初戦闘
15話にして初の戦闘シーンです。
少々残酷な表現があります。
苦手な方はご遠慮ください。
ナーシャからの緊急用の笛の音を聞いた俺とアンナは、一度馬車を止めてもらい急いで前方へと移動する。
先頭に追い付くと、俺たちに気づいたナーシャがこちらに状況を伝える。
「まだ距離はあるけど、前方の森の陰に気配があるのにゃ。数は10前後。ドクと二人だと取りこぼしがありそうだったから呼ばせてもらったにゃ」
ここまでの道中も何度かモンスターの姿はあったらしいが、いずれも少数でドクが全て魔法で倒してしまっていたらしい。
全然気づかなかった。
ナーシャの報告を聞いたアンナが逆に尋ねる。
「それ以外に敵の気配は?」
「ないにゃ。囮とかの可能性はなさそうにゃ」
前方の敵を囮にして、横から馬車を強襲。
確かにありそうな話だが、ナーシャの索敵能力の前ではあまり効果はなさそうだ。
状況を確認したアンナが、他の皆に指示を出す。
「ドクとケイトは私と前方の敵を。ナーシャは念のためここに残って周囲を警戒しておくれ。別の敵が現れたらすぐに知らせるようにね。いいかい?」
アンナの言葉に頷く一同。
よく考えたら俺、異世界に来てこれが初戦闘だわ。
これまでもゴブリンなんかの所謂雑魚的には遭遇してきたのだが、全てアンナ達が軽く捌いてしまっていたので俺にお鉢が回ってくることは無かった。
しかし今日は護衛依頼の最中だ。
俺だけ見学していると言う訳にもいかない。
いかないが――
「ケイトは一応付いて来てはもらうけど、基本は後衛で待機。念のためスライムは全て準備しておいておくれ。万が一私たちが取りこぼした場合は、スライムに攻撃させるんだ。今回は自重はいらないからね、思いっきりやんな」
俺は万が一のフォローということだ。
その場合も戦うのはスライム。
つまり俺は結局見学とあまり変わらない気がする。
「それじゃ準備は良いね? 行くよ!」
とは言えこれは命の掛かった戦闘だ。
油断はしない様にしておこう。
アンナの掛け声により、前方へと走る俺たち3人。
俺も懸命に走っているのだが、2人が早すぎて距離が開いてしまい自然と前衛と後衛のポジショニングに移行。
すると前方の木の陰より醜い豚顔にがっちりとした体格のモンスターが現れる。
オークだ。
オークというのは強靭な肉体と、木をも砕くその強力な力が特徴のモンスターだ。
一般人が出会ってしまえば、逃げ出すしかない敵である。
……が、Bランク冒険者であるアンナとドクにかかれば、そのモンスター達も然程問題ではないと言っていた。
敵を確認したドクが放ったアイスランスが、まずは最初に現れたオークに向かいその頭部を貫く。
味方が殺され他のオークが動揺している間に、アンナが群れの中へと切り込んでいった。
飛び散る血しぶきの中、大剣を両手で掲げ叩き潰す様にオークを屠るアンナ。
怖い。
一方のドクは、腕の長さ程の刀身の剣を両手にそれぞれ持ち、オーク達の間を舞うようにして切り刻んでいる。
切られたオークの傷が凍っているように見える。
おそらく剣に攻撃用のアイスエンチャントを掛けているのだろう。
二人の先頭に見入っていた俺に、オークの1匹が気づきこちらへ突進してくる。
おぉ。すげぇ迫力。
予めアンナに言われてなかったら、足が震えて動けなかったかもしれない。
俺は準備していたスライムたちに指示を出す。
「みんな。あのオークの足に取り付いて思いっきり消化してくれ。頑張ってくれたら、後でご褒美にペットボトルを食わしてやるからな」
俺の声に一斉にブルブルと震えるスライムたち。
そしてそのままオークの方へと素早く移動していった。
「うわ早っ!!」
今までも掃除でその俊敏な動きは見てきていたが、今回はその比ではない。
一瞬のうちにオークの下まで辿り着いたスライムたちは、俺の指示通りそのままオークの足へととびかかる。
