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カルケア山脈道中

 ホスピティの街を出発して6日目。

 道中村を1つ経由して、俺たちは昨晩ここ【カル】村へと到着していた。

 ここが今回の護衛対象であったリキッドさんたちの目的地でもある。 


「いやー、ホンマにありがとうございました。道中こんなに安心して過ごせる旅は初めてですわ!また機会がありましたら是非ごひいきに。あっ、せやせや。実はわが商会は新しい商売に手を出そうかなっていう話がありましてね――」


 と道中と変わらず話し続ける彼とは適当に分かれ、俺たちは宿に一泊。

 そして今日、ドクの故郷であるカルフィス村へと再び出発する。

 ドクに、ここからどうやって村へ向かうのか尋ねると、ちょっと衝撃的な答えが返ってきた。


「こっから少しばかり北へ歩くと山の麓に着く。そっから2日ほど登ればカルフィス村だ」


 なんと。山登りとな。

 聞いてないぞ。

 いや、立派な山脈が見えていたから嫌な予感はしてはいたが……。


「はは。まぁちゃんと休み休み行くつもりだから心配すんな。山の主でも出ねぇ限りは大した敵も出てこねぇさ。いざとなれば俺がおぶってやるしな」


とフラグを立てつつ笑って話すドク。

 ははは、背負うって。流石にそこまでは。

 ……無いとは言い切れないから、笑って返しておこうかな。


 さて、そんなこんなでドクの村に向かってラストスパートだ。

 ここまでの道中、最初のオークたち以外にも様々なモンスターと戦闘を行った。

 その中には岩の様な肌をしたロックリザードや、群れで襲ってくるグレイウルフなど、ここらではあまり見かけないモンスターもいた。

 どちらも山岳部でよく見かけるモンスターらしく、山の方から流れて来ている様だ。

 そんな状況に、ドクが心配そうに呟く。


「やっぱ山の方で何かあったのかもしれねぇな……」


 ドクの村はこの【カルケア山脈】の中腹に位置しているらしく、やはり自分の村のことが心配なのだろう。

 そんなドクに、ナーシャが声を掛ける。


「今からそんなに心配しても仕方が無いのにゃ。まずは油断せず村に着くことを考えながら、先を急ぐしかないのにゃ」


 ナーシャなりの気遣いなのだろう。

 ドクもそれに気付いて、そうだなと苦笑しつつも視線は村の方を見つめていた。







「アイスランス!!」


 ドクの放った氷の槍が、ロックリザードの頭部を破壊する。

 アレからしばらく登ってきたが、遭遇するモンスターの数は増える一方だ。


「はぁ、はぁ。やっぱ異常だぜ、この数はよ。倒しても倒してもキリがねぇ」


 ドクのぼやく通り、モンスターの数に終わりは見えない。

 進めば進むほど、まるで俺たちの侵入を拒むかのようにモンスターが壁となって押し寄せてくる。

 そんな状況に、アンナも呟く。


「これは休んでる暇もないねぇ」


 もうすぐ日が暮れてしまう。

 しかしこの状況では、ゆっくりと寝る暇もなさそうだ。

 アンナとドクがそれぞれLEDの様に光るペンダント型の魔道具を首に下げ、発動させる。

 これかなり便利な魔道具なのだが、やはりお高い様で俺にはまだ買うことは出来なかった。

 ナーシャは持ってないのかと聞いたのだが、


「そんなのに頼らなくっても、私には自分の五感があるのにゃ!」


と豪語していた。

 実際真っ暗闇な夜でも、ススススと森を移動して行く彼女。

 凄すぎてもはや不思議生物だ。


 さて、俺がそんな現実逃避をしてしまう程度には、今の状況はマズい気がする。

 アンナは相変わらずどでかい大剣を振り回しているが、このままではいずれ体力も尽きてしまうだろう。

 ドクにしても魔力を節約しつつ戦っているみたいだが、徐々に精彩を欠いてきている、気がする。

 ナーシャは……よくわからない。

 彼女、夜の方が戦いやすいらしく、「私の時間がついに来たのにゃ」とか言って闇に消えていってしまうのだ。


 俺はというと、相変わらずスライムに指示を出すだけである。

 最近では個別に指示も出せる様になってきて、今のマイブームは『一対一での頭部消化による一撃必殺攻撃』だ。

 10匹のスライムにそれぞれ指示を出し、多数の敵を屠っていく爽快感。

 なかなか楽しいです。

 最初に感じていた敵に対する若干の心苦しさも、段々と麻痺してきた。


 しかし調子に乗っていた俺は、グレイウルフの群れを攻撃していた時に危うく自分の身をウルフの攻撃に晒してしまう所だった。

 アンナとドクとナーシャ、つまり三人全員に即座に庇われて事なきを得たのだが、それからまたアンナにお説教をされてしまったのだ。

 そこからは自分の周りにスライムを半分は待機させるようにしている。


 俺の危機に何故三人ともすぐにカバーに来れたのか気になって聞いたのだが、ナーシャが笑いながら


「まぁそろそろ何かしそうだにゃと思ってたのにゃ」


と答えてくれた。

 いつもすいません。


 とまぁそんな状況なのだが、とりあえずピンチ一歩手前だ。

 俺たちがそろそろどうにかしなければと徐々に危機感を感じていると、遠くの方からモンスターたちの断末魔が聞こえてきた。

 俺たちは顔を見合しつつも、様子を見る。

 しかしその断末魔は収まることは無く、段々とこちらに近づいてきている。


 何かが来る。


 そう感じた俺たちの間に、緊張が走る。

 

 じっとりと粘つく手を服で拭いながら、俺は息を呑んでその先を見つめる。

 近づく断末魔。

 そして夜の闇に響き渡る一つの声。



「救いの巫女、【ジョイ】! 只今推参でし!!」



 闇夜の中ライトアップされた一人の銀狼族の幼女。

 白銀の巫女服を纏い、華麗にポーズを決めているが……

 何だろう。この残念臭は。


 注目を集めた彼女に群がるモンスター達。

 「危ない!」と誰かが叫ぶ。

 しかし彼女は慌てることもなく、ひと言呟いた。


「【雪花氷シュエファービン】」


 その瞬間、辺りに一斉に広がる冷気。

 まるで吹雪にでも晒されたように頭から雪を積もらせるモンスター達。

 そしてあっという間に、モンスターを閉じ込めた氷のオブジェが誕生した。

 

 まさに圧巻のひと言である。


 そんなポカンとした俺たちに、幼女のひと言が更なる衝撃を放つ。



「おかえりなさいでし、私の旦那様」



 ドクを見つめながら、可愛くこてんと首を曲げてもじもじする幼女。

 ……どうやらこの幼女、ドクの奥さんらしい。


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