表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/33

対ゴブリン

ケイト、初の一人戦闘。

因縁のあいつと決着を付けます。


 目の前に現れたゴブリンと対峙する。

 彼の右手には粗末な、しかし当たればタダでは済まないであろう太い棍棒が握られている。 

 胸の鼓動が早く、そして強くなっていくのが分かる。


 あの時はただ逃げ出すことしか出来なかったけれど、今は違う。

 今の俺に出来ることを、全力でぶつけてやろう。


 ゴブリンが俺に対して、強い敵意の籠った視線を送ってくる。

 嫌な汗が背中を伝う。

 先ずはあの視線をどうにかしなくては。


 俺は2つの方向付け・・・・・・・を意識しながらペット創造を発動する。

 サイズは500mlよりももっと小さい栄養ドリンク程度のものでいい。

 サイズが小さいため、すぐにボフンと音を立てて手元に現れるペットボトル。

 俺はそれをいくつも創造していく。


 俺の行動を訝しんだゴブリンが、俺の下へ一気に駆けつけようとしてくる。

 俺はそれに合わせて、創造したペットボトルをゴブリンの方向へ投げつけてやる。

 咄嗟に防御姿勢に入るゴブリン。

 しかし、俺の投げたペットボトルは一つとしてゴブリンに命中することは無かった。


 狙いが外れたため、こちらに向けてニヤリと嗜虐的に笑うゴブリン。

 そして彼は再びこちらを攻め立てようとしてくる。


 ゴブリンの迫力に俺は少し焦りを感じてしまう。

 が次の瞬間、


 ――カラン、コロン、カラン。


 という音と共にゴブリンの足も止まった。


 ……ふぅ、良かった。


 作戦が一応成功し、安心する俺。

 ゴブリンが足を止めたのは、もちろん俺の投げたペットボトルのせいだ。

 あのペットボトルに俺が込めた2つの能力。

 【注視】と【弾性】だ。

 

 敵の注意をひきつける注視と、跳ねることで音を出してより注視しやすくするように付けた弾性。

 この2つの能力を付けたペットボトル達が、決して広くはない通路の中ゴブリンの周りを跳ね回る。

 ペットボトルが鬱陶しいのだろう。俺に向かうことなくペットボトルを破壊しようとするゴブリン。

 しかし彼の棍棒に当たったペットボトルは、その力に逆らうことなく弾き飛ばされ再び跳ね回る。

 俺の創造したペットボトルは、その魔力が尽きるかペットボトル自体が破壊されない限りは、その能力を失うことは無い。

 今回の場合は、棍棒で叩き潰されない限りはかなりの間跳ね続けてくれるだろう。

 魔力だけはアホ程込められているしね。


 しかしそうは言っても所詮は無属性の魔力、じきに効果の限界がくるだろう。

 と言う訳で俺は無限に近い魔力というアドバンテージを利用し、同じペットボトルをどんどんと量産し投げつけていく。

 

 ペットボトルを叩きまわるゴブリン。

 その周りを埋め尽くす様に跳ね続けるペットボトル。

 なかなかにカオスだ。


 とは言え、このままでは埒が明かない。

 いや、このままゴブリンが疲れ果てるのを待ってもいいのだろうが、もしゴブリンが注視に耐性でも出来てしまったら俺がヤバイ。

 知能は低そうだから大丈夫だとは思うけれど念のため。

 と言う訳で、俺は次のペットボトルを用意する。


 先ずは先日マトリョーシカを創った際のと同じものを1つ。

 俺の身長と同じサイズの防御用ペットボトルだ。

 これには【衝撃吸収】と【加重】を付加してやる。

 サイズが大きいため、たった二つの能力付加でも創造の際に数分の時間を要してしまう。

 この数分の時間、俺は無防備になってしまうためかなりドキドキするんだ。

 いや、創造中も歩いたりするくらいなら大丈夫なんだけれど、集中していないとちゃんと能力が付加されずにただのおっきなペットボトルが創造されてしまうのだ。


 跳ね回るペットボトルを追いかけるゴブリンを傍目に、俺は無事等身大ペットボトルを創造し終える。

 俺はそれに体を隠し、次のペットボトルの創造に入る。

 次に付加する能力は一つだが、魔力を多く込めてその効果を出来るだけ上げるため、サイズは2Lに。

 サイズが大きくなればなるほど、込められる魔力も多くなりその効果も上がるらしい。

 

 そうして現れる一つのペットボトル。

 しかし現れたのは俺の手元ではなく・・・・、俺が隠れる等身大ペットボトル――めんどくさいのでバリケードと呼ぼうか――の向こう側・・・・

 

 ジョイたちとの検証の際、このペットボトルの出現位置も調節出来ないかと色々試してみたのだ。

 そして分かったことは、付加する能力が少ないほど、そしてサイズが小さいほど、出現位置を自分から離すことが出来るということだ。

 何も考えずに創造した500mlのペットボトルでは、10mほど離して出現させることが出来る。

 今回創造したペットボトルは2Lサイズで付加能力は1つ。

 なので出現距離は5mが限界だ。

 

 俺はバリケードボトルに身を隠しつつ、現れたペットボトルを見守る。

 空中に現れ、床へと落ちていくペットボトル。

 そしてそれが床に落ちた瞬間――


 ドゴンッ!!


