ジョイのお話
祝! 日間異世界転移ランキング文芸等部門 5位!!
本当にありがとうございます。
「それが、ドクがこの村を出るきっかけにもなったんでしよ?」
ジョイの言葉に、ドクが驚き尋ねる。
「どういうことだ? 昨日も言ったが、俺は何も聞かされてねぇぞ」
「言ってないんだから当然でし。大精霊に言われたんでしよ。ドクを旅に出せ、ただし封印については何も伝えてはならない、って。丁度ドクも外に出たがってたから、丁度良かったんでしけどね」
その言葉に、更に目を大きく開くドク。
しかし、何か得心したように考え出した。
「なろほどな。俺が村を出る時周りに止められなかったのは、てっきり大人たちが俺に呆れちまったんだとばかり思っていたが……あん時にはもう封印は弱まっていたのか」
「そうでし。大体村長の後継者であるドクを、そんな簡単に外に出す訳ないでし」
ジョイに真実を告げられ絶句するドク。
彼自身は周りの反対を押し切って村を飛び出したと思っていたのに、まさか周りもそれを推奨していたとは。
この村に来た時村の人の視線が温かかったのは、そういった理由もあったのかもしれない。
「まぁそういう訳で、ドクを旅に出した私たちは、大精霊の力を借りながら今日まで封印を抑えてきたでし。でも最近ではそれも限界で、漏れ出した魔力によって周りのモンスター達も活発化してきてしまっていたでしよ」
なるほどな。モンスター達の様子がおかしかったのはそのせいなのか。
俺が一人で納得していると、アンナがジョイに尋ねる。
「現状はある程度理解できたけど、どうしてそこでケイトが出てくるんだい? この子が異世界人だということも知っていたみたいだしねぇ」
おぉ、そうだったそうだった。
俺に出来る事なんてほとんどないと思うんだけどなぁ。
「私にも詳しくは分からないでし。ただ、ドクがこの村に帰ってくるとすれば、異世界人と一緒にいるはずだって大精霊に言われてたんでし。そして、その異世界人を鍛えて精霊の試練を超えさせる事が、私に課せられた使命なんでしよ」
そう言って、胸を張るジョイ。
精霊の試練。
昨日もジョイの口から聞いた気がするけれど、一体なんの事なんだろう。
「悪しき心を持った人間が封印に近づかない様、結解内は地下ダンジョンの様になっているでし。ダンジョンの難易度はその人間の悪意が反映されて決まるでし。魔王の欠片を悪用するような強欲な奴が入ると、難易度が鬼畜レベルにまで跳ね上がるでしね」
えっと、そんな所絶対に入りたくないんですが。
「問題ないでし。見たところ、お前に魔王の欠片を悪用出来るような甲斐性は無さそうでし。きっと、ダンジョンのレベルも簡単になるに違いないでし」
難易度が下がるのはいいけれど、なんか複雑だ。
「ま、それでもモンスターは普通に出てくるでし。試練は一人でしか挑めないようになっているから、ドク達は手伝えないでしよ。だからお前を私が特訓してやるでし。ありがたく思えでし」
そう言ってもう一度無い胸を張るジョイ。
うーん。俺にそんなことで俺が試練を超えたりできるのかな。
俺が返答に困っていると、アンナが慌てて口を挟む。
「ちょっと待ちな。一人でだって? あんたもケイトの【人見知り】については知っているだろう。この子は悪意ある視線にさらされると、まともに動けなくなっちまうんだ。多数のモンスターを一人で相手するなんて、無理に決まってるだろう」
そうだった。
いつもはアンナやスライム達が注意を引き付けてくれているから何とかなっているけれど、一人でアレの中に飛び込むのはちょっと無理そうだなぁ。
ジョイも村に着いた時に聞いているはずなんだけれど、何か考えでもあるんだろうか。
「もちろんその辺もばっちり考えてるでし。大船に乗ったつもりで任せるでし」
ジョイは自信満々に答えるが、アンナの不安は晴れていなさそうだ。
そんな微妙な空気を、ナーシャの声が変えてくれた。
「まぁにゃにはともあれ、やってみるしかにゃいんじゃにゃいかにゃ? 元々ここにはケイトの魔力について調べに来たんだし、ついでに強くしてもらえるならラッキーにゃ」
確かに。
それにもしかしたら全属性に適性があったりして、俺ツエーが出来ちゃったりするんなら、案外楽勝かもしれない。
「それに魔王の話は御伽噺でしか聞いたことはにゃいけど、ケイトが試練を超えにゃいとそいつが復活するかもしれにゃいっていうんにゃら、ケイトに託すしかにゃいのにゃ。心配にゃら、アンナは修業の間ケイトについてあげたらいいんじゃないかにゃ?」
ナーシャの言葉に、しぶしぶ頷くアンナ。
思い返すと、こちらの世界に来てから俺がアンナの下を離れた事はほとんどない。
俺が一人で試練を受けることを、アンナが心配するのも無理はないよなぁ。
よし。ここは俺がしっかりと決めて、アンナを安心させてやろう。
「アンナ、心配してくれてありがとう。でも大丈夫。俺、やる時にはやる男だからさ」
そう言ってアンナに微笑む俺。
しかしアンナはそんな俺を見て、深いため息をつく。
「あんたの場合、やるじゃなくてしでかすなんだよ。はぁ……まぁでもナーシャの言う通りかもしれないね。私もしっかり見張ってやるから、きっちり気張んなよ!」
そう言って、俺の背中を思いっきり叩くアンナ。
なんか思ってたのと違うが、元気になって良かった。
「気持ちの準備は出来たでしか?」
こちらに向かい尋ねるジョイに俺は答える。
「うん」
その答えを聞き、しっかりと頷くジョイ。
「なら、早速修業に取り掛かるでし! 魔王の欠片の封印は待ってくれないでし! ビシバシ扱くから覚悟するでし!!」
と立ち上がろうとするジョイであったが、ここで村長婦人のフェスさんののほほんとした声が。
「は~い。その前に、ご飯にしましょうね~。今日はドクちゃんがお友達を連れて帰ってくるって聞いていたから、ママ腕によりをかけて頑張ったのよ~? ジョイちゃんも一緒に食べていきましょうね?」
ニコニコと笑いながら話すフェスさん。
そんな彼女に勢いをそがれた俺たちは、少し脱力しつつもご相伴にあずかることとなった。
彼女の料理はとても温かく、そして安心させられる味だった。
色々と一気に背負わされて、いつの間にか少し力が入り過ぎていたのかもしれない。
俺たちは一度気を落ち着けてから、自分のやるべきことに取り掛かることとなった。
次回からはいよいよ修業回!
ケイトの視線対策にジョイが考えた秘策とは!?
目指せ、幻の〇人目!
ペットボトルもやっとこさ出ます。




