ペット創造
「えっと……なんで?」
何がマズかったのか全く分かっていない俺。
そんな俺の問いに、彼女はため息をつきつつ話し出す。
「なんでってあんた。……そうか、あんたは何も知らないんだったねぇ。まぁ簡単に言うとだ。あんた以外にも異世界からの転移者っていたんだよ。しかも皆何かしら特別な力を持っていてね。だからこそ権力者たちに狙われて、その争いに巻き込まれて……あとは分かるね?」
アンナの口から衝撃の事実。
「……マジで?」
「マジさ。権力を持っていてもそれを正しく使えなくちゃ何の意味もないって言うのに。ほんとこの国の奴らときたら……っと、すまないね。兎に角、あんたが異世界人だってことはくれぐれも人に話すんじゃないよ!」
そう強く言い含めてくるアンナ。
マジかー。
知らなかったらベラベラしゃべっちゃう所だった。
危ない危ない。
「ごめん、アンナ。あとありがとう」
そう言って頭を下げる俺。
しかしアンナは笑って答える。
「これから気を付けてくれるんなら、別に構やしないさ。それに私は元々……いや、なんでもない。そう言えばケイトの【ペット創造】のスキル。あれも早速試してみたらどうだい?」
何かを言いかけていたみたいだけれど……。
まぁいいか。
それより確かにスキルだスキル!!
【ペット創造】。
そう言えば家に引きこもっていた時は、よくペットボトルにお世話になっていたなー。
文明の利器だね。
「ってそうだ。スキルってどうやって使うの?」
俺の質問にため息で返すアンナ。
「はぁ。ほんと他でそういうことあんまり言うんじゃないよ? すぐ怪しまれちまうからねぇ。まぁまず会話が出来ないから大丈夫だとは思うけれど」
ぐさぐさ抉ってくるなぁこの女。
別にいいけどさ。
「スキルの話だったね。んー、多分これは安心感や人見知りみたいな常時発動型のパッシブスキルじゃなくて、意識して発動させるアクティブスキルだとは思うんだけど……とりあえず使うことを意識して口に出したらどうだい?」
なんとも適当なアドバイスである。
俺は言われた通り口にしてみる。
「ペット創造!!」
すると目の前にボフンッと現れたのは、一つの500mlのペットボトル。
……えっと。これだけ?
何となく予想できてたとは言えこれは……。
俺が拍子抜けしていた一方、アンナは少し考え込んでいる様子。
どうしたんだろう。
「……アンナ?」
俺の声にハッと気づき、こちらを見るアンナ。
「あ、あぁすまない。これは物質創造スキルだね。結構珍しいタイプのスキルだ」
おぉ、なんかレアらしい。
「それってすごいの?」
「う~ん、どうだろうねぇ。物質創造もピンキリだから何とも言えないよ。レアはレアだけどね」
むぅ。喜んでいいのかどうか分からん反応だ。
アンナは地面に転がるペットボトルを拾い上げると、まじまじと見ながら俺に問いかける。
「んで、これはどうやって使うんだい?」
「えっと、水とか液体を中に入れて持ち運ぶんだ。漏れないし、軽いし、落としても割れないから便利だよ」
ペットボトルの良さを必死にアピールする俺。
すると目を見開き実際にペットボトルを落としてみるアンナ。
「っは~、そりゃすごいね。旅の道中にはもってこいじゃないか。……ちなみにこれは自分で動いたりもするのかい?」
ん? どういうことだろう。
「えーと、ペットボトルにそういう機能はついていないけど……」
返答に困っていると、アンナが慌ててフォローしてきた。
「いや、変なこと聞いちまったね。すまない。忘れておくれ」
そう言って、再びペットボトルの利用法についてブツブツ考え出すアンナ。
一体何だったんだろう。
まぁ確かに、アンナの反応見た感じじゃこの世界の文化レベルは低そうだし、ペットボトルなんて完全にオーパーツだ。
