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試練へ

 ジョイに先導され、俺たちは結解の中へと通じるという門へと移動する。

 辿り着いた場所には、巨大な白亜の門が一つ。

 思っていたよりもシンプルだが、この先が精霊の試練に通じていると思うとなんだかすごいものに感じてしまうから不思議だ。

 胸の辺りが少しざわついてくる。

 振り向くと、ジョイが俺をみつめて口を開く。


「こっから先は私たちはついて行けねぇでし。まだ不安は残るでしが、まぁ一回で達成する必要は無いんでし。気楽にやって来いでし」


 変にプレッシャーを掛けまいと励ましてくるジョイ。


「うん、とりあえず出来る所までは頑張ってみるよ」


 そんな俺の頼りない返事に彼女は苦笑する。

 精霊の試練は、生きて帰りさえすれば何度でも挑戦できるようになっているらしい。

 ペット創造スキルの検証にある程度目途が立ったため、先ずは入ってみてその感触を試してみることになったのだ。


「本当に一人にしちまって大丈夫なのかねぇ。焦って無茶なことしないように気を付けるんだよ」


 ジョイの横に並んでいたアンナも、心配そうに声を掛けてくる。

 助言が完全にオカンだ。

 俺はアンナに大丈夫だよと返すが、アンナは何故か余計に心配げな表情を浮かべた。

 解せぬ。


 俺がアンナの態度に不満を抱いていると、ドクも少し言いずらそうに声を掛けてくる。


「あー……もし精霊にあったらよ。俺を旅に出した理由とか聞いといてくんねぇか? 気になっちまって仕方がねぇんだ」


 ジョイからの話を聞いてから、ずっと気になっていた様子のドク。

 確かに、俺とドクが出会うことも精霊は知っていたみたいだし。俺も気になる。

 でも精霊ってそんな簡単に会えるもんなのかな?


「まぁ出来たらでいいんだ。こんな機会滅多にねぇからよ」


 精霊は基本勝手なんだ、とドクは言う。

 ジョイの巫女スキルにしても、向こう側から一方的にお告げが下されるだけで会話が出来る訳ではないらしい。

 でも俺の場合向こうからの指名だから、もしかしたら会話できるんじゃないかというのがドクの考えだ。


「わかった。もし話が出来たら聞いておくよ」


 俺の言葉に安心するように頷くドク。

 でもまだ試練も突破できるか分からないのに、少し気を急き過ぎている気もするけどね。

 俺がそんなことを言うと、ドクが笑いながら答えた。


「はは、確かにな。ただ、お前なら必ずやってくれるって気がするんだ。不思議とな」


 そう話すドクの顔からは、嘘をついている様には感じられなかった。

 それだけ俺のことを信頼してくれているということかもしれない。

 ちょっとうれしい。

 

 3人から励ましをもらった俺は、ナーシャの方へと顔を向ける。

 するとナーシャも心配そうな顔をしながら笑いかけてきた。


「にゃははー。私はケイトならまたにゃにかしでかしてしまう気がしてにゃらにゃいけどにゃー。まぁでも私も無理はしてほしくにゃいのにゃ。何があっても、ケイトは今のケイトのまま変わらないでいてくれにゃ」


 そう言っていつもの様にからかってくるナーシャ。

 彼女なりの励ましなのだろう。


 俺は4人の顔をもう一度見て口を開く。


「行ってきます」


 俺の言葉に頷いて返す一同。

 俺は振り返り門と対峙する。


 門の中は真っ暗で、門と外の境には膜の様な物が張られているようにも見える。

 ゴクリとつばを飲み込み、その膜に少し触れてみる。

 すると触れたところを中心として、水面に水滴を落としたかのように波が広がっていった。


 おぉ、不思議ゲートだ。

 と俺がアホなことを考えていると、先ほどから感じていた胸のざわめきが一瞬強くなった気がした。

 俺は驚いて咄嗟に触れていた手を膜から放す。

 するとざわめきもしぼむ様にしておさまっていく。


 ……今のは何なんだろう。

 俺はもう一度膜に触れてみる。

 すると先ほど以上に波打つ膜と、一層強くなる心のざわめき。

 この先の何かに俺の体が反応している……?

 さっきまでは平気だったのに、急にこの門をくぐるのが怖くなってきた。


 とその時、俺の背中にバシン!! と来る懐かしい衝撃。

 俺が驚いて顔を向けると、アンナが心配そうにこちらを見つめていた。


「大丈夫かい? 急に変な顔をして固まっちまってたみたいだけど……無理そうならまた日を改めたらどうだい?」


 背中の衝撃とアンナの声に安心する俺。

 アンナの言葉に心が揺れてしまう。

 がその時、俺の耳に村の外から戦闘音が届いてきた。

 そしてふと思い出す、武装した子供たちの顔。


 俺はスーッと深呼吸を繰り返し、自分の両手で頬をバシンと叩く。


「大丈夫。行くよ」


 俺の声に、「そうかい」と言って笑って返すアンナ。

 そしてもう一度背中を叩いて送り出してくれた。


 俺もその背中からのエールに応える様にして、門へと足を一歩踏み出す。

 門の中へ沈む様にして入っていく俺の体。

 胸のざわめきがどんどんと強くなるが、もう立ち止まらない。

 俺はそう心に決め、門の中へと入っていった。







 門をくぐると、そこはどこかの城の廊下の様だった。

 外からの光は無く薄暗いものの、松明たいまつが等間隔に並べられ辺りを照らしている。

 甲冑なども点々置かれていて全体的に西洋的ではあるが、何となく違和感がある。

 いや、お城なんて来たことないから違和感というのもおかしいんだけど。

 ただ何と言うか――


「……懐かしい?」


 そう。どこか懐かしく、それでいて切ない思いを感じてしまう。

 先ほどから感じていたざわめきも、かなり強くなってきているのが分かる。

 このざわめきは一体何なんだろうか。

 魔力を感じる時の感覚に似ているが、少し違う気もする。

 なんだか誰かに呼ばれているよな、そこに行かなくてはいけないような不思議な感覚。

 

 まぁでもとりあえずここでじっとしていても仕方が無い。

 俺は意を決して廊下の先へと歩を進める。


 しばらく行くと、前方から感じる一つの強い視線。

 少し緊張しつつ目を凝らして先を見つめると、そこには懐かしい顔が見えてきた。

 この世界で最初に出会った種族。

 

 そう、ゴブリンだ。


遂にケイトが試練へ挑みます。

試練の先には一体何が待っているのか。


今日はいける所まで投稿します。

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