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魔力の方向付け

ケイトの俺ツエーが遂に……!?

 自重するとは決めたものの、もうすでに早く試したくてうずうずしている自分がいる。


「なんなんでしかその顔は。絶対に何か良からぬこと考えてるでし! 絶対やっちゃダメでし! 絶対でしよ!!」


 ジョイがしつこく念を押してくる。

 そんなに言われるとやりたくなってしまうんだが。

 わざとだろうか。


「はぁ。なんだかお前はやるなと言ってもやってしまいそうでし。なら小出しに発散させてやるでし。まずはそうでしねぇ……危険のなさそうな硬化・・辺りからやってみるでしよ」


 お、早速か。

 でも硬化かぁ。まぁいいや。

 えーっと、ペットボトルが固くなるようなイメージを持って創造したらいいんだよな。

 固いもの、固いもの……。

 ただ固いと言えば鉄とかだよな。

 ……でも、それだとこの世界では弱い気がする。

 だったら、固さに加えてもっと衝撃を吸収してくれるようなイメージにしてみよう。

 ついでに耐熱、耐冷、それから耐電とかもつけちゃって……よし!


「ペット創造!!」


 気合を入れて、発声してみた。

 いつもよりも、もっていかれる魔力が多い気がする。

 しかし、その魔力も徐々に収まっていき、やがてしぼむ様にして消え去ってしまった。


「あ、あれ?」


 いつもならここでボフンっていってペットボトルが出てくるはずなんだけれど……なんでだ?

 もしかして欲張り過ぎたからかなー。

 よし、それじゃぁ次は硬化と衝撃吸収だけにしてみよう。


 二つの方向付けに意識を絞り、スキルを発動する。


「ペット創造!!」


 今度は問題なく魔力が流れてくれているみたいだ。

 自分の魔力を感じれるようになって分かったけど、このスキルを使うと体の中を魔力がすごい勢いで流れていくのが分かる。

 体の中が洗い流されるみたいでちょっと気持ちがいい。


 いつもよりかなり時間はかかったが、十分魔力が溜まったのかボンっと音を立ててペットボトルが出現した。

 うーん、見た目はいつもと変わらない。

 けどなんか、纏ってるもや・・がすごい。

 それだけの魔力を纏っているってことなのだろう。

 ……。

 これってやっぱりまずかったかな?

 でも、ただ丈夫にしただけだから問題ない……はず。


 そんな現実逃避をしつつ横に顔を向けると、横で見ていたジョイとドクがパックリ口を開けてこっちを見ている。

 いつか見た様な光景だ。

 

 となると、次に起こることと言えば――


「ケイトぉ˝ぉ˝ー……」


 腹の底から絞り出したようなアンナの低い声。

 はぁ、やっぱりか。

 ん? でも確かアンナは魔力感知なんて出来ないはずだけど……。


 そんな俺の疑問にアンナが答えてくれた。


「私もビックリだよ!! 私でも分かっちまうぐらい、そいつはやばいってことだろう? あんたまたなんてもんを生み出して……。だから私は教えたくなかったんだ。だいたい――」


 とぐちぐち言い出した。

 うーむ、そんなにやばいもんなのかなこれ。

 ただ丈夫にしただけなんだけどなぁ。

 

 俺がアンナの言葉を聞き流しながらペットボトルを眺めていると、驚きから立ち直ったジョイが話し出す。


「はぁ、これはちょっと予想以上でし。こんな魔力の濃い物質、封印の間ぐらいでしか見たことないでしよ」


 そう言ってため息をつくジョイ。


 へー、封印の間にはこれレベルのものがあるんだ。

 やっぱり魔王の欠片の影響とかなのかな?


 ジョイの横にいたドクも、恐る恐る聞いてくる。


「……ちなみに、それは何の方向性を付けたんだ?」


「えっと……硬化に加えて、衝撃吸収かな。耐熱、耐冷、耐電も付けたかったけど、うまくいかなかったんだ」


 俺の言葉に乾いた笑みを浮かべるドク。


「はは、なんだそれ。そんなこと出来てたら古代物質並みの物質が出来ちまうじゃねぇか。無属性の魔力だから大分劣化するだろうが……と言うか、二つの方向付けを成功させたのか!? なんて野郎だよ全く……」


 はははは、と諦めた顔をしている。

 いつもは笑い転げるナーシャも、「やっぱり規格外だにゃ……」とちょっと引いている。


 どうやら普通の方向付けというのは、基本的に一つしか出来ないらしい。

 攻撃なら攻撃だけ、硬化なら硬貨だけといった具合だ。

 俺みたいに複数方向付けをしてしまうのは異常なんだってさ。


 うーん、でも出来てしまったものは仕方が無いよなー。

 それに、魔法はダメダメだったけど、このスキルをうまく使えば便利な武器とかも出来そうだ。

 効果は弱いけど、これは使い捨てに出来るしね。

 おぉ、なんか滾ってきた。


 俺が次々と創作意欲を沸かせていると、隣のアンナが止めに入ってくる。


「ケイト、頼むからそれ以上はやめておくれ。私たちの気が持たないよ……。それにそのペットボトルもどうやって処理するつもりだい? スライムは方向性のついていない魔力しか食べないんじゃなかったかい?」


 あ……そうだった。

 危ない危ない。色々と作った後はスライムにいつも通り処理してもらうつもりでいたから、処理出来ないゴミを大量に作ってしまう所だった。

 しかしすでに創ってしまったこのペットボトルはどうしよう。

 いくら便利性能があっても、所詮はペットボトル。

 これでは流石に身は守れなさそうだ。


 ……あ。

 これをスライムの入れ物にすれば、今使ってる普通のペットボトルよりは安全じゃん。

 と言う訳で、スライムたちを一度全部外に出してと。


「ここに住みたい奴いるかな?」


 一応スライムたちに尋ねてみる。

 もしかしたら、方向付けした魔力は嫌いかもしれないし。


 しかし俺の予想とは逆に、一斉に興奮し始めるスライムたち。

 

 え? なになに、何事??

 ……とにかく住みたいってことかな。

 ちょっと興奮っぷりが怖いから、このペットボトルはこの子たちにあげてしまおう。


 「好きにしていいよ」とペットボトルをスライムたちに渡す。

 すると、スライムたちが一斉にペットボトルに群がっていった。

 うおぉ。なかなか壮絶な光景だ。

 

 しばらくして落ち着いたのか、ペットボトルから離れていくスライムたち。

 あれ? 住みたいわけじゃなかったのかな。

 俺が疑問に思っていると、ドクがぼそりと呟く。

 

「魔力が消えてる……」


 ドクの視線の先には先ほどのペットボトルが。

 確かに、さっきまで纏っていたもやがきれいさっぱり消えていた。

 えっと……どういうこと?

 俺の疑問にドクがかみつく。


「俺が聞きてぇよ! スライムは何の方向付けもしてねぇ魔力しか吸収しねぇんじゃなかったのかよ。いや、やっぱりケイトだからって線も――」


 とブツブツと一人の世界に入ってしまった。


 ふーむ、一体どういうことなんだろうね。

 スライムにも魔力の好みがあるのかもしれない。


 でもまぁ、とにかくこれで処理する手段も見つかったわけだ。

 これで心置きなく色々と創作できるぞ!

 まずはそうだな。これを分解して防具とかできないかな?

 それから―― 


ケイトにとって自重とはいったい……。


ケイトは色々夢を膨らませていますが、ペットボトルに付けた能力は効果自体はそこまで高くありません。

無属性なので。

超便利になっただけですね。

要は使い様です。

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