色々想像を膨らませたのかもしれない。
ペットボトルは本当に便利な道具だ。
これがあれば簡単に金儲けも出来ちゃうかもしれない。
だけど……
「でもこれ人前でやったら絶対目立つよね?」
「そうさねぇ。確かにこれはマズいかもしれないね。こんな便利なもの、すぐに目ざとい商人か貴族に捕まって永遠に作らされるのが落ちだろうさ」
やっぱりかー。
折角のスキルなのに使えないとか本当終わってるなー。
もう一つも完全にマイナススキルだし。
はー、なんかもう嫌になってきた。
「まっ、でも私と二人でいる時には別にかまやしないよ。こんな便利なもの使わない手は無いだろう?」
そう言ってニヤリと悪い顔をするアンナ。
それもそうか。
人に売ったりしなければいいだけだよな。
「確かにそうだね。じゃぁ何個か作っておこうか」
そう言って、ペットボトルを次々に創造していく。
するとアンナから待ったがかかった。
「ちょっ、ちょっとやめな! あんたそんなことしたら魔力がすぐ切れちまうよ!!」
なんと、魔力とな。
やっぱあるのか―、魔法。
「えっと、俺も魔法って使えるの?」
そんな俺の問いかけに呆れるアンナ。
「あんたねぇ。いいかい? 魔力ってのは使いすぎると最悪死ぬことだってあるんだ。まぁ異世界人はみんな魔力は多いらしいから簡単に魔力は尽きたりしないだろうけど……でもさっきみたいなことは迂闊にするんじゃないよ?」
いきなりのお説教である。
しかし死んじゃうのか、魔力切れ。コエ―。
気を付けよう。
「あと魔法だけどねぇ。あれは小さいころからちゃんと修業した人たちが使えるもんであって、そこらの人間がホイホイ簡単に使えるようなもんじゃないんだ。特に大っきな魔法はね。加減を知らないとさっき言ったみたいに死ぬことだってあるから、普通は勝手に覚えようとはしないんだよ」
そっかー。残念。
「でもまぁ私は生活魔法程度なら教わって習得しているから、また時間があれば教えてやるさ」
「マジで!?」
アンナの提案に思わず食いついてしまった。
「ハハ、えらい食いつきようだねぇ。そうか、あんたの世界じゃ魔法は無いんだっけねぇ。まぁそれは今度の楽しみに取っておくとしようかね」
むむむ、中々焦らしよる。
「というかアンナ、これからも俺と一緒にいてくれるつもりなのか?」
なんか今後一緒にいる流れになってる気がするけど、念のため確認を。
「ん? そりゃあんたを放っておいたら、異世界人だってバレて取っ捕まるか、何かしでかしておっちんじまうかのどちらかだろうからねぇ。乗り掛かった舟だ。私が面倒見てやるさ」
なんと。
29にして紐にしてあげる宣言をされてしまった。
「でも俺なんかでいいのか?」
念のため確認。念のため。
「まぁこれも何かの縁さね。別に結婚しようってわけじゃないんだ。あんたが自立出来るまではパーティーでも組んで一緒に面倒見てやるってだけだよ」
あ、そゆことね。
まぁですよねー。しゃーないしゃーない。
……いやこれ普通にありがたい話だったわ。
なんていい女なんだアンナ。
よし、全力で乗っかろう。
「よろしくお願いしまっす、姉さん!!」
俺の全力姿勢に引き気味のアンナ。
「やめとくれよ姉さんだなんて。というかあんたの方が年上だろう? しゃんとしとくれよ!」
そう言って、俺の背中をビシッと叩くアンナ。
だからアンナの攻撃めっちゃ痛いんだって。
「じゃぁまぁこんな所にいつまでも居るわけにもいかないから、さっさと移動しようかね」
そう言って歩き出そうとするアンナ。
しかしその前に片付けなければならない案件が。
「アンナ、これどうしよう」
そこには無造作に積み上げられたペットボトルの山があるのでした。