 そう言って自分の胸に両手を宛がう精霊。

 彼女が目を閉じ、何か呟く。

 すると、彼女の胸の中から力強い光が浮き出してきた。

 白に近い水色の光を放つそれ。

 とても冷たい色にも見えるが、何故かそれがすごく懐かしい。

 この結解に入ってからずっと感じていた感情。

 俺の中の魔王の魂と、この光が反応し惹き合っていたいたのだろう。

 あれがもとの場所に戻ってくると思うと、俺もなんだか嬉しくなってしまった。


「では魔王。こちらに」


 俺は招かれるまま、精霊の下へ。

 

「古きと新しきを併せ持つ魔の王。この力を受け入れ、あなたが冷静で理性を持つ良き王であらんことを。【封印解除アンスィール】」


 彼女が呪文を唱える。

 と同時に眩く発光し始める魔王の欠片。

 その光はどんどんと大きくなり、やがて広がったそれは一気に俺の中へと流れ込んでくる。

 俺の中にある魔王の魂を求めてさまようそれ。

 しかし俺の魂と魔王の魂がすでに混じり始めていることを感じると、今度は俺の魂ごと追い求めてくる。


 何と言うか、とても不思議な感覚だ。

 ここにくるまで、魂って言葉すら考えた事なんてなかったのに。

 俺の中に漠然とだが“ある”のがわかる。


 やがてその新たな力は俺と魔王の魂に完全に溶け込み、定着する。 

 魔王と俺の魂の混ざり具合も、先ほどより明らかに進行しているのが分かる。

 ただ、異物が入ってくるとかそんな感じじゃなくて、自分の中の世界が広がっていく感じだ。


 俺に魔王の欠片が定着したことを感じ取ったのか、精霊が口をひらく。


「無事定着したようですね。その力はこれからあなたにとって大きな助けになってくれることでしょう。しかし使い方を誤れば、力は暴走し周りを傷つける刃となります。くれぐれもそのことを忘れないで」


 俺に諭すように、そして懇願するように話す精霊。

 その顔は、どこか何かを悔いているようにも見えた。

 彼女は今、一体何を思っているのだろう。


「さて、そろそろ時間のようです。あなたのこれからの旅が、幸多きものとなるようこの地から願っていますよ」


 そう言って表情を一転。 

 微笑みながらこちら見つめる精霊。

 すると、彼女の周りの景色が徐々に歪み始める。

 いや、周りを見回すと、俺の周囲全体が歪み始めているようだ。

 俺がいきなりの状況の変化に戸惑っていると、彼女が最後に意味深な言葉を呟いた。


「そうそう。あなたの持つペット創造のスキル。あれは本来、もっと可能性を秘めた力なのです。あなたと眷属がきちんと心を通わせていれば、眷属はあなたの想いにきっと応えてくれますよ」


「え? それって一体――」


 精霊の言葉の意味を尋ねる俺。

 しかしその言葉を言い切る前に、精霊の姿は歪みの向こうへと消えてしまった。

 彼女が最後に言った言葉。 


「眷属の可能性、か」

 

 また試してみなくてはいけないことが増えてしまったな。

 そんなことを考えながら、俺は空間の歪みに身を任せた。


 ……。


 しばらく歪みに身を任せていたが、一向に変化が現れない。

 あのー、結構時間経っているんですが、これいつになったら収まるんでしょうか。

 折角カッコつけて終わったんだから、さっさとみんなの場所に返してもらいたいんだけれど。

 こういうのって普通、『気づけばそこは入り口の門の前だった』とかってなるもんなんじゃないのかな?

 ……まぁ俺にどうこう出来ることじゃなさそうだから、待つしかないか。


 ……。


 長い。

 流石に長すぎる気がする。

 これって転移魔法とかそんな感じのものだとは思うんだけど、これ本当に大丈夫なのかな。

 もしかして失敗とかないよね?