10匹のスライムにまとわりつかれるオーク。そして――
「グオォォォ!!」
野太いオークの悲痛な叫び声が、森の中を木霊する。
見る見るうちに消化されていくオークの両足。
オークは堪え切れずにその場に倒れる。
「そのまま全部食べてしまっていいぞ!」
俺の指示に、スライムたちが上半身へと移動する。
オークも必死に抵抗するが、物理攻撃の全く聞かないスライムには意味がなく、また掴もうとしても全て零れてしまうため成す術無しだ。
こうして改めて見ると、スライムってかなりエグイ生き物だと思う。
それに平気で指示を出している俺も、この世界にかなり染まってきたなぁ。
そうこうしている内に、スライムたちは全てを食べ終え、アンナ達も他のオークを殲滅してこちらに戻ってきた。
こちらの様子を確認したアンナが口を開く。
「1匹取り逃がしちまったよ。でもまぁこっちも問題ないようだね」
「うん。スライムたちが頑張ってくれたから」
そう言って俺がスライムたちを見ると、彼らも皆ブルブルと震えだす。
褒めて欲しいんだろうか。
なんだか段々反応が豊かになってきた気がする。
そんなスライムたちをみて、ドクがぼやく。
「やっぱスライムってえげつねぇ生き物だなぁ。ケイトには逆らわんようにしよう」
失礼な。
俺がそんなことする訳ないじゃないか。
あ、そうだ。
「なぁアンナ。あのオーク達どうする?」
前方に広がる血と肉の海。
俺もこっちに来てかなりグロ耐性が付いたものである。
「あぁ。オークは大して価値のある部位もないし、スライムたちに食べてもらってもいいかい?」
「わかった。じゃぁみんな、あのオーク達の残骸も全部食べてもらってもいいかな」
俺の問いにブルンと応えて散っていくスライムたち。
オークの肉はラノベとかでは美味しいって書かれていたけど、この世界のオーク肉はクソ不味いらしい。
苦みとえぐみと臭みが一気に口の中を蹂躙するんだって。
想像しただけで吐き気を催してしまう。
全てを綺麗にし終えたスライムたちを連れて、俺たちは馬車へと戻っていく。
すると、一部始終を遠くから見ていた商人の代表が俺たちに感謝を述べてきた。
「いやー、見事な蹂躙劇でしたなー。オーク10匹言うたら即逃げなあかん様な敵やのに、ホンマお見事でした。こちらの黒猫族のお嬢さんもまだお若いのにかなりの索敵能力をお持ちみたいで。こんな頼もしいメンバーに護衛してもらえるとは我々は運がええ」
このちょっと胡散臭い男性が、今回の依頼者であるリキッドさん。
会った時から終始この持ち上げっぷりであったため、初めは何か他意があるのではと疑ってしまった。
しかし、この人には俺の【人見知り】があまり反応しない。
つまりは特に悪意はなく、元々こういう性格だということなのだろう。
これが【人見知り】スキル有用性を実感した初めての瞬間でもあったんだけど、なんだかなぁ。
いつまでも持ち上げてくるリキッドさんのことは適当にあしらいつつ、俺たちは先ほどの敵について話し合う。
確かこの辺りには強い敵はあまりいないはずだ。
しかし先ほどのオーク達は、はぐれにしては数が多すぎる。
この状況に、ドクが意見を述べる。
「もしかしたら、北の方であいつらよりも強い敵が現れて、逃げる様にしてこちらに流れてきたのかもしれねぇな」
その意見に、みな概ね同意の様だ。
「まぁなんにせよ、少し注意が必要さね。ナーシャには負担をかけるけど、頑張ってくれるかい?」
「当たり前だにゃ。ただ念のため、ケイトも何か感じたら教えて欲しいのにゃ」
おぉ、俺か。
確かに敵の視線を感じれば体が反応するから、少しは役に立てるかもしれない。
「わかったよ。何か感じたら言うね」
こんな凄いメンバーに囲まれながらも、自分にも出来ることがあることに喜びを感じつつ、俺たちは再び目的地へと北上していった。