 短い爆発音とともに、あたりに衝撃が広がる。

 俺が付加した【爆破】の効果だ。

 検証の結果、これは現れた瞬間ではなく、一定以上の衝撃を受けた時に発動する仕組みになっていた。

 この一定以上の衝撃・・・・・・・というのが厄介で、実験の際俺が手に持っただけでも発動してしまったのだ。

 

 実験した際は、過剰なほどの防具や防御用エンチャントを施してもらっていたことと、無属性魔力自体の効果の低さのおかげで大事には至らなかったが、これには俺もかなりビビってしまった。


 これをきっかけに色々と付加する能力の検証を行ったのだが、結果この能力付加の融通の利かなさが改めて露見した。

 注視なんかの能力は俺には効かないみたいなんだけれど、アンナ達パーティーメンバーには効いてしまう。

 まぁこういった類の能力は、一定の知能を持っているものや経験を積んでいるものならばじきに耐性が付くらしく、彼女たちにも繰り返すうちに効かなくなったが。

 

 しかし、攻撃方面の融通の利かなさはもっと酷い。

 爆破などの範囲攻撃系は、発動者である俺も関係なしの無差別攻撃に。

 これはもちろん武器にも同じことが言える。

 当てた瞬間に強い衝撃を与える【衝撃】の能力を付加してみると、握った瞬間自分の手に衝撃が放たれてまともに握れやしない。

 どうしろって言うんだ。


 と言う訳で、爆破一つ起こすにしても、こうやって色々と下準備が必要になってくるわけなんです。

 爆風によって吹っ飛ばされるゴブリンと挑発用のペットボトル達。

 ゴブリンはというと、衝撃で飛ばされはしているものの、割とピンピンしている様子。

 やっぱり無属性魔力だと、ゴブリン一匹倒すのにも苦労しそうだなぁ。

 まぁそれなら同じことをひたすら繰り返すだけである。


 俺は再び【注視】と【弾性】を込めたペットボトル――デコイボトルと呼ぼう――を量産し、ゴブリンへと投げつける。

 投げつけられたデコイボトルを見た時のゴブリンの絶望した表情がすごかったけれど、気にせず投げる。

 ゴブリンは嫌がりつつも、体は正直なのかデコイボトルを追いかけ始める。

 俺はその間にバリケードボトルを創って……と何度か同じことを繰り返すことで、ようやくゴブリンが倒れて動かなくなった。


 ゴブリン一匹倒すのに、一体どれだけの魔力と時間とペットボトルを使っているんだという話である。

 確かに危険を冒せば多少短縮はできただろうけど、俺は安全第一でいかせてもらいます。

 

 ゴブリンに近づくと、まだ手がぴくっと動いていた。

 うーん、これどうするべきなのかな。

 外でならここで情けを掛けるなんてことするべきじゃないんだろうけど、ここは試練の空間。

 必ずしも殺す必要は無い気がするんだよなぁ……。


 ……いや、違うか。

 俺は逃げているんだ。

 自らの手で命を奪うという事実から。


「ふー……」


 俺は大きく一呼吸し、一つのペットボトルを創造する。

 付加した能力は【業物】。

 切れ味を大幅に上げる能力である。


 ……丸みを帯びたフォルムが売りのペットボトルのどこで切るんだって話なんだが、一つだけあったのだ。とんがった場所が。

 キャップのふたの端だ。

 

 俺はキャップを外し、ふたのとがった部分をゴブリンの心臓の位置へとあてがう。

 そして蓋の上から力を込めて一気に心臓へと押し込んだ。

 途中俺の手がゴブリンの折れた肋骨に当たったのか、鋭い痛みを感じたが気にしない。

 ゴブリンは苦しそうに何か呻いていたが、やがてそのまま動かなくなって消えてしまった。


 俺はもう一度深呼吸をして、ゴブリンの死体のあった場所を見つめる。

 死体が消えたことで、これが試練なのだと改めて実感する。

 が、生き物を殺したなんとも言えない罪悪感の様な物はぬぐい切れなかった。


 もちろん、加重を施したペットボトルで押しつぶして止めを刺すという方法も考えたが、それはなんか違う気がしたのでやめた。

 それに、いずれこういう機会はきたんだ。

 今のうちに経験出来て良かったということにしておこう。


 こうして俺は、ゴブリンとの長い長い決着に幕を閉じた。

 といってもまだゴブリン一匹倒しただけなんだけどね。


 俺は一人で笑いながら、周りを見渡す。

 そこには大小様々な無数のペットボトルが散乱していた。


 ……これどうしよう。


いつもご愛読いただきありがとうございます。

この度再びレビューをいただくことができました。

感謝の念に堪えません。

拙作では御座いますが、これからも応援のほどをよろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