 い し の な か に い る

 とかマジで勘弁して欲しいんですが……。

 とりあえず、何かアクションを起こしてみよう。

 体はなんかフワフワして上手く動かせそうにないから……。


「おーい! 誰か聞こえませんかー??」


 特に答えを期待したわけではないが、とりあえず叫んでみる。

 すると予想外にも、俺の言葉に応答する声が。


「はいはーい! どなたさま?」

「はいはーい! だれだろう?」


 元気よく俺の前に浮いて現れた2人の子供の姿をした精霊・・

 姿は小学生程の可愛らしい顔をした男女の双子だが、その二人から感じられるオーラの様な物が、先ほどの氷の精霊とよく似通っていた。


「……君たちは?」


「私はね、時間の精霊なの!」

「僕はね、空間の精霊だね!」


 似た様な言葉を繰り返す双子精霊。

 なるほど、時間と空間、合わせて時空精霊なのか。

 って、そうじゃない。


「あのさ、なんで俺ここに来たのか分からないんだけれど、君たち何か知ってる?」


 ダメもとでとりあえず聞いてみる。

 しかし二人は嬉しそうにニシシと笑って顔を見合わせた。


「知ってるよ! だって私たちが呼んだんだから!」

「知ってる知ってる! だって僕たちが呼んだんだもん!」


 二人の言葉にポカンとなる俺。


「だってね、私たちもあなたに会いに来て欲しかったんだけど」

「あんたが来れるのは当分先になりそうだったから」

「この世界に時空魔法を操れる人間はほとんどいない」

「みんな魔王が食べちゃったからね」


 ブーブーと頬を膨らましぶー垂れる時空精霊。


「時空魔法は世界の理に逆らう魔法」

「その力は計り知れない」

「だから魔王はそれを欲した」

「この世界を理から消し去るために」

「私たちで食い止めたのはいいけれど」

「今度は時空魔法がこの世から消えちゃった」

「だから今しかなかったの」

「精霊たちはカッコつけが多いからね!」


 互いに掛け合うようにして話し出す時空精霊。

 またなんか色々と大切なネタバレを聞いた気がする。

 とにかく、時空精霊とは時空魔法を使った時にしか会えないのか。

 それで、精霊がカッコつけて別れに時空魔法を使ったタイミングを狙ったと。

 

「二人も俺に魔王の欠片を返しに?」


 精霊が会いに来たということはそういうことなのだろう。


「そうそうそうなの!」

「そうそうその通り!」


 俺が尋ねると、嬉しそうに答える二人。

 しかしそのあと顔を見合わせニシシと笑う。


「でもねー、このままあげちゃうのは楽しくないよね」

「でもなー、こんな簡単じゃ楽しくないな!」

「だからここは焦らすとしましょう!」

「じっくりコトコト焦らすとしよう!」


 なんだか先行き不安な展開に。


「まずは力を8つに分けて」

「力を取り戻すたびに1つずつ」

「今回はその1つをあなたに返すわ」

「今回はその1つを返してあげる」

「これであなたも立派な荷物持ち」

「引っ越し作業も楽々簡単!」


 ……つまり、アイテムボックス的な能力が使えるようになるということだろうか。

 楽しそうに俺の周りを飛び回る精霊たち。

 しかしやがてパタッととまり、真剣な表情でこちらを見つめる。


「時空魔法は強大な力」

「だからこそ僕らは制限をつける」

「あなたが力に酔わない様に」

「あんたが力に溺れない様に」

「時空魔法は強大な力」

「そしてあんたは魔法の王」

「決して使い方を間違えないで」

「これは僕らの心からの願い」


 そう言って二人は互いの胸に手を当て、唱える。


「「【制限解除リミテッドアンスィール】」」


 そして放たれる灰色の光。

 先ほどの氷属性ほどではないけれど、8つに分けてもこれだけ輝きを放つとは。

 その光は眩く輝き、そして俺の魂へと入り込んでくる。


「ちゃんと定着したみたいね」

「ちゃんと定着したみたいだ」


 互いに顔を見合わせ微笑む二人。


「その魔法は【時空保存】」

「物を保管し、時を止める」

「あなたの眷属との相性も良さそう」

「しっかり考えて上手に使えよ!」


「うん、ありがとう。大切に使うよ」


 俺の言葉に嬉しそうに笑う二人。


「それじゃぁ今日はここまでね」

「それじゃぁ今日はここまでだ」

「またいつかお会いしましょう」

「案外すぐに会えるかもね!」


 2人がそう言うと、再び周りが歪み始める。

 そのままフェードアウトするかと思いきや、やはり最後に不穏な言葉を。


「そうそう、あなたの時空魔力はまだまだ未熟」

「ペット召喚はオススメしないな!」

「どうしてもと言うなら止めはしないけれど」

「その時はちゃんと覚悟しておいてね!」


 うわー、めっちゃやってみたい。

 とりあえず、このことは後でアンナ達にも相談した方がいいかなぁ。

 いいよなぁ……。

 よし、黙っておこう。


 そうして俺の視界は歪んでいき、やっとのことで入り口の門へと帰ってこれた。

 周りには俺の顔を見て安心するアンナ達の姿。

 はぁ、なんだかどっと疲れが出てきたよ。


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