異世界転移の真実
少し説明長いです。
「待っていましたよ。――魔王」
女性の声に驚き、声の方へと視線を向ける。
するとそこには、サラサラと揺れる白を基調としたドレスに身を包んだ一人の美女の姿が。
神々しいまでのその美しさは、しかしなんだか空々しく、作り物の様にも見えてしまう。
「精霊……」
俺の声に、ニコッと微笑んんで答える女性。
ただどことなく胡散臭い気もする。
そんな俺の気持ちに気づいたのか、精霊が言葉を告げる。
「この姿はあなたと対話するために人に似せて創った仮の姿。かなりの力を要するため長くはもちません。少々の違和感はご容赦くださいね」
なるほど。だからどこか嘘くさかったのか。
納得だ。
というか……。
「魔王?」
ここへ来た時、最初に彼女に言われた魔王という言葉。
俺の事、なんだろうか。
俺、魔王になった覚えはないんだけれど……。
ただ何故か、魔王と呼ばれることに違和感をあまり感じない自分がいる。
――俺実は、魔王と呼ばれたい願望とかあったんだろうか。
そんなくだらないことを考えていると、俺の戸惑いに気づいた精霊が微笑みながら話を続けた。
「あなたが戸惑うのも無理はありません。ただ時間があまり無いため、要点だけをお話しするとしましょう。今から話すことは全てが真実であり、そしてこれからあなたが乗り越えなくてはならない未来です。心して聞いてくださいね」
そんな彼女の言葉に、俺は素直に頷く。
色々と話してくれるみたいだし、ちゃんと聞いておかないと。
精霊って勝手な存在って聞いてたし、機嫌を損ねられでもしたら大変だからね。
俺が素直に頷いたのに満足したのか、精霊は饒舌に話し始めた。
「ここに封印されている魔王の欠片。これは約500年前魔王を討伐した際、その力を分けて封じたものだということはすでにご存じですね?」
それは確かジョイから聞いたな。
そしてそれをドク達一族が守ってきたんだ。
「私たちは魔王の魔力の源である魂を9つに分けて、それぞれが封印しました」
ふむふむ……ん?
「9つ? 確か8つって……」
ジョイの話では確か8つって言っていたはずだ。
というか、人の魔力って魂に宿るんだ。
知らなかった。
「ふふ。確かに無用な混乱を避けるため、一般にはそう伝わっているのかもしれません。しかし変だとは思いませんか? この世界の魔力には8つの属性以外にもう一つ、誰もが持つ属性があるでしょうに」
誰もが持つもう一つの属性……あ。
「無属性……」
そうか、いわれてみれば確かにそうだ。
魂にどういった形で魔力が収まっているのかは分からないが、全ての属性の大元である無属性がどこにも封印されていないのは確かにおかしい。
じゃぁその9つ目の欠片は、一体だれが封印しているというんだろう。
「この500年の間、8つの欠片はそれぞれの属性の精霊と戦士たちが管理してきました。そしてそれらの大元であるもう一つを管理されてきたお方。その方こそが、私たち精霊やあなた方人間たちを含めたこの世界全ての産みの親である、創造神様なのです」
……うーむ。
あまり聞きなれない創造神という単語。
いや、以前アンナ達に常識を教えてもらった時に聞いてはいたけど、俺あんまり神様とか信じてなかったから聞き流してたんだ。
でもこの世界には本当にいるらしい。反省反省。
で、その創造神様が管理していた9つ目は、一体どこに封印されているんだろう。
神界とかだろうか?
しかし俺の疑問に、精霊は驚きの答えを返してきた。
「そしてその9つ目は現在、あなたの中にあります」
「……俺?」
戸惑う俺に精霊は続ける。
「正確には、あなたの魂の中に魔王の魂が封印された状態でしまってあるということですね」
いやいや、ことですねと言われましても。
えっと……どゆこと?
しかし俺の疑問に一々答えるつもりはないのか、ニッコリ笑って話を続ける精霊。
黙って聞けということですね。はい。
「そもそも魔王という存在は、元は一人の人間でした。しかしその人間が次々と人の魂を取り込んでしまい、一つの魂を膨れ上がらせた存在。それが魔王なのです」
なんだかすごいネタバレを聞いている気がする。
まぁいいや。
最後まで聞こう。
「私たちは彼の体を消滅させることは出来ましたが、魂はまた別です。通常の魂は輪廻転生の流れに則り、体が消滅すれば浄化され新しい命に宿り地上に誕生するわけです。しかし魔王の膨れ上がった魂は簡単に浄化することも出来ず、そしてもちろん輪廻転生の流れに乗せることも出来ませんでした」
魔王の魂が大きすぎて浄化するのに時間がかかって、しかもそのまま転生させちゃうとでっかい魂のままだからえらいことになるってことか。
「ですので、我々はそれを1つの本体と8つの力に分け封印したのです。8つに分けられ私たちが封印している魔王の欠片は、いわば魂の贅肉部分。力そのものを封印しているため、我々精霊で何とかすることが出来ました。しかし本体は違います。魂そのものですからね」
うーむ、難しくなってきた。
頑張ってついていこう。
「魂は、神界に連れ帰ってしまうとその存在がとても不安定になるためとても危険でした。なので地上で封印するしかなかった訳なのですが、その時に封印する場所として選ばれたのが、あなたたち異世界人なのです」
むぅ。
つまりだ。
俺たち異世界人は、魔王の魂を浄化するための器としてこの世界に送られてきたってことか。
「そして長い年月を掛けて浄化されてきたわけです。その際、魔王の魂と異世界人の魂が反応し合って様々なスキルが生まれる訳なんですが、これはひとまず置いておきましょう」
ムムム??
今とっても大事なことを言った気がする。が、黙って聞きましょう。
「そして500年をかけてその魂は大方浄化され、その封印も解かれつつあります。しかしその結果、私たちが封印していた8つの力の方が本体である魂に反応してしまい、魂を求める様に封印を破ろうとしてしまっているわけなのです」
うーん。ジョイから聞いていた話とちょっと違う気もするけど、とにかく8つの力の封印がやばいってことだな。
「そこで創造神様は8つの力を無理やり抑えるのではなく、浄化された元の魂に戻そうと考えたのです」
おぉ、なるほど!
それなら良い魔王が誕生して安心だ。
じゃぁ俺のお役目もここで御免ってことかな?
「しかし魔王の魂は膨大過ぎてこの世界の生命に宿すことが出来ません。ですから、あなたをここに呼んだと言う訳ですね」
「えーと……つまり?」
「あなたの魂と魔王の魂を融合させ、そこへ8つの力を取り戻させる。つまり、あなた自身に新たな魔王となってもらうと言う訳です」
……。
「よくぞここまで来てくれました。待っていましたよ。新たな魔王」
そういって、冒頭のセリフに戻った精霊。
その笑顔には、有無を言わせない謎の圧力が込められていました。